天竜川のアユ放流量が過去10年で最低水準——2026年シーズンに暗雲
2026年4月、天竜川水系の鮎釣りファンにとって気がかりなニュースが飛び込んできた。天竜川漁業協同組合をはじめとする流域の各漁協が発表した今季のアユ放流計画によると、2026年春の放流量は前年比で約30〜40%減となり、過去10年間で最も少ない水準にとどまる見通しだ。
天竜川は浜松アングラーにとって友釣りの聖地であり、毎年6月の解禁日には県内外から多くの釣り人が詰めかける。放流量の減少は友釣りシーズンの釣果に直結するだけでなく、遠州灘の海産アユの遡上や浜名湖の生態系にも波及する可能性がある。
この記事では、稚アユ不漁の背景と原因、各漁協の対応策、2026年の友釣りシーズンへの具体的な影響、そして浜名湖・遠州灘のアングラーが知っておくべき情報を、現地取材と公開データをもとに徹底的にまとめた。
何が起きているのか——稚アユ不漁の実態と数字
放流量の推移と2026年の見通し
天竜川水系では例年、漁協が琵琶湖産・海産・人工産の稚アユを仕入れ、3月下旬から5月にかけて各区間に放流している。近年の放流量の推移を見てみよう。
| 年度 | 天竜川本流の放流量(概算) | 前年比 | 主な仕入れ先 |
|---|---|---|---|
| 2020年 | 約3.2トン | — | 琵琶湖産70%・人工産30% |
| 2021年 | 約3.0トン | ▲6% | 琵琶湖産65%・人工産35% |
| 2022年 | 約2.8トン | ▲7% | 琵琶湖産60%・人工産40% |
| 2023年 | 約3.1トン | +11% | 琵琶湖産55%・人工産45% |
| 2024年 | 約2.9トン | ▲6% | 琵琶湖産50%・人工産50% |
| 2025年 | 約2.7トン | ▲7% | 琵琶湖産45%・人工産55% |
| 2026年(計画) | 約1.7〜1.9トン | ▲30〜40% | 人工産70%・琵琶湖産20%・海産10% |
注目すべきは2つのポイントだ。まず絶対量の大幅減少。例年2.7〜3.2トンの放流量が、2026年は1.7〜1.9トンと一気に落ち込んでいる。次に仕入れ先の構成変化。かつて主力だった琵琶湖産の割合が年々低下し、2026年は人工産が7割を占める構成に逆転している。
支流・気田川・大千瀬川への影響
天竜川本流だけでなく、人気の友釣りフィールドである気田川(春野町周辺)や大千瀬川(水窪町周辺)でも状況は同様だ。気田川漁協では例年約800kgの放流を行っているが、2026年は500〜600kgにとどまる計画と伝えられている。大千瀬川でも2割程度の減少が見込まれている。
なぜ稚アユが不足しているのか——3つの構造的要因
要因①:琵琶湖の稚アユ漁獲量が激減
全国のアユ放流を支えてきた「琵琶湖産稚アユ」の供給が、ここ数年で急速に細っている。滋賀県水産試験場の発表によると、琵琶湖における稚アユのエリ漁(定置網漁)の漁獲量は2023年をピークに減少に転じ、2025年冬〜2026年春の漁獲量は2023年比で約55%減という厳しい数字が報告されている。
原因として指摘されているのは以下の点だ。
- 琵琶湖の水温上昇:冬季の水温が平年より1〜1.5℃高い年が続き、稚アユの成長リズムが乱れている
- 外来種(ブラックバス・ブルーギル)による捕食圧:駆除事業の予算削減で個体数が再び増加傾向
- プランクトン量の変動:琵琶湖の富栄養化対策が進んだ一方で、稚アユの餌となる動物プランクトンも減少
琵琶湖産稚アユは「丈夫で縄張り意識が強く、友釣りに最適」と評価されてきただけに、この供給減は全国の河川に影響を及ぼしている。
要因②:人工種苗生産のコスト高騰
琵琶湖産の代替として期待される人工産稚アユだが、こちらも順風満帆とはいかない。飼料価格の高騰(2024年比で約15%上昇)と電気代の上昇により、種苗生産コストが上がっている。静岡県内の種苗生産施設では、1kgあたりの生産原価が2023年の約2,800円から2026年には約3,500円に上昇したとされる。
漁協の財源は主に遊漁券の売上だが、近年のアユ釣り人口の減少傾向もあり、コスト増をそのまま吸収するのは難しい。結果として「買える量を減らす」という判断に至っている。
要因③:海産アユの遡上量も減少傾向
天竜川には放流魚だけでなく、遠州灘から自然に遡上する海産アユ(天然遡上アユ)もいる。かつては天竜川のアユの2〜3割を天然遡上が占めていたが、近年はその割合が低下している。
