この記事の結論
1. 海水に落としたリールで最初にやるべきことは「ハンドルから手を離す」ことです。動作確認のつもりで回す一巻きが、内部に水を引き込み、塩と砂でギアの当たり面を削ります。
2. 帰宅後は水道水の流水で洗い、バケツに漬けず、温水も使わず、ドラグを締めて洗い、洗い終えたらドラグを緩めて日陰で自然乾燥させます。ドライヤーの熱風とエアダスターはシマノが明確に避けるよう案内しており、ダイワも常温での作業と風通しのよい日陰での乾燥を案内しています。
3. 電動リールは電源を入れないでメーカー直行、マグシールド搭載機は分解も注油も禁止です。シマノは「うっかり海水に水没させてしまった場合も、オーバーホールに出していただくほうが安心です」と公式に案内しています。
堤防の足元にリールを落とした、磯で波を被ってリールごと海に沈めた、ウェーディング中に転んでタックルごと水面下に入った。秋のサーフや磯は釣り人が増える一方で、足場が濡れて滑りやすく、うねりも入りやすい季節です。そして水没したリールの被害額を決めるのは、じつは水に沈んでいた時間ではなく、上げた直後にあなたが何をしたかです。
この記事は、シマノとダイワ(アフターサービスを担当するSLP)が公式に案内しているメンテナンス手順と修理規約を根拠に、水没という「日常メンテナンスの想定外」が起きたときの動き方だけを扱います。釣行ごとの通常の洗い方や注油の手順そのものは別記事にまとめてありますので、平常時のケアを知りたい方はそちらをご覧ください。
水没した直後の60秒でやること3つ、やってはいけないこと4つ
先にお断りしておくと、メーカーが「60秒以内に処置せよ」と定めているわけではありません。ただ、水から上げた直後の1分間は、まだ被害が「濡れただけ」で止まっている可能性がある時間帯です。ここで判断を誤ると、修理費が数千円で済むはずだった案件が、ギア交換を伴う一万円超の修理に化けます。
やること3つ
1つめは、ハンドルから手を離すこと。回るかどうかを確かめたくなりますが、その一巻きが最大の敵です。理由は次の章で詳しく説明します。
2つめは、電動リールならバッテリーのコードを外し、電源を入れないこと。シマノは電動リールの洗浄について「電源がONのまま洗浄しないでください」「電機部品の故障の原因となるため分解しないでください」と明記し、さらに乾燥の項でカウンター内部に曇りや水滴を確認した場合は「電源を入れずに修理を依頼してください」と案内しています。通電は基板へのダメージを確定させる操作です。
3つめは、真水があるなら塩を落とすこと。真水が手元にないなら、無理をせず砂だけ落として、回さずに持ち帰ります。海水で洗っても塩は落ちません。
やってはいけないこと4つ
ハンドルを回す、海水が入ったまま乾かす、ドライヤーやエアダスターで急いで乾かす、バケツやオケに漬けて洗う。この4つは、いずれもメーカーの公式案内に反する行為です。とくに漬け込み洗浄について、ダイワのアフターサービスであるSLPは「いずれの機種も水に漬け込むことはお止めください。」と機種を問わず禁じています。バケツやオケに水を溜めて沈める洗い方は、水圧がかかることで、水が入ってはいけない箇所まで浸水させてしまうからです。水没したリールを塩抜きしようとしてバケツに沈めるのは、同じ事故をもう一度起こす行為だということです。
| 水から上げた直後の行動 | 可否 | 理由と根拠 |
|---|---|---|
| ハンドルを回して動作確認する | やらない | シマノは洗浄中について「ハンドルを回すとスプール軸が前後した際にボディ内へ水分を引き込んでしまうことがあります」と案内しています |
| スプールを外して中を見る | やらない | シマノは「外すとドラグ内に水が入ってしまう」として、スプールは装着したまま洗うよう案内しています |
| ドラグを締める | やる | シマノもダイワも、洗浄はドラグを締め込んだ状態で行うよう案内しています |
| 電動リールのコードを外す | やる | シマノは電動リールの洗浄前に竿から外しケーブルも外すよう案内し、電源ONでの洗浄を禁じています |
