バラムツ・アブラソコムツは食べられる?油下痢の正体と見分け方

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バラムツ・アブラソコムツは食べられる?油下痢の正体と見分け方

先に結論:売るのは違法、自分で釣って食べるのは自己責任

バラムツとアブラソコムツは、いずれも「食べられないことはないが、強くはおすすめできない」深海魚です。フグのような猛毒があるわけではありません。問題は筋肉に大量に含まれるワックスエステル(蝋・ろう)で、これはヒトの体が消化できず、食べると未消化の油が肛門からそのまま漏れ出します。日本ではこの2種は食品衛生法に基づき販売が禁止されていますが、釣った本人が自分で食べる行為自体は法律で罰せられません。つまり「売るのは違法、自分で食べるのは自己責任のグレーゾーン」という位置づけです。

この記事は「食べてよいのか」という一点に集中して、油下痢が起きる仕組み、販売禁止になった経緯、そして釣れてしまったときの見分け方と対処を、公的情報の範囲で整理します。結論として当サイトは積極的な摂取をおすすめせず、外道で釣れた場合はリリースを基本とすることを推奨します。

項目バラムツアブラソコムツ
分類クロタチカマス科バラムツ属クロタチカマス科アブラソコムツ属
学名Ruvettus pretiosusLepidocybium flavobrunneum
販売禁止1970年(昭和45年)1981年(昭和56年)
尾柄の隆起線なしあり(中央と上下)
側線不明瞭で波打たない体側中央を大きく波打つ
食べると油が漏れ下痢・腹痛油が漏れ下痢・腹痛
当サイトの推奨リリース推奨リリース推奨

なぜ食べると油が漏れて下痢するのか:毒ではなくワックスエステル

多くの人が「毒魚」と思い込んでいますが、バラムツ・アブラソコムツの油下痢は毒による中毒ではありません。原因はワックスエステルという脂質です。これはろうそくの蝋に近い構造を持つ物質で、サンマやアジに含まれる一般的な脂(トリグリセリド)とはまったく違います。

ヒトの消化酵素では分解できない

普通の魚の脂はリパーゼという消化酵素で分解・吸収されますが、ワックスエステルはこの酵素でほとんど分解されません。バラムツの場合、筋肉の脂肪のうちおよそ90%がこのワックスエステルとされます。深海魚がこれほど大量の蝋を蓄えるのは、浮き袋の代わりに浮力を調整するためと考えられています。

消化されない油がそのまま腸を滑り落ちる

分解されなかった油は栄養として吸収されず、液体のまま腸を通過します。そして直腸まで届いた油が、便意をともなわずに肛門からそのまま漏れ出すのが、この魚の最大の特徴です。一般的な下痢のように「便として出る」のではなく、潤滑油のような油そのものが意志と無関係に流れ出てしまう点が厄介です。摂取した人の体験談では、機械油のような臭いの油が出たと報告されています。座っているときにズボンがにじむ、トイレに行く間もなく漏れるといった、通常の食あたりとは異質な現象が起きます。

深海魚がワックスをためる理由

そもそもなぜこれほど大量の蝋を体にためているのでしょうか。バラムツは水深100〜700メートル、アブラソコムツは水深200メートル以深の中深層に生息する深海魚です。深海では水圧の変化が大きく、浮き袋(うきぶくろ)で浮力を細かく調整するのが難しい環境にあります。そこで一部の深海魚は、空気の代わりに密度の小さいワックスエステルを体にためることで浮力を確保していると考えられています。つまりワックスは、これらの魚が深海で生きるための適応であり、ヒトにとって都合が悪いだけで、魚自身には不可欠な物質なのです。だからこそ筋肉のすみずみまで蝋が行き渡っており、部位を選んで取り除くことができません。

これはフグ毒やシガテラ毒のような神経毒とはまったく別物です。神経毒を持つ魚についてはシガテラ中毒のリスクと対象魚の解説記事でまとめていますが、バラムツ・アブラソコムツの場合は「毒に当たる」のではなく「消化できない油が物理的に漏れる」という点を正しく理解しておくことが大切です。

少量でも油漏れ、大量だと重篤:用量反応の実際

症状の重さは食べた量にほぼ比例します。ただし「自分なら大丈夫」と量で線引きするのは危険です。どれくらいで症状が出るかには個人差が大きく、刺身を数切れ食べただけで翌日に大量の油漏れを経験した例もあります。

摂取量の目安起こりうる症状補足
ごく少量(刺身数切れ)翌日以降の油漏れ・軟便個人差が大きく予測困難
中程度腹痛・下痢・油漏れが顕著数日続くことがある
多量激しい油漏れ・脱水のおそれ海外では昏睡の報告も

海外の摂取目安と重篤例

海外の食品安全機関では、この種の魚について1回あたり約170グラム(6オンス)以上を食べないよう注意喚起している例があります。日本国内では販売自体が禁止されているため公的な「安全な摂取量」は設定されていません。多量に摂取した場合、激しい油漏れによる脱水や、海外では昏睡に至った重篤例の報告もあります。体調や体質によって出方が大きく変わるため、量による安全保証はないと考えてください。

