釣り糸・仕掛けの「出しっぱなし問題」にようやくメスが入る
2026年4月、静岡県は浜名湖・遠州灘沿岸の主要釣り場50か所に「釣り糸・仕掛け専用リサイクルBOX」を設置する事業を正式にスタートさせた。大手釣り具メーカー4社(グローブライド=ダイワ、シマノ、がまかつ、サンライン)と静岡県釣具商組合が連携し、使用済みのナイロンライン・PEライン・フロロカーボンライン、さらにハリス付きの仕掛けやスナップ・サルカン類までを分別回収し、工業用ナイロン原料やリサイクルペレットとして再生するプログラムだ。
浜名湖や遠州灘サーフで釣りをしていると、テトラ帯に絡みついたPEライン、砂浜に半ば埋もれた仕掛け、堤防の足元に捨てられたラインの塊——こうした光景を目にしたことがない釣り人はいないだろう。環境省の2025年度調査によれば、全国の海岸漂着ごみのうち釣り関連プラスチック(ライン・仕掛け・ルアー・パッケージ)は重量比で約3.2%を占め、特に野鳥やウミガメへの絡まり被害が深刻化している。静岡県内でも浜名湖のカワウやサギ類が釣り糸に絡まった状態で保護されるケースが年間40件以上報告されており、県としても看過できない状況に至っていた。
今回の事業は、単に回収ボックスを置いて終わりではない。メーカーが回収した素材を実際に再資源化し、その一部を新しい釣り糸のパッケージ素材に転用するという「循環型」の仕組みが最大の特徴だ。本記事では、この新しいリサイクルプログラムの全容、設置場所、参加方法、そして浜松アングラーとしてどう関わるべきかを徹底解説する。
なぜ今、釣り糸リサイクルなのか——背景と経緯
放置ラインが引き起こす3つの深刻な問題
釣り糸の放置や不法投棄が問題視されるのには、明確な理由がある。まずはその深刻さを整理しておこう。
| 問題カテゴリ | 具体的な被害 | 浜松エリアの実例 |
|---|---|---|
| 野生生物への物理的被害 | 鳥類・ウミガメ・海洋哺乳類の絡まり・窒息・壊死 | 浜名湖のアオサギがPEラインで翼を拘束され保護(2025年11月) |
| マイクロプラスチック化 | 紫外線・波で細断されたラインが微小片となり食物連鎖に混入 | 中田島砂丘調査で1m²あたり平均12本のライン片を検出(2025年県調査) |
| 釣り場閉鎖の引き金 | ゴミ問題を理由とした漁港・護岸の立入禁止措置 | 舞阪漁港の一部エリアで2025年にゴミ問題を一因とした利用制限強化 |
とりわけ厄介なのが、ナイロンラインの自然分解に600年以上、フロロカーボンに至っては事実上分解されないという耐久性だ。私たちが今日切って捨てた30cmのハリスが、数百年後も海底に残り続ける。この事実は、釣り人としてもっと真剣に受け止めるべきだろう。
全国の先行事例と静岡県の決断
釣り糸リサイクルの取り組み自体は新しいものではない。愛媛県では2020年から「釣り糸回収ボックス」を松山港周辺に設置し、年間約200kgのラインを回収している。神奈川県の三浦半島でも地元釣りクラブが独自にリサイクル活動を展開してきた。
しかし、これらはいずれも小規模かつ自治体単独、あるいはボランティア主導の活動にとどまっていた。今回の静岡県の事業が画期的なのは、以下の3点だ。
- メーカー4社が回収後の再資源化まで責任を持つ——ボックスに入れて終わりではなく、素材別に分別・再生する工程をメーカー側が運用費を負担して構築
- 県内50か所という規模感——浜名湖周辺だけでなく、御前崎、焼津、清水、沼津まで県内主要釣り場を網羅
- リサイクル実績の「見える化」——回収量と再生製品への転用実績を四半期ごとにウェブサイトで公開し、釣り人のモチベーションを維持する設計
静岡県スポーツ・文化観光部の担当者は「釣り場を守ることは、釣り文化そのものを守ること。メーカーとの連携で持続可能な仕組みを構築したい」とコメントしている。
リサイクルBOXの設置場所——浜名湖・遠州灘エリア詳細
浜名湖周辺(18か所)
浜名湖は釣り人の集中度が高いだけに、最多の設置数となっている。主な設置ポイントは以下の通りだ。
| 設置場所 | 最寄り駐車場 | BOXタイプ | 設置時期 |
|---|---|---|---|
| 新居海釣公園(新居弁天) | 公園内駐車場 | 大型(3分別) | 2026年4月 |
| 舞阪漁港・北堤防入口 | 舞阪表浜駐車場 | 中型(2分別) | 2026年4月 |
| 弁天島海浜公園 | 弁天島駐車場 | 大型(3分別) | 2026年4月 |
| 村櫛海岸・フィッシーナ前 | 村櫛公園駐車場 | 中型(2分別) | 2026年5月 |
| 雄踏マリーナ周辺護岸 | 雄踏総合公園 | 小型(1分別) | 2026年5月 |
| 鷲津港・湖西側護岸 | 鷲津駅前駐車場 | 中型(2分別) | 2026年5月 |
| 瀬戸水道・浜名大橋下 | 今切パーク付近 | 大型(3分別) | 2026年4月 |
| 奥浜名湖・三ヶ日エリア | 猪鼻湖周辺 | 小型(1分別) | 2026年6月 |
※上記は主要ポイントの抜粋。浜名湖周辺ではこのほかに10か所が順次設置される予定だ。
遠州灘サーフ・港湾エリア(12か所)
遠州灘のサーフポイントや港湾にも設置が進む。サーフエリアでは駐車場入口への設置が中心だ。
- 中田島砂丘・西側駐車場——サーフフラット勢の集結地。大型BOX設置(2026年4月)
- 天竜川河口・右岸駐車場——シーバス・ヒラメアングラーの聖地。中型BOX(2026年4月)
- 竜洋海洋公園前——ファミリーからベテランまで幅広い利用。大型BOX(2026年4月)
- 福田港(福田漁港)入口——堤防釣りの人気ポイント。中型BOX(2026年5月)
- 御前崎港・なぶら市場横——県中部との中間拠点。大型BOX(2026年4月)
- 浅羽海岸・駐車場——サーフゲームの穴場。小型BOX(2026年6月)
サーフで釣りをする際、ラインブレイクや高切れで失った先端部分は回収困難だが、手元に残った使用済みラインはまとめてBOXに投入できる。リール交換時の古いPEラインなども対象だ。
天竜川・都田川エリア(5か所)
河川エリアにも設置される。天竜川では鹿島橋下流・掛塚橋周辺、都田川では東大山橋付近など、主要入渓ポイントの駐車場に設置予定だ。淡水ラインは海水ラインと素材が同じため、同じBOXで回収される。
何を入れていいのか——回収対象と分別ルール
回収対象一覧
「何でもかんでも入れていい」わけではない。正しく分別することで再資源化率が大幅に上がるため、ルールを正確に把握しておこう。
| 回収OK | 回収NG |
|---|---|
| ナイロンライン(道糸・ハリス) | ルアー本体(金属・樹脂複合のため) |
| フロロカーボンライン | 鉛オモリ(有害金属のため別途回収) |
| PEライン | ケミカルライト(化学物質含有) |
| エステルライン | エサ・コマセの残り |
| サビキ仕掛け(針付きでもOK) | 飲料缶・ペットボトル |
| 天秤・スナップ・サルカン類 | ワーム(ソフトプラスチック、塩含有) |
| ラインの空スプール | ロッド・リールの破損品 |
BOXの分別方式
大型BOX(3分別タイプ)の場合、投入口が3つに分かれている。
- ライン専用口(青色)——ナイロン・フロロ・PE・エステルの使用済みライン。できれば小さくまとめて投入
- 金属仕掛け口(銀色)——針付き仕掛け、サルカン、スナップ、天秤など金属を含むもの
- スプール・パッケージ口(緑色)——ラインの空スプール、仕掛けパッケージ(プラスチック製)
中型BOX(2分別)はライン口と金属口の2つ、小型BOX(1分別)は全部まとめて投入する方式だ。小型でも回収後にメーカー側の分別施設で仕分けされるので、混在しても問題はない。