| 電動リールの電源を入れて確認する | やらない | シマノはカウンター内部に曇りや水滴がある場合、電源を入れずに修理を依頼するよう案内しています |
| 真水の流水で塩を落とす | やる | 両社とも洗浄は水道水の流水で行うよう案内しています |
| バケツに漬けて塩抜きする | やらない | ダイワのSLPは機種を問わず漬け込み洗浄を禁じています |
| ドライヤーの熱風を当てる | やらない | シマノは内部の蒸れや塗装の退色につながるとして避けるよう案内しています |
なぜ「ハンドルを回す」が致命傷なのか、浸水と塩の結晶化という二段構え
水没したリールでハンドルを回してはいけない理由は、ひとつではありません。順番に効いてくる二段構えの被害です。
第一段、回すこと自体が水を吸い込む
スピニングリールはハンドルを回すとスプール軸が前後に動きます。シマノはこの動きについて、洗浄中にハンドルを回すと「スプール軸が前後した際にボディ内へ水分を引き込んでしまうことがあります」と説明しています。ダイワのSLPも洗浄時の注意として「ハンドルは回さないよう注意してください。」と案内しています。つまりハンドルは、外側の水を内側へ運ぶポンプとして働きます。すでに本体が水に沈んだあとであれば、外側にあるのは海水です。
第二段、入った塩水が乾いて結晶になる
海水が内部に入ったまま放置すると、水分だけが抜けて塩が残ります。シマノは電動リールのメンテナンス案内で「塩やコマセで汚れたまま放置すると、塩の結晶化による固着や、各部にサビが生じる恐れがあります」と明言しています。結晶化した塩はギアやベアリングの当たり面に噛み込み、そこへ砂粒が加われば研磨剤として働きます。水没直後は「重いけれど回る」状態でも、乾いた翌日に固着して動かなくなるのは、この二段目が進行するからです。
ここで多くの記事が混乱している点
じつは、メーカーが「ハンドルを回すな」と書いているのはスピニングリールの通常洗浄についてです。電動リールや両軸リールでは逆に、シマノもダイワも、ハンドルやクラッチを動かしながら流水を当てて内部の塩まで洗い流すよう案内しています。矛盾しているように見えますが、前提が違います。通常洗浄は「内部にはまだ海水も砂も入っていない」ことを前提に、外から水をかけて塩を流す作業です。水没は、その前提が崩れた状態を指します。
内部に海水と砂が入っている疑いがある機体で駆動部を動かせば、洗い流すどころか、砂を巻き込んだまま金属同士を擦り合わせることになります。だからこそシマノは、日常メンテナンスのページの末尾で「うっかり海水に水没させてしまった場合も、オーバーホールに出していただくほうが安心です」と、日常メンテとは別の扱いを明記しているのです。回して確かめたい気持ちを止められるかどうかが、この記事でいちばん大事な分岐点になります。
釣り場での応急処置、真水の有無と「どこまで浸かったか」で手順が変わる
まず、どこまで浸かったかを分類する
同じ「水没」でも、処置の重さはまったく違います。次の3段階で自分の状況を当てはめてください。
レベル1、飛沫や波を被った、スプール側だけが濡れた。ドラグを締めていたなら、内部浸水はしていない可能性が高い状態です。帰宅後の通常洗浄で足りることが多く、ここで慌てて分解する必要はありません。
レベル2、リール全体が一瞬水に沈んだ。ボディとローターまで海水に浸かったなら、内部浸水を前提に扱います。防水機構は水圧のかかった浸漬を想定していないためです。ダイワが機種を問わず漬け込み洗浄を禁じている理由がまさにこれで、水圧がかかると水が入ってはいけない箇所まで浸水するからです。
レベル3、沈めたまま時間が経った、砂に埋まった、ドラグを緩めた状態で沈めた。この段階は自力の洗浄では届きません。表面をどれだけ丁寧に流しても、ドラグワッシャーの間やギアボックスの奥に入った塩水は残ります。全分解を前提に考えてください。
真水がある場合
ペットボトルの飲料水、車載の水タンク、釣り場の水道が使えるなら、ドラグを締めた状態で、上から流しかけて塩を落とします。ダイワはシャワー洗浄対応機種について「シャワーをドラグの真上からかけ、全体の汚れを洗い流します」と案内していますので、この向きに倣うのが安全です。優先順位は、ラインローラー、ハンドルノブの回転部、ベールの付け根です。シマノはラインローラーを「特に塩噛みしやすい箇所」、ハンドルノブを「ケアを怠ると固着しやすい部分」と表現し、ベール付け根の可動部にも汚れが溜まると案内しています。
注意点がひとつあります。漁港の洗い場には海水を引いている設備がある場合がありますので、その水が真水かどうかを必ず確認してから使ってください。海水で流しても塩は落ちず、砂を押し込むだけになります。
真水がない場合
無理に洗おうとせず、砂と海藻など目に見える異物だけを落とし、ハンドルを回さずに持ち帰るのが最善です。中途半端に少量の水をかけると、塩を溶かしきれないまま奥へ運んでしまいます。移動中はリールをタオルで包み、ロッドから外して水抜きしやすい向きで置いておきます。帰宅までの数時間で塩の結晶化は進みますが、砂を噛んだまま回転させる被害に比べれば軽微です。
なお、水没したのがリールだけとは限りません。ロッドのガイドやリールシート、スプールに巻いてあるラインにも海水と砂が入り込みます。ロッドとラインの手入れ、仕掛けや小物のサビチェックまでは釣具のメンテナンス・お手入れ入門完全ガイドにまとめてありますので、リールの処置が一段落したら合わせて確認してください。
帰宅後24時間の手順、すすぎとドラグと乾燥の正解
ここからは自宅での作業です。順序は「洗う、水を切る、拭く、乾かす」の4段階で、急がないことが唯一のコツになります。
洗う、漬けない、温めない
洗浄は水道水の流水で行います。シマノは「洗浄は水道水の流水で行い、水の中に漬け込まないようにしてください」と明記しています。温水を使わない理由も両社が同じことを言っており、シマノは「グリスが流れてしまう恐れがあるので温水は使わないこと」、ダイワは「内部のグリスが溶け出してしまうので、お湯や温水シャワーでの洗浄はNGです」としています。ダイワは電動リールについてシャワーの温度を30度以下に設定するよう具体的に案内しています。
つまり、ネット上でときどき見かける「ぬるま湯に漬けて塩抜き」は、メーカーの案内では二重に否定されています。塩は落ちるかもしれませんが、代わりにグリスが流出し、金属が直接擦れ合う状態が残ります。
ドラグは締めるのか緩めるのか
ここが最も間違えられている点です。答えは洗うときは締める、乾かすときは緩めるで、場面によって逆になります。洗浄中にドラグを緩めると、ドラグワッシャーの隙間から水が入ります。乾燥中に締めたままだと、入った水分が抜けません。
| 項目 | シマノ公式の案内 | ダイワ(SLP)公式の案内 |
|---|---|---|
| 洗い方 | 水道水の流水で洗い、水の中に漬け込まない | シャワー洗浄対応機種は常温シャワー、非対応機種は真水を浸した布で拭き取り |
| 漬け置き | 水の中に漬け込まないよう案内 | 機種を問わずバケツやオケでの漬け込み洗浄を禁止 |
| 水温 | グリスが流れる恐れがあるため温水は使わない | お湯や温水シャワーはNG、電動リールはシャワー30度以下 |
| 洗浄中のドラグ | スプールを外さず、ドラグを軽く締め込んだ状態で洗浄 | ドラグへの浸水を防ぐためしっかり締め込み、シャワーはドラグの真上から |
| 洗浄中のハンドル | スピニングは回さない、電動と両軸は動かしながら洗う | スピニングは回さない、電動は動かして内部にも水を流す |
| 乾燥中のドラグ | 電動リールは洗浄前に締めたドラグを緩めると明記 | スピニングも電動も、洗浄後はドラグを緩めて乾燥 |
| 乾燥場所 | 日陰での自然乾燥が鉄則、屋内か風通しのよい日陰 | 風通しのいい日陰でしっかり乾燥 |
| 熱と送風 | ドライヤーの熱風と日なたは内部の蒸れにつながるため避ける、エアダスターも推奨しない | お湯を避ける方針と同じく、常温での作業を案内 |