静岡県水産・海洋技術研究所の調査によると、天竜川河口域での稚アユ遡上量は2024年・2025年と2年連続で低水準を記録。要因として、河口域の砂州の形状変化や、遠州灘沿岸の水温変動による稚アユの分布域のシフトが指摘されている。
各漁協の対応策——限られた資源をどう活かすか
天竜川漁協の取り組み
天竜川漁協は放流量の減少を受け、以下の対策を打ち出している。
- 放流区間の重点化:従来は広い区間にまんべんなく放流していたが、2026年はアユの生育に適した瀬・トロの環境が整った区間に重点配分する方針。具体的には、鹿島橋〜中部天竜区間と、船明ダム下流域が優先区間とされている
- 放流時期の分散:一度にまとめて放流するのではなく、4月上旬・4月下旬・5月中旬の3回に分けて段階的に放流。水温や河川環境に合わせた適期放流で生存率の向上を図る
- 海産アユの遡上促進:河口域の魚道整備と、堰堤の部分開放による遡上ルート確保を県に要請中
- 採捕規制の一部強化:解禁日の持ち帰り尾数制限(1人20尾/日)の導入を検討中(例年は制限なし)
気田川漁協の独自施策
気田川漁協は独自に「アユの里親制度」を2026年から試験導入する。これは釣り人や地域住民がスポンサーとなり、1口5,000円で稚アユの追加放流費用を負担する仕組みだ。目標口数は200口(100万円分の追加放流に相当)。3月の募集開始から4月中旬までに約80口が集まっており、一定の手応えを見せている。
遊漁券の値上げ動向
放流コストの上昇を受け、遊漁券の価格改定も避けられない状況だ。
| 漁協 | 2025年の日釣り券 | 2026年の日釣り券 | 値上げ幅 |
|---|---|---|---|
| 天竜川漁協 | 2,000円 | 2,500円 | +500円 |
| 気田川漁協 | 1,500円 | 1,800円 | +300円 |
| 大千瀬川漁協 | 1,500円 | 1,700円 | +200円 |
年券についても同様の値上げが行われる見通しだ。アユ釣り師にとっては痛い出費増だが、持続的な放流事業を維持するためにはやむを得ない面もある。
2026年の友釣りシーズンはどうなるか——現実的な見通し
解禁日(6月1日)前後の展望
天竜川の鮎釣り解禁は例年6月1日。放流量の減少は当然、解禁直後の釣果に影響する。ただし、悲観一色というわけではない。
- 放流の重点化で局所的には好釣果の可能性:放流区間を絞ったことで、重点区間ではむしろ例年並みの魚影が期待できる。特に鹿島橋周辺と船明ダム下流は要注目ポイントだ
- 段階放流で「息切れ」しにくい:従来の一括放流では6月中旬以降に魚影が薄くなりがちだったが、5月中旬の追加放流により、6月後半〜7月にかけての釣果が維持される可能性がある
- 天然遡上に期待:4月時点で河口域のシラスウナギ漁の副産物として稚アユの姿が確認されており、遡上が本格化する5月以降の状況次第では天然魚が放流減をある程度カバーする可能性もある
釣り人が取るべき対策
放流量が減る年に釣果を落とさないためのポイントを整理しておこう。
- 情報収集を徹底する:漁協の放流情報(放流日・場所・量)を確認し、放流直後の区間を狙う。天竜川漁協はSNS(X)で放流情報を発信しているのでフォロー推奨
- 瀬を重点的に攻める:放流魚が少ない年は縄張り争いが激化しにくく、トロ場ではアユが散りやすい。流速のある瀬に集まる個体を狙うのが効率的
- オトリの管理を丁寧に:貴重な1尾を無駄にしないため、オトリ缶の水温管理、鼻カン周りの仕掛けの見直し、弱ったオトリの早めの交換を心がける
- 早めの年券購入:値上げ前の購入期限がある場合もあるので、シーズン券を検討している人は早めに情報確認を
- 気田川・大千瀬川も視野に:本流が混雑する場合、支流に転戦する柔軟さが重要。特に気田川は里親制度で追加放流が見込める分、穴場になる可能性がある
浜名湖・遠州灘への波及影響——海のアングラーも無関係ではない
遠州灘の落ちアユパターンへの影響
秋になると産卵のために川を下るアユ(落ちアユ)は、天竜川河口域でシーバス・ヒラメ・マゴチの格好のベイトになる。放流量の減少は秋の落ちアユの量にも影響し、河口域の秋パターンが例年より弱くなる可能性がある。
天竜川河口サーフで落ちアユパターンを狙うルアーアングラーは、例年10月〜11月に集中するベイトの回遊タイミングが変動する可能性を頭に入れておきたい。放流魚が減れば落ちアユのピークが分散し、短期集中型から長期分散型にシフトするかもしれない。
浜名湖のアユ稚魚と食物連鎖
浜名湖にも稚アユは遡上途中に一時的に滞留する。この稚アユは浜名湖内のスズキ(シーバス)やクロダイの重要なベイトフィッシュの一つだ。稚アユの遡上量が減少すれば、浜名湖内のベイトパターンにも微妙な変化が生じる可能性がある。
もっとも、浜名湖は稚アユ以外にもハゼ類・エビ類・イワシ類など多様なベイトが存在するため、影響は限定的と見られる。ただし、春先の浜名湖奥(猪鼻湖周辺)でシーバスを狙う際のルアーセレクトには影響するかもしれない。稚アユパターンが成立しにくい年は、ハゼやエビに寄せたワーム・シンペンが有利になる場面が増えるだろう。
全国的な動向——天竜川だけの問題ではない
他県の状況との比較
稚アユの不足は天竜川だけの問題ではない。全国の河川が同様の課題を抱えている。
| 河川 | 2026年放流量の前年比 | 主な要因 |
|---|---|---|
| 長良川(岐阜県) | ▲25% | 琵琶湖産不足+人工種苗コスト増 |
| 四万十川(高知県) | ▲15% | 天然遡上減・河川環境変化 |
| 球磨川(熊本県) | ▲35% | 2020年水害からの復旧途上+種苗不足 |
| 狩野川(静岡県) | ▲20% | 琵琶湖産不足 |
| 天竜川(静岡県) | ▲30〜40% | 琵琶湖産不足+コスト増+天然遡上減 |
天竜川の減少幅が他県と比較しても大きいのは、かつて琵琶湖産への依存度が高かった反動ともいえる。逆に早くから人工種苗や天然遡上の活用に注力してきた河川は、影響を比較的小さく抑えている。
水産庁の動向
水産庁は2025年度から「内水面アユ資源回復支援事業」を立ち上げ、人工種苗生産施設の整備補助や、河川環境の改善(魚道整備・河畔林管理)に予算を配分している。2026年度はこの事業が2年目に入り、静岡県内では天竜川水系と安倍川水系が重点対象河川に選定されている。ただし、施設整備の効果が放流量に反映されるのは2027年以降と見込まれており、2026年シーズンへの直接的な恩恵は限定的だ。
長期的な視点——アユ資源の持続可能性を考える
放流依存からの脱却
今回の事態は、日本のアユ釣り文化が抱える構造的な課題を浮き彫りにしている。「放流すれば釣れる」というモデルが持続困難になりつつあるのだ。琵琶湖の資源変動、種苗コストの上昇、漁協の財政難——いずれも一朝一夕に解決できる問題ではない。
先進的な取り組みとして注目されるのは、以下のようなアプローチだ。
- 天然遡上の復活強化:河口域から上流までの連続した遡上ルートの確保。ダムの魚道改良や堰堤のスリット化
- 産卵場の整備:秋のアユが産卵しやすい砂利底の瀬を人工的に造成し、翌年の天然再生産を促進
- 遺伝的多様性の維持:人工種苗の近親交配を避け、海産アユとの交配を取り入れることで野性味のある個体を増やす
- 釣り人参加型の資源管理:気田川の里親制度のように、受益者である釣り人が直接資源管理に関わる仕組み
浜松のアングラーにできること
「自分はアユ釣りをしないから関係ない」と思うかもしれないが、河川の生態系は海と繋がっている。天竜川のアユ資源が健全であることは、遠州灘の豊かな漁場環境を支える土台の一つだ。
私たちにできることはシンプルだ。
- 遊漁券を必ず購入する:漁協の放流・環境整備事業の原資になる
- 釣り場のゴミを持ち帰る:河川環境の保全は稚アユの生存率に直結する
- 過度なキープを控える:特に放流直後の区間では、必要な分だけ持ち帰る意識を
- 情報を広める:この問題を知る人が増えれば、里親制度のような支援も広がりやすくなる
まとめ——2026年のアユシーズンを前向きに楽しむために
2026年春、天竜川水系のアユ放流量が過去最低水準となる見通しが明らかになった。琵琶湖産稚アユの漁獲減、種苗生産コストの高騰、天然遡上の低迷という三重苦が重なった結果だ。
しかし、放流区間の重点化や段階放流、気田川の里親制度など、漁協側も手をこまねいているわけではない。釣り人の側も、情報収集を徹底し、ポイント選びや釣り方を工夫すれば、放流減の年でも十分に友釣りを楽しむことは可能だ。
浜名湖・遠州灘で海釣りを楽しむアングラーにとっても、河口域のベイトパターンの変化という形で間接的に影響する話題であり、決して他人事ではない。
今後の注目スケジュールをまとめておこう。
- 5月上旬:天竜川漁協の最終放流(3回目)
- 5月中旬:天然遡上の本格化と確認調査
- 6月1日:天竜川・気田川アユ釣り解禁
- 6月以降:各漁協による中間釣果報告
当ブログでは引き続き、天竜川水系のアユ情報をアップデートしていく。解禁後の釣果情報や、放流区間ごとの魚影レポートもお届けする予定なので、ぜひチェックしてほしい。