注意点として、針付きの仕掛けを投入する際は、針先をガムテープやマスキングテープで覆ってから入れてほしい。回収作業を行うスタッフの安全のためだ。BOX脇にテープが備え付けられている設置場所もある。
回収されたラインはどうなるのか——再資源化の工程
素材別の再生プロセス
回収されたラインは月2回のペースで各BOXから集荷され、静岡県内の中間処理施設(焼津市)に搬入される。そこからの流れは素材ごとに異なる。
ナイロンラインの場合:
- 洗浄・異物除去(砂、塩分、付着した海藻など)
- 粉砕・ペレット化
- 工業用ナイロン原料として再生(自動車部品、工業用ブラシ、建材など)
- 一部は釣り糸パッケージのプラスチック原料に転用
PEラインの場合:
- コーティング剤の除去処理
- 超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)として回収
- 防弾繊維や産業用ロープの原料に再生
フロロカーボンラインの場合:
- フッ素系樹脂(PVDF)として回収
- 化学薬品耐性が必要な工業用チューブ・パッキンの原料に再生
メーカー4社の役割分担
今回のプログラムでは、各メーカーが得意分野を活かして役割を分担している。
- グローブライド(ダイワ)——BOXの製造・設置工事を主導。全国の釣り施設への展開ノウハウを活かす
- シマノ——回収ラインの品質分析と再生可能性の判定。素材工学の知見を投入
- がまかつ——金属仕掛け(針・サルカン)の分別・再生工程を担当。鉤の製造技術を逆工程に応用
- サンライン——ライン素材の再生処理技術を提供。ナイロン・フロロの再ペレット化に関する特許技術を活用
4社の合同発表によれば、初年度の目標回収量は県全体で年間3トン。浜名湖エリアだけで1トンを見込んでいるという。再資源化率は80%以上を目標に掲げている。
釣り人はどう参加すればいいのか——具体的なアクション
釣行時のライン回収を習慣化する3ステップ
「環境に良いのはわかるけど、実際どうすれば?」という声に応えて、具体的な行動指針をまとめた。
ステップ1:釣行バッグに「ライン回収袋」を常備する
ジップロック1枚で十分だ。釣り場でラインを切った際、その場で袋に入れる習慣をつけよう。高切れした際のリール側の残りラインも、巻き替え時にまとめて袋へ。100均のチャック袋をタックルボックスに3〜4枚入れておけば、ワンシーズンは持つ。
ステップ2:BOXの場所を事前にチェックする
静岡県の特設サイト(2026年4月下旬公開予定)で、最寄りのBOX設置場所を確認できる。Googleマップとの連携も予定されており、ナビで直接BOXの場所まで案内される。浜名湖周辺であれば、新居海釣公園か弁天島海浜公園が最もアクセスしやすいだろう。
ステップ3:他の釣り人の落としたラインも拾う
自分のラインだけでなく、テトラ帯や堤防に引っかかっている他の釣り人のラインも見つけたら回収しよう。プライヤーで安全に外してジップロックへ。1回の釣行で50cm〜1m程度のラインを追加回収するだけでも、年間では大きな量になる。
「リサイクルポイント」制度も検討中
静岡県とメーカー4社は、2026年後半をめどに「リサイクルポイント」制度の導入を検討している。BOXへの投入量に応じてポイントが貯まり、協力釣具店での割引やオリジナルグッズとの交換に使える仕組みだ。具体的には、ラインの重量を量れるスマート計量機能付きBOXの試験導入が一部拠点で計画されている。
詳細はまだ発表されていないが、「ゴミを出さない」だけでなく「回収すると得をする」という仕組みが加わることで、参加のハードルがさらに下がることが期待される。
釣具店での回収も継続
すでに一部の釣具店で実施されていたライン回収サービスも、今回のプログラムに統合される。浜松市内では以下の店舗で引き続きライン回収を受け付けている。
- かめや釣具 浜松店——レジ横に回収BOX常設
- フィッシング遊 浜松店——ライン購入時に古いラインを回収
- イシグロ 浜松高林店・入野店——各店舗入口に専用BOX設置
- タックルベリー 浜松市野店——中古ライン含む回収対応
釣行帰りに釣具店に立ち寄る習慣がある人は、そのタイミングでまとめて持ち込むのが最も手軽だろう。
浜松アングラーへの影響——釣り場を守る=釣りを守る
釣り場閉鎖を防ぐ「見える成果」になる
冒頭でも触れたが、ゴミ問題は釣り場閉鎖の直接的なトリガーになる。2025年には舞阪漁港の一部で利用制限が強化され、遠州灘沿岸の老朽化防波堤も続々と釣り禁止になっている。これらの措置の背景には、構造物の老朽化に加えて「利用者のマナー」が自治体の判断材料に含まれている。
リサイクルBOXの設置と回収実績のデータ化は、「釣り人は環境配慮をしている」というエビデンスになる。自治体が釣り場の存続を検討する際、こうした実績は大きなプラス材料だ。私たちが回収BOXを使うことは、間接的に釣り場を守る行為でもある。
浜名湖の生態系への好影響
浜名湖はラムサール条約登録湿地ではないものの、多様な生物が生息する汽水湖として高い生態学的価値を持つ。釣り糸による野鳥の絡まり被害が減少すれば、カワウ問題とは別の文脈で「釣り人と自然が共存できる湖」としての評価が高まる。
環境DNA調査が進む浜名湖では、水中のマイクロプラスチック量もモニタリング対象に含まれつつある。釣り糸由来のマイクロプラスチック削減は、湖全体の環境データ改善にも寄与するだろう。
他県の動向と全国展開の可能性
先行する海外の取り組み
海外では釣り糸リサイクルの取り組みがすでに定着しているエリアがある。アメリカのBerkley社は「Berkley Recycling Program」を2019年から全米で展開し、年間50トン以上のラインを回収・再生している。オーストラリアでも「Tangaroa Blue Foundation」が釣り糸専用回収ネットワークを構築し、沿岸部500か所以上に回収拠点を設けている。
日本はこの分野で遅れをとっていたが、静岡県の今回の事業が成功モデルとなれば、全国の釣り場への横展開が一気に進む可能性がある。
2026年後半以降の展開予定
静岡県は今回の事業を「フェーズ1」と位置づけており、今後の展開として以下を計画している。
- 2026年秋——設置数を80か所に拡大(伊豆半島エリア追加)
- 2027年春——リサイクルポイント制度の本格運用開始
- 2027年度中——回収ラインから作った「リサイクルライン」の試験販売
- 2028年度——他県への技術・運用ノウハウの移転(愛知県・三重県と協議中)
特に注目したいのが「リサイクルライン」の構想だ。回収したナイロンを精製し、釣り糸として再生する技術はまだ課題が多いとされるが、サンラインの特許技術でバージン素材に近い強度を実現できる見通しが立っているという。実現すれば、まさに「釣り糸から釣り糸へ」の完全循環が成立する。
まとめ——「回収BOXに入れる」を当たり前にしよう
今回の静岡県と釣り具メーカー4社によるリサイクルBOX事業は、釣り人にとってもっともシンプルかつ効果的な環境貢献の入り口だ。特別な知識も装備も要らない。釣行で出たラインをジップロックに入れて、帰りにBOXへ投入する——それだけだ。
浜名湖・遠州灘は、私たちにとってかけがえのない釣りフィールドだ。このフィールドを次の世代にも残していくために、2026年をきっかけに「ライン回収」を釣行ルーティンに組み込んでみてほしい。
今すぐできるアクション:
- タックルボックスにジップロック(ライン回収用)を2〜3枚入れる
- 次の釣行から、切ったラインを全て袋に回収する
- 最寄りのリサイクルBOXまたは釣具店で投入する
- テトラや堤防で見つけた放置ラインも余裕があれば回収する
小さな行動の積み重ねが、浜名湖と遠州灘の未来を変える。報知兵衛は今後も、このプログラムの進捗と回収実績を追いかけていく予定だ。