| 乾燥の姿勢 | 電動リールは水抜き穴を下に向ける、リールフットを垂直に立てると水が抜けきらない | 電動リールはリールフットの水抜き穴を下にしてまっすぐ置く、ロッドに付けたままや角度をつけた乾燥は避ける |
乾かす、ここで24時間を使う
拭き取りは乾いた柔らかい布で行い、そのあとは屋内か風通しのよい日陰に置きます。シマノは乾燥の鉄則を「日陰での自然乾燥」と表現し、早く乾かそうとしてドライヤーの熱風を当てたり日なたに置いたりすると内部の蒸れにつながるとしています。スプレータイプのエアダスターで水気を飛ばすことも推奨していません。エアダスターは、抜けかけていた水分を奥へ押し戻す可能性があるためです。
半日から1日、時間をかけて自然乾燥させます。焦って翌日の釣行に持ち出したくなりますが、内部に水分が残った状態で使えば、そこから錆が始まります。完全に乾いたら、外から見える範囲の可動部にオイルとグリスを差します。差す場所と量は機種ごとに違うので、必ず手持ちのリールの取扱説明書に従ってください。オイルとグリスの使い分けや具体的な製品はリールメンテナンス用品おすすめ10選2026で比較しています。
ここまでが「水没機に対して自分でやってよいこと」の全部です。釣行ごとの通常の手入れ、つまりスピニングとベイトそれぞれの洗い方から乾燥、注油、グリスアップまでの平常運転の手順はリールのメンテナンス完全入門2026にまとめてありますので、この記事とは切り分けて読んでいただくのが確実です。
スピニング、ベイト、電動リール、自分の手を止める線はどこか
水没の対処で最も差が出るのがここです。同じ「水没した」でも、自力で処置できる範囲がリールの種類によってまったく違います。
スピニングリール
流水での洗浄と自然乾燥までは自分でできます。ただしシマノは「シマノのスピニングリールのボディは密閉性が高く、またギアも緻密に組み上げているため、無闇に分解すると元の巻きごこちに戻らなくなるケースもあるのでおすすめできません」と述べており、ダイワのアフターサービスであるSLPも、お客様自身によるマグシールド部の分解や注油は絶対にしないよう明確に禁じています。ボディを開けた時点で、あなたの手を止める線を越えています。
ベイトリール、両軸リール
スピニングと同様に、外からの洗浄と乾燥までが自力の範囲です。ダイワは通常の手入れについて「ベイトリールはそのまま水洗いしてOKです」と案内していますが、これは平常時の話であり、水没後にサイドプレートを開けてギアを覗く行為までを許可したものではありません。ベイトリールはギアとクラッチが密集しており、塩水が入ると固着してクラッチが切れなくなります。クラッチの隙間は塩が噛みやすい箇所なので、シマノも平常時のベイト、両軸の洗浄では、クラッチやハンドルを動かしながら流水を当てて内部の塩まで流すよう案内しています。ただしこれは砂を噛んでいない前提の手入れです。水没させた直後は、まず流水で塩と砂を十分に流し切ってから動かしてください。
電動リール、ここだけは扱いが別
電動リールは、他の2種類と同じ発想で触ってはいけません。理由は基板とモーターという電機部品を積んでいるからです。シマノは電動リールについて「電機部品の故障の原因となるため分解しないでください」と明記し、洗浄前に竿から外しケーブルも外して完全に冷ますこと、電源がONのまま洗浄しないことを条件にしています。そして乾燥の段階でカウンター内部に曇りや水滴を確認した場合は、電源を入れずに修理を依頼するよう案内しています。
海水に沈めた電動リールで通電を試すのは、乾いていない基板に電気を流す行為です。動くかどうかを確かめたい誘惑がいちばん強いのがこのタイプですが、確かめた瞬間にショートして、修理可能だったものが修理不能になり得ます。コードを外し、水を切り、水抜き穴を下にして乾かし、そのままメーカーへ送る。これが電動リールの手順です。
| リールの種類 | 自分でやってよいこと | 手を止める線 |
|---|---|---|
| スピニングリール | ドラグを締めた流水洗浄、拭き取り、日陰での自然乾燥、見える可動部への注油 | ボディを開ける、ローターを外す、ドラグを分解する |
| ベイト、両軸リール | ドラグを締めた流水洗浄、可動部を動かしながらの洗浄、拭き取り、日陰での自然乾燥 | サイドプレートを開ける、ギアやクラッチ周りを分解する |
| 電動リール | シャワー洗浄対応機はケーブルを外した状態での流水洗浄、非対応のノーマルタイプは真水を含ませた布での拭き取り、いずれも水抜き穴を下にした日陰乾燥とコネクター部の清掃 | 電源を入れる、通電テストをする、本体を分解する |
| マグシールドなど防水機構搭載機 | 外からの流水洗浄と乾燥、ベールの付け根とハンドルノブへの注油 | 該当部の分解、該当部への注油、漬け込み |
マグシールドなど防水機構を積んだリールでやってはいけないこと
ダイワのマグシールドは、マグオイルと呼ばれる磁性流体を磁場でオイルの膜として保持し、水分とゴミの侵入を防ぐ機構です。パッキンのように接触しないため回転が軽いという利点がある反面、水没時の扱いには固有の禁忌があります。
ダイワのアフターサービスであるSLPは、マグシールドについて「分解して磁場を崩したり、マグオイルに別の潤滑油を混ぜてしまったりすると、その機能を失ってしまいます。そのためお客様ご自身によるマグシールド部の分解や注油は絶対におやめください」と明確に禁じています。しかも、混ぜてはいけない潤滑油にはダイワ純正のオイルやグリスも含まれます。SLPは実際の修理事例として、マグシールド部にグリスを噴射してしまったリールを取り上げ、「マグオイルは別のグリスやオイルが混ざるとその機能を失ってしまいます。それはダイワ純正のものであっても同じこと」と説明しています。
水没したリールを助けたい一心で、防水機構の周りに水置換スプレーやオイルを吹き込みたくなりますが、マグシールド搭載機ではその行為自体が二次被害になります。SLPが案内しているマグシールド搭載スピニングリールの注油箇所は「ベールの付け根」と「ハンドルノブ」だけです。それ以外には触らないでください。
シマノ機にも防水性を高めた機構を備えたモデルがありますが、考え方は同じで、ボディを開けずに外から洗い、乾かすところまでが自力の範囲です。防水機構は「浸けても大丈夫」という意味ではなく、飛沫や雨から守るためのものだと理解しておくと判断を間違えません。ダイワが機種を問わず漬け込み洗浄を禁じているのは、防水機構の有無にかかわらず水圧には勝てないからです。
乾燥後に巻いてみて、ゴロゴロした重さや、シャリシャリという砂を噛んだような感触が残ることがあります。その感触が何を意味するのかは症状ごとに違い、リールのゴリ感・シャリ感の原因と直し方で家庭でできる切り分け手順とオーバーホールに出すべき境界線を解説していますので、修理に出すかどうかの判断材料にしてください。
メーカーに出す判断、料金と納期、伝えるべきこと、保証と保険
出す前にやってはいけないこと
3つあります。ひとつめは自分で分解すること。シマノの修理規約は、社外品が取り付けられている製品や「当社以外の者により不当な修理が行われた製品」を改造品として、原則サービスを提供できないと定めています。ふたつめは社外パーツを付けたまま送ること。同規約は、修理依頼品に社外品が付いている場合は依頼者側で一切取り外すよう求めています。社外ハンドルやカスタムスプールを装着している方は、必ず純正に戻してから出してください。みっつめは、電動リールの電源を入れて動作確認することです。
伝えるべき3つの情報
受付票やダイレクト修理サービスの依頼内容には、症状だけでなく、次の3点を書いてください。技術者が分解前に想定する作業の重さが変わります。
水質、つまり海水か淡水か。経過、つまりいつ水没させて、どのくらい沈んでいたか。その後の操作、つまり洗ったか、回したか、通電したか。とくに「回してしまった」「電源を入れてしまった」は、隠さず正直に書くほど正確に見てもらえます。あわせて、シマノの修理規約では申し込み時に「サービス料金が一定金額を超えた際に修理を希望しない場合の当該金額」を伝えられると定められています。この上限金額を先に書いておくと、想定外の高額修理を避けられます。
料金の目安
水没機はドラグの中やギアボックスの奥にまで塩が入っているため、簡易整備では塩を落としきれません。全分解して部品単位で洗浄するコース、つまりオーバーホールの側を選ぶのが筋です。以下は各社の公式サイトに掲載されている料金です。
| メーカー、サービス | コース | 料金(税込) | 備考 |
|---|---|---|---|
| シマノ | スピニング、フルメンテナンス | 工賃4,510円と交換パーツ代 | 工賃とパーツ代の合計が16,500円を超える場合は見積提示 |
| シマノ | スピニング、スタンダード | 工賃3,960円 | 全箇所の分解洗浄とグリスアップ、パーツ交換は行わない |
| シマノ | 両軸、フルメンテナンス | 工賃4,180円と交換パーツ代 | 合計16,500円を超える場合は見積提示 |
| シマノ | 両軸、スタンダード | 工賃3,630円 | パーツ交換は行わない |
| シマノ | 電動、フルメンテナンス | 工賃5,500円と交換パーツ代 | 合計22,000円を超える場合は見積提示 |
| シマノ | 電動、スタンダード | 工賃4,950円 | パーツ交換は行わない |
| ダイワ(SLP) | スピニング、ベイト、両軸のオーバーホール | 手数料4,950円 | 作動点検、全分解、部品の洗浄、消耗パーツ交換、グリスアップ |
| ダイワ(SLP) | 電動のオーバーホール | 手数料6,050円 | 同上 |
| ダイワ(SLP) | スピニング、ベイト、両軸のオイルチェック | 手数料3,300円 | 診断と簡易分解、注油のライトな整備 |
| ダイワ(SLP) | 電動のオイルチェック | 手数料3,850円 | シーボーグ1800とマリンパワーは対象外 |
納期は修理内容と時期によって変わります。シマノは公式のアフターサービス案内で、時期ごとのお預かり期間の目安を「修理リードタイム状況に関して」というお知らせで公開しているので、依頼前にそこを確認するのが確実です。販売店に預けて送る流れだと、輸送と受付を含めて2〜3週間程度かかることが多く、繁忙期や交換パーツの欠品が重なればさらに延びると考えておくのが現実的です。個別の進捗は預けた釣具店、またはシマノのダイレクト修理サービスの場合はマイページで確認する運用になります。秋のシーズン中に必ず使いたいリールなら、予備の用意も同時に考えておくのが安全です。
もうひとつ、年式の古い機種は修理できない場合があります。シマノは補修用性能部品の保有期間を製造中止後6年間としており、保有期間を過ぎた製品は修理や部品交換を伴うオーバーホールを受け付けられないと修理規約に定めています。10年選手のリールを水没させた場合は、修理を待つより買い替えの検討が現実的なこともあります。
保証と保険は当てにしない
結論から言うと、水没はメーカー保証で拾えないと考えてください。ダイワは電動リールの保証書について、購入から1年間、使用時間200時間以内、巻き上げ距離100km以内といった条件を定めたうえで、「保証期間内である場合でも衝撃等の外圧や、塩害による不具合は保証の対象外となります」と明記しています。落下や衝撃、水没といった外的要因は無料修理の対象外という扱いです。シマノについては、保証の条件は製品ごとの保証書裏面の保証規定に記載されており、修理規約でも保証規定が優先すると定められていますので、手元の保証書を確認してください。
釣り保険や火災保険の携行品損害で釣具が拾えるかどうかは、商品ごとの約款によって扱いが分かれます。一般則として断定できる話ではありませんので、加入している保険の証券と約款で、携行品損害の補償範囲と対象外品目にレジャー用品や釣具が含まれていないかを、実際に自分の目で確認してください。
秋のサーフや磯で水没させないための置き方と、まとめ
いちばん安い対策は、そもそも落とさないことです。秋の釣り場で効く配置を3つだけ挙げます。
ロッドの置き方。波打ち際や磯場では、ロッドを海側に穂先を向けて寝かせないでください。引き波にラインを引かれてロッドