スルメイカとは?|日本人がもっとも食べてきた「真イカ」
スーパーの鮮魚コーナーで一年じゅう見かけるイカ。刺身でよし、煮てよし、焼いてよし、そして干せば「するめ」になり、ワタを使えば「塩辛」になる——。日本の食卓をもっとも長く、もっとも広く支えてきた国民的なイカ、それがスルメイカ(鯣烏賊)だ。漢字の「鯣」はまさに「するめ」を表す字で、このイカが古来どれだけ干物として親しまれてきたかが名前そのものに刻まれている。
スルメイカは各地で「マイカ(真イカ)」とも呼ばれる。「真」の字がつくのは、それだけ日本人にとって「イカといえばこれ」という基準だったからだ。北はオホーツク海から南は東シナ海まで、日本列島をぐるりと取り巻くように群れで回遊し、かつては日本のイカ類漁獲量の半分近くを担った時期もある。釣りの世界でも、夏から秋に船から数を釣れる人気の的だ。
ただし近年は、このありふれたはずのスルメイカが「獲れない魚」になりつつある。漁獲量はこの二十数年で激減し、店頭価格もじわじわ上がってきた。この記事では、スルメイカの生態から、ややこしい地方名、ケンサキイカ・ヤリイカ・アカイカとの見分け方、船のイカメタルやブランコ・直結仕掛けの釣り方、刺身・するめ・塩辛・沖漬けの料理、そしてアニサキスへの備えまで、スルメイカのすべてを魚太郎がまとめた。最後まで読めば、このイカがぐっと身近な存在になるはずだ。
スルメイカの基本データ|分類・大きさ・名前の由来
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 和名 | スルメイカ(鯣烏賊) |
| 学名 | Todarodes pacificus(Steenstrup, 1880) |
| 英名 | Japanese flying squid / Japanese common squid(海面を飛ぶように泳ぐことに由来) |
| 分類 | 頭足綱 ツツイカ目 開眼亜目 アカイカ科 スルメイカ亜科 スルメイカ属 |
| 外套長(胴の長さ) | おおむね25〜30cm前後。メスのほうが大きく育ち、オスは小さめ |
| 寿命 | 約1年(生まれて一年で産卵し、一生を終える短命種) |
| 分布 | オホーツク海から日本列島周辺、東シナ海まで。北海道〜九州沿岸に多い。近年は北米西岸でも確認 |
| 旬 | 一年を通して出回るが、刺身のうまい時期は夏(マイカ)。冬の太平洋側の個体も評価が高い |
| 名前の由来 | 「鯣(するめ)」=干物の代表格であったことから。各地で「真イカ」とも |
スルメイカが分類学的にとても重要なのは、アカイカ科に属し、なおかつ「開眼亜目(かいがんあもく)」のイカであるという点だ。後で見分け方のところでくわしく書くが、人気の高いケンサキイカやヤリイカ、アオリイカはいずれも「閉眼亜目(へいがんあもく)」のヤリイカ科。つまりスルメイカは、釣りでよく一緒に語られるこれらの仲間とは、目の構造からして系統の異なるグループに属している。この一点を頭に入れておくだけで、似たイカの整理がぐっとラクになる。
大きさは外套長で25〜30cmほど、寿命はわずか1年。生まれて一年のあいだに一気に成長し、産卵して死んでいく超短命のイカだ。この「一年で世代が完全に入れ替わる」性質が、後で述べる年ごとの好不漁の激しさや、近年の資源問題に深く関わってくる。
スルメイカの生態|暖かい海で生まれ、群れで日本列島を回遊する
季節とともに南北を旅する回遊魚(イカ)
スルメイカ最大の特徴は、季節によって生息域を大きく変える回遊性にある。基本のパターンは、東シナ海や九州周辺といった暖かい海域で生まれた幼体が、成長しながら黒潮や対馬暖流に乗ってエサを追い、春から夏にかけて日本海や太平洋を北上していくというものだ。そして秋から冬にかけては、産卵のために再び南の暖かい海域へと下っていく。文字どおり日本列島をぐるりと取り巻くように、群れをなして旅をするイカなのである。
生息する水温の幅は広く、おおむね5〜27度ほどの海域で見られる。比較的上の層を泳ぐイカで、これが集魚灯(しゅうぎょとう)を使った漁や釣りが成り立つ前提になっている。
夜行性で光に集まる、俊敏なハンター
スルメイカは肉食性で、小魚などを活発に追いかける俊敏な捕食者だ。そして強い走光性(光に集まる性質)を持つことでよく知られる。夜の海に煌々と明かりを焚くと、その光に小さなプランクトンや小魚が集まり、それを狙ってイカが浮いてくる。日本海の夜に点々と灯る漁火(いさりび)の正体は、まさにこのスルメイカ漁の集魚灯だ。宇宙からも見えるほどの明かりの帯は「光のカーテン」とも呼ばれ、日本の夜の海の風物詩になっている。釣りで夜釣りや集魚灯が効くのも、この習性ゆえである。
「飛ぶイカ」という意外な一面
英名のJapanese flying squid(日本の飛ぶイカ)が示すとおり、スルメイカは外敵に追われると海面から飛び出し、ヒレ(エンペラ)と漏斗から噴き出す水の力で、滑空するように海面を飛ぶことがある。ずんぐりして見える胴は、実は高速遊泳に適した筋肉の塊。このパワフルな泳ぎが、しっかりした歯ごたえのある身につながっている。
3つの発生系群と近年の不漁|「庶民のイカ」が高級品に?
生まれる季節で分かれる3つのグループ
スルメイカを理解するうえで欠かせないのが、生まれる時期によって分かれる「発生系群」という考え方だ。一年で世代交代する短命種だからこそ、いつ生まれた群れかで漁場も時期も変わってくる。大きく次の3つに整理される。
| 発生系群 | おもに生まれる時期 | おもな漁場・特徴 |
|---|---|---|
| 秋季発生系群 | 9月〜11月ごろ | 日本海を中心に回遊。スルメイカ漁獲の大きな柱で、全体の多くを占める主力群 |
| 冬季発生系群 | 12月〜3月ごろ | 太平洋側で多く漁獲される。身が締まり食味の評価が高い |
| 夏季発生系群 | 4月〜8月ごろ | 資源量は比較的小さい。初夏の若い個体は関東で「ムギイカ」と呼ばれる |
関東で初夏に出回る小型の若いスルメイカを「ムギイカ」と呼ぶのは有名な話だ。麦の収穫期と重なる時期に相模湾あたりで獲れる、外套長20cmに満たない若齢個体を指す。やわらかく丸ごと食べやすいので、これはこれで根強い人気がある。船釣りでも、初夏はこのムギイカ、盛夏から秋に良型のスルメイカ、と季節で呼び名とサイズが移り変わっていく。
二十数年で激減した漁獲量
ここで正直に書いておきたいのが、スルメイカの深刻な資源減少だ。かつてスルメイカは日本のイカ類漁獲量の半分近くを占めるほどの大衆魚だったが、近年は記録的な不漁が続いている。水揚げ量は2000年ごろには30万トンを超える年もあったのに対し、2018年ごろには5万トン前後まで落ち込んだとされ、二十年ほどで大きく数を減らした。「するめやさきいかが値上がりした」「スーパーのイカが高くなった」と感じる背景には、こうした資源の減少がある。
なぜ獲れなくなったのか
不漁の原因は一つではなく、複数の要因が重なっていると考えられている。よく指摘されるのは次のような点だ。
- 海洋環境(水温)の変化:スルメイカが生き残りやすい水温は20度前後とされる。海水温の上昇で産卵に適した海域が狭まり、卵や幼生が育ちにくくなっている可能性が指摘されている。
- 産卵期や回遊の変化:温暖化にともない産卵のピーク時期や回遊ルートが変わり、これまでの好漁場に群れが入りにくくなる年が増えたとみられる。
- 国際的な漁獲競争:スルメイカは日本周辺だけでなく周辺国の漁業対象でもあり、公海での操業や違法・無報告・無規制(IUU)漁業の影響も議論されている。
ここで挙げた要因は、いずれも近年の傾向として一般に語られているものだ。原因の比重がどこにあるかは研究や立場によって見解が分かれ、一つに断定できるものではない。ただ確かなのは、「いくらでも獲れる庶民のイカ」という前提が変わりつつあるということ。釣り人としても食べきれる量を持ち帰り、資源に配慮した付き合い方を心がけたい相手なのである。
似たイカとの見分け方|決め手は「目」と「エンペラ」
釣りや市場で迷いやすいのが、ケンサキイカ・ヤリイカ・アオリイカ、そして名前の似たアカイカとの区別だ。スルメイカを見分ける最大のポイントは、ほかでもない「目」にある。スルメイカは「開眼亜目」のイカで、目の表面に透明な膜(角膜)がなく、眼球が直接海水に触れる構造になっている。一方、ケンサキ・ヤリ・アオリはいずれも「閉眼亜目」で、目が薄い膜でおおわれている。つまり目に膜があるかないかが、系統を分ける決定的な違いなのだ。
| 見分けポイント | スルメイカ | ケンサキイカ | ヤリイカ | アオリイカ |
|---|---|---|---|---|
| 分類(亜目・科) | 開眼亜目 アカイカ科 | 閉眼亜目 ヤリイカ科 | 閉眼亜目 ヤリイカ科 | 閉眼亜目 ヤリイカ科 |
| 目(角膜) | 膜がなく直接海水に触れる | 薄い膜でおおわれる | 薄い膜でおおわれる | 薄い膜でおおわれる |
| 胴の形 | ずんぐり太め、先は丸み | 剣先状でやや丸みがある | 槍のように細長く尖る | 幅広く丸い |
| エンペラ(ヒレ) | 胴の後方に短い三角形 | 胴の後半に長い菱形 | 細長い菱形 | 胴全体を縁取る円形 |
| 腕(足) | 中くらいの長さ | 太く長い | 短く細い | 太く短め |
| 好む水温・季節 | 広い水温帯・夏〜秋が盛り | 暖海・初夏〜秋 | 冷たい海・冬〜春 | 暖海・春と秋 |
釣り上げたときの見た目でも区別できる。スルメイカは興奮すると体色が赤茶色〜オレンジっぽく発色し、エンペラ(ヒレ)が胴の後方にちょこんと付いた短い三角形なのが分かりやすい。ケンサキは胴の後半に長い菱形のエンペラ、ヤリイカはさらに細長い体型、アオリイカは胴全体を縁取る丸いエンペラと、それぞれヒレの形に個性が出る。「目に膜がなく、ずんぐり胴に短い三角のヒレ」ならスルメイカと覚えておけば、まず迷わない。
ややこしい「アカイカ」問題
注意したいのが「アカイカ」という呼び名だ。スルメイカ自体も地域によっては「アカイカ」と呼ばれることがある一方、標準和名としてのアカイカはスルメイカと同じアカイカ科に属する別種で、より沖合・外洋に多い大型のイカを指す。さらにケンサキイカも山陰などで「アカイカ」と呼ばれる。同じ「アカイカ」という言葉が三者三様に使われるため、名前だけでは正体が定まらない。市場や産地の表示を見るときは、この点に気をつけたい。
スルメイカの釣り方|船からの王道はプラヅノの多点掛け
スルメイカは岸から手軽に数を狙える相手ではなく、沖の船からの釣りが基本になる。集魚灯を焚いた乗合船で、複数のイカヅノ(プラヅノ)を付けた仕掛けを上下させ、群れを掛けていくのが王道だ。近年人気のイカメタルも含め、代表的な釣り方を整理しよう。
① プラヅノのドウヅキ仕掛け(船の定番)
関東をはじめ各地の乗合船で長年親しまれてきたのが、プラヅノ(プラスチック製の擬似餌バリ)を多数付けたドウヅキ仕掛けだ。スルメイカ狙いのプラヅノは14cmが標準サイズで、ケイムラ(蛍光紫)、水色、ピンクといった色を組み合わせると反応がよいとされる。この仕掛けには、大きく分けて「ブランコ仕掛け」と「直結仕掛け」の2種類がある。
② ブランコ仕掛け(初心者はまずこちら)
幹糸から短い枝ス(エダス)を出し、その先にプラヅノをぶら下げる仕掛けがブランコ仕掛けだ。ツノが幹糸からブランコのように揺れることからこの名がある。枝スがクッションの役目を果たすため、イカが乗ってから多少のことではバラれにくく、巻き上げ中に手を止めてもイカが外れにくい。扱いがやさしく、初めてのスルメイカ釣りにはこちらが断然おすすめだ。ツノ数は6本前後が標準。難点は枝スがある分、外道のサバが掛かりやすく、群れに突っ込まれると仕掛けが絡みやすいことくらいである。
③ 直結仕掛け(多点掛けの上級者向け)
一方、枝スを介さず幹糸に直接プラヅノを結びつけていくのが直結仕掛けだ。エダスがないぶん仕掛けがシンプルで絡みにくく、ツノの本数を増やしやすいので、複数のイカを一度に掛ける豪快な多点掛けと速い手返しが魅力。サバなどの外道も拾いにくい。ただし枝スの遊びがないため、巻き上げ中にラインのテンションを少しでも緩めるとイカがスポッと外れてしまう。一定の速度で巻き続ける技術が要るので、慣れてから挑戦したい上級者向けの仕掛けだ。
④ イカメタル(手軽な現代の人気釣法)
近年、より手軽でゲーム性の高い釣りとして広まったのがイカメタルだ。鉛のオモリを兼ねた擬似餌「メタルスッテ」を一つ、あるいはリーダーに枝スを出して浮きスッテや小型エギを足した仕掛けを使い、繊細な竿先(ティップ)でアタリを掛けていく。重いオモリを電動で上下させる従来のドウヅキ釣りより道具立てが軽く、女性や初心者でも取り組みやすいことから一気に人気が高まった。地域によってはスルメイカもイカメタルの好ターゲットになる。
スルメイカ釣りのタックルと釣り方のコツ
ドウヅキ仕掛け(プラヅノ)のタックル
沖の深場を電動で攻めるプラヅノ釣りでは、重いオモリと多数のツノを背負える専用タックルが基本になる。代表的な目安は次のとおりだ。
- ロッド:イカ専用、またはオモリ負荷に対応した7:3〜6:4調子の船竿。1.5〜2mほどの長さで、多点掛けの重みを受け止められる胴のしっかりした竿がよい。
- リール:水深100m超を手返しよく釣るため、小〜中型の電動リールがほぼ必須。カウンターでタナ(水深)を正確に管理する。
- ライン:PE3〜4号を200m以上。深場や潮の速い海域に備えてやや太めを巻いておくと安心だ。
- オモリ:標準は120号前後。二枚潮や潮が速いとき、水深が200mを超えるようなときは150号も使う。船宿の指示に必ず合わせること。
- 仕掛け:14cmプラヅノのブランコまたは直結。ツノ数は船のルールに従う(混雑時は本数制限があることも)。
イカメタルのタックル
イカメタルなら、もっと軽い装備で楽しめる。専用の6.5ft前後・M〜MLクラスのベイトロッドに、水深の分かるカウンター付き小型ベイトリール、ラインはPE0.4〜0.8号、リーダーはフロロカーボンを組み合わせるのが一般的だ。メタルスッテは水深と潮に応じて号数を使い分け、夜光(グロー)系の色は一つ持っておきたい。
数を伸ばす3つのコツ
1. タナを正確に刻む。スルメイカは特定の層に群れることが多い。船長から上限と下限のタナを指示されたら、まず下限まで仕掛けを落とし、そこから誘い上げてヒットレンジを探る。1パイ釣れた水深を覚え、同じ層を集中的に攻めるのが数を伸ばす王道だ。
2. アタリには即対応する。イカが乗ると竿先が重くなったり、フッと軽くなったりする。これを感じたら迷わずに、適度な中速でとにかくすぐ巻き始めること。とくに直結仕掛けは止めると即バラシなので、一定速度の巻き上げを心がける。
3. 誘いに変化をつける。ただ上下させるだけでなく、しゃくり上げてからピタッと止める、ゆっくり持ち上げてストンと落とす、といったメリハリでイカに抱く間を与える。その日に効くパターンが見つかれば、一気に手返しよく数が伸びていく。
スルメイカの絶品レシピ|刺身・するめ・塩辛・沖漬けまで
スルメイカの本当の魅力は、なんといっても料理の幅の広さにある。刺身でよし、干してよし、ワタを使ってよしと、一杯のイカを余すところなく味わい尽くせる。釣り人ならではの新鮮なスルメイカで、ぜひ作ってみてほしい定番を紹介しよう。
① 刺身・イカそうめん
新鮮なスルメイカは、まず刺身で。ケンサキやアオリのような濃厚な甘さとは違い、スルメイカはコリッとした歯ごたえと、噛むほどにじむさっぱりした旨みが身上だ。細く切って「イカそうめん」にすれば喉ごしよく、しょうが醤油でいくらでも食べられる。胴だけでなく、コリコリのゲソやエンペラも刺身や湯引きでうまい。鮮度の落ちやすいイカなので、刺身で食べるなら鮮度管理が命だ(後述のアニサキスにも注意)。
② するめ・一夜干し(沖干し)
名前の由来でもあるするめこそ、スルメイカ本来の楽しみ方。胴を開いてワタと目、くちばしを取り、軽く塩水にくぐらせて天日や風通しのよい場所で干す。しっかり乾かせば保存のきく「するめ」に、半日ほどの軽い乾燥なら甘みと旨みが凝縮した「一夜干し(沖干し)」になる。炙ってマヨネーズや七味を添えれば、これ以上ない酒の肴だ。船上や帰港後すぐに干す「沖干し」は、鮮度のいいうちに作れる釣り人の特権である。
③ 塩辛・黒造り(ワタを生かす)
スルメイカのワタ(肝・ゴロ)が新鮮なら、ぜひ自家製の塩辛に挑戦したい。胴の身を細く切り、塩をした肝の中身をしごき出して和え、冷蔵庫で数日寝かせて熟成させる。市販品とは比べものにならない濃厚な味わいだ。イカ墨を加えて作るものは「黒造り」と呼ばれ、こっくりと深いコクが出る。ワタを使う料理は鮮度が絶対条件。なお肝にもアニサキスがいる可能性があるため、生食用に作る場合は後述の冷凍処理を必ず行ってほしい。
④ 沖漬け(釣り人だけの漁師の味)
釣った人にしか作れないのが沖漬け。釣れたスルメイカを、醤油ベースのタレに生きたまま漬け込むと、イカが勢いよくタレを吸い込み、身の芯まで味が入る。自家製なら醤油・酒・みりんを合わせて一度煮切ったタレを用意し、数時間から一晩なじませれば完成だ。さらに冷凍すれば、半解凍のルイベ状でとろりと味わえるうえ、アニサキス対策にもなって一石二鳥である。
⑤ ゴロ焼き・煮物・焼きイカ
加熱料理の懐も深い。ワタ(ゴロ)を胴に詰めて焼く「ゴロ焼き」は、肝の濃厚なコクが身にしみる絶品。大根と炊けば味のしみた煮物に、丸ごと網で炙れば屋台の定番「焼きイカ」になる。スルメイカは火を通すとやや締まって歯ごたえが増すので、加熱しすぎないのがコツだ。げその天ぷらやイカリングも、子どもから大人まで喜ばれる。
食べる前に必ず|アニサキス(寄生虫)への備え
スルメイカを生で楽しむうえで、絶対に外せないのがアニサキスという寄生虫への注意だ。アニサキスはサバやアジ、サンマなどと同様に、イカにも寄生することがある線虫で、生きたまま口に入ると激しい腹痛などの食中毒(アニサキス症)を引き起こすことがある。怖がりすぎる必要はないが、正しい知識で確実に防ぎたい。
厚生労働省が示す予防の基本は、次のとおりだ。
| 対策 | 目安 | ポイント |
|---|---|---|
| 冷凍する | マイナス20度で24時間以上 | 家庭の冷凍庫なら念のため48時間ほどを目安に。沖漬け・塩辛も冷凍すれば安心度が上がる |
| 加熱する | 中心部を60度で1分以上、または70度以上 | 焼き・煮・揚げなど、しっかり火を通せば死滅する |
| 内臓に注意 | 早めに取り除く | アニサキスは内臓に多い。死後に身へ移動するため、早めにワタを外し内臓は生で食べない |
| 目視で確認 | 調理時によく見る | 白い糸状の虫を見つけたら取り除く。細く切る・よく噛むことも一助になる |
注意したいのは、わさび・しょうゆ・酢・塩漬けといった一般的な調理では、アニサキスは死滅しないということ。「酢でしめたから安心」は誤りだ。確実なのは冷凍と加熱の2つだけと覚えておこう。とくに刺身・沖漬け・塩辛のように生で食べる料理を作るときは、一度しっかり冷凍してから使うのがもっとも安全だ。釣ったらできるだけ早く内臓を取り除き、生食ぶんは冷凍を一手間かける——これを習慣にすれば、スルメイカを安心して楽しめる。
まとめ|日本の海と食卓を支えてきた、愛すべき国民的イカ
スルメイカは、オホーツク海から東シナ海まで日本列島を取り巻くように群れで回遊する、開眼亜目アカイカ科の短命なイカだ。「真イカ(マイカ)」とも呼ばれ、刺身に、するめに、塩辛に、沖漬けにと、これほど幅広く日本の食卓を支えてきたイカはほかにない。目に膜のないずんぐり胴と短い三角のエンペラを覚えれば、ケンサキ・ヤリ・アオリ・アカイカとの見分けにも迷わなくなる。
釣りでは、集魚灯を焚いた船からプラヅノのブランコ・直結仕掛けで多点掛けを狙うのが王道。初めてならバラしにくいブランコから始め、慣れたら直結の豪快な多点掛けや、軽快なイカメタルへと世界を広げていける。クーラーいっぱいのスルメイカは、その夜、刺身や沖漬け、するめとなって食卓に最高のごほうびを届けてくれるはずだ。
ただ一つ、心に留めておきたいことがある。かつて「いくらでも獲れる庶民のイカ」だったスルメイカは、いま静かに数を減らしている。だからこそ、食べきれる量を持ち帰り、小さな個体や資源に配慮した付き合い方を心がけたい。この愛すべき国民的イカが、これからもずっと日本の海と食卓を彩り続けてくれるように。
※本記事の資源・漁獲に関する記述は近年の一般的な傾向をまとめたものであり、年や海域によって状況は大きく変わります。最新情報は水産庁や各都道府県の発表をご確認ください。生食する場合はアニサキス対策(マイナス20度で24時間以上の冷凍、または中心部60度1分以上の加熱)を必ず行ってください。沖の船釣りは天候・波の急変に注意が必要です。ライフジャケットを必ず着用し、船長の指示に従って安全第一で楽しみましょう。イカ類は地域ごとに漁業権・遊漁ルールが定められている場合があります。必ず確認し、資源に配慮した釣りを心がけてください。