強い腹痛や下痢、脱水症状(口の渇き・尿が出ない・ふらつき)が続く場合は、自己判断で様子を見ず、早めに医療機関を受診してください。とくに高齢者や子ども、持病のある方は脱水の影響が出やすいため注意が必要です。

症状はいつ・どのくらい続くのか

油漏れは食べた直後ではなく、消化管を油が通過する数時間後から翌日にかけて始まることが多いとされます。そのため「食べた直後は何ともなかったから大丈夫」と油断していると、翌日の通勤中や仕事中に突然漏れて困る、という事態になりがちです。症状が続く期間にも個人差があり、体内の油が出きるまで一日では収まらず、数日にわたって繰り返す例も報告されています。摂取した人が「いつ漏れるか自分でもわからない」と語るほど、タイミングを自分でコントロールできないのがこの魚の怖さです。

命に関わる猛毒ではないものの、外出先で漏れれば社会的なダメージは小さくありません。仕事や予定を抱えた状態で安易に試すべき魚ではない、という点は強調しておきます。

販売禁止の歴史:1970年バラムツ・1981年アブラソコムツ

この2種が市場から消えた経緯は、公的な通知ではっきり記録されています。年代と根拠を正確に押さえておきましょう。

バラムツは1970年(昭和45年)に販売禁止

バラムツは1970年(昭和45年)9月4日付の厚生省通知(環乳第83号)により、食品衛生法第6条第2号に該当する食品として販売が禁止されました。それまでは練り製品などに使われていましたが、冷凍技術の発達で生鮮の切り身として流通するようになり、食中毒のおそれが高まったことが禁止の背景とされています。

アブラソコムツは1981年(昭和56年)に販売禁止

アブラソコムツは1981年(昭和56年)1月10日付の厚生省通知(環乳第2号)により、当時の食品衛生法第4条第2号(現在の第6条第2号に相当)に該当する食品として販売が禁止されました。これは昭和54年(1979年)に長野県軽井沢町の保育園給食でアブラソコムツが提供され、園児ら81人が下痢を起こした事件などをきっかけに、規制が整えられたものです。なお、しばしば話題になる山梨県での偽装販売事件は、この販売禁止より後の昭和58年(1983年)に起きたものです。発見された場合は廃棄対象となります。

「販売禁止」と「捕獲禁止」は違う

ここで誤解しやすいのは、禁止されているのはあくまで販売・流通であり、釣ること自体や所持が禁止されているわけではない点です。次の章で、このグレーゾーンを整理します。

釣って自分で食べるのは違法?:グレーゾーンの正しい理解

食品衛生法が規制しているのは、食品の「販売」や「営業上の取り扱い」です。そのため、釣り人が自分で釣ったバラムツ・アブラソコムツを自宅で食べる行為そのものは、現行法で直接罰せられるものではありません。これがいわゆるグレーゾーンと呼ばれる部分です。

行為法的な扱い当サイトの考え方
店や市場で販売する違法(食品衛生法違反)禁止
人に譲る・ふるまうトラブルのもと避けるべき
釣って自分だけで食べる直接の罰則はない自己責任・非推奨
釣ってリリースする問題なし推奨

ただし「罰せられない」ことと「食べてよい」ことは別です。他人にふるまって油下痢を起こさせれば人間関係のトラブルになりますし、飲食店が客に提供すれば明確な違法行為になります。当サイトとしては、たとえ自分用であっても積極的な摂取はおすすめせず、食べる場合はワックスエステルの性質を理解したうえで、すべて自己責任で判断していただきたいというのが基本姿勢です。

過去には、販売禁止を知らない、あるいは知っていても安く仕入れられることから、別の魚と偽って提供する事例も問題になってきました。買う側としては、相場より極端に安い「白身の大トロ」「謎の脂のり抜群の刺身」などには注意し、出どころの不明な魚は避けるのが安全です。釣り人としても、知人に「珍しい深海魚が釣れた」と気軽に配るのは控えましょう。

見分け方:尾柄の隆起線と側線で判別する

深海の船釣りで外道として釣れたとき、バラムツなのかアブラソコムツなのか、あるいは別の魚なのかを見分けられると安心です。どちらもクロタチカマス科の黒っぽい細長い大型魚で、目が大きくギラつき、口も大きいのが共通点です。決め手になるのは尾の付け根(尾柄)の隆起線側線です。

尾柄の隆起線:なし=バラムツ/あり=アブラソコムツ

最も確実なのは尾柄(尾びれの付け根)を見ることです。隆起線がなければバラムツ、隆起線があればアブラソコムツです。アブラソコムツは尾柄の中央に1本の隆起線があり、その上下にも小さな隆起が並びます。バラムツの尾柄はつるりとしていて隆起線がありません。

側線の走り方:波打つかどうか

側線の形でも見分けられます。バラムツの側線は不明瞭で、ほとんど波打たずに走ります。一方アブラソコムツの側線は体側の中央を大きく波打って走るのが特徴です。隆起線とあわせて確認すれば、ほぼ確実に判別できます。

ウロコの棘に注意

バラムツは名前の由来どおり、ウロコに薔薇の棘のような骨質の突起があります。素手で触ると手を傷つけるおそれがあるため、観察や写真撮影の際はグローブを着用してください。アブラソコムツの体表は比較的なめらかで、銀色がかって見える個体もいます。両種とも体は細長く、目が大きくギラついている点は共通しているので、最終的な判別は尾柄の隆起線で行うのが確実です。

「ムツ」がつくが安全なムツとは別の魚

名前に「ムツ」とつくため、安全に食べられるクロムツやムツと同じ仲間だと誤解されがちですが、これらはまったく別の科の魚です。クロムツやムツはムツ科の魚で、ワックスエステルの問題はなく、深海の高級魚として安心して食べられます。一方、バラムツとアブラソコムツはクロタチカマス科で、名前が似ていても中身はまるで違います。市場で「ムツ」として正規に売られている魚と、釣りで外道として掛かるバラムツ・アブラソコムツを混同しないよう注意してください。

釣れてしまったときの対処:リリースが基本

バラムツ・アブラソコムツは、深海ジギングや深海の餌釣りで、キンメダイやクロムツなどの本命を狙っているときに外道として掛かることがあります。掛かると強烈に引くため釣り味は楽しめますが、扱いには注意が必要です。

持ち帰らずリリースを推奨

当サイトでは、油下痢のリスクと販売できない事情をふまえ、持ち帰らずにリリースすることを基本としておすすめします。食べないのであればクーラーの場所も取らず、処理の手間もありません。リリースする際は、針を外しやすいようプライヤーを使い、ウロコの棘で手を切らないようグローブを着用しましょう。

どうしても持ち帰る場合の注意

それでも自己責任で持ち帰る場合は、他人に売ったり譲ったりしないこと、クーラー内で大量の油が出るため他の魚と分けて保管すること、そして食べるとしてもごく少量にとどめることが大切です。油は加熱しても消化できるようにはならないため、焼く・煮るといった調理で安全になるわけではない点も理解しておいてください。さばく際にはまな板や包丁、手にべったりと蝋がつき、洗ってもなかなか落ちません。調理場が油まみれになる手間も含めて、家庭で扱うメリットは小さいというのが実情です。

なお、干物や塩蔵にすればワックスが減るという話もありますが、消化できない性質そのものが変わるわけではなく、確実に安全になる加工法は確立されていません。「下処理を工夫すれば食べられる」と過信せず、リスクがゼロにはならない魚だと理解しておきましょう。

同じ深海で釣れる魚でも、クロムツのように脂がのって安心して食べられる高級魚もいます。せっかくの深海釣行なら、安全においしく食べられる可食魚を本命に絞るのが賢明です。バラムツ・アブラソコムツ以外の外道魚の扱い方は外道魚の正しい対処法の記事もあわせて参考にしてください。

よくある質問(FAQ)

Q. バラムツは本当に美味しいのですか?

身は白く脂がのっていて、味そのものは美味とされることが多いです。だからこそ過去に流通し、食中毒が問題になりました。味のよさとは無関係に消化できない油が漏れるため、味の評価と安全性は切り離して考える必要があります。

Q. 少しだけなら大丈夫ですか?

量が少ないほど症状は軽い傾向にありますが、刺身数切れでも翌日に油漏れを起こした例があり、出方には大きな個人差があります。「少量なら安全」という保証はないため、当サイトは少量でも非推奨としています。

Q. 加熱すれば食べられますか?

いいえ。ワックスエステルは加熱しても消化できる脂に変わるわけではありません。焼いても煮ても、未消化の油が漏れるリスクは変わりません。

Q. 釣り船で釣れたら船長に渡してよいですか?

船のルールに従ってください。多くの船ではリリース扱いになります。販売はできない魚なので、商品として扱われることはありません。

まとめ:売れない・消化できない・自己責任

バラムツ・アブラソコムツは、フグのような毒魚ではなく、ヒトが消化できないワックスエステルを大量に持つ深海魚です。食べると未消化の油が肛門から漏れ、下痢や腹痛、多量摂取では脱水などのリスクがあります。バラムツは1970年、アブラソコムツは1981年に食品衛生法に基づき販売が禁止されました。釣って自分で食べる行為に直接の罰則はないものの、安全が保証されるわけではありません。

見分けるなら尾柄の隆起線(なし=バラムツ/あり=アブラソコムツ)と側線の波打ち方を確認します。外道で釣れたときは、リスクと手間を考えてリリースするのが最も無難です。食べる場合はすべて自己責任で、ワックスエステルの性質を正しく理解したうえで判断してください。体調不良が続くときは早めに医療機関へ相談しましょう。

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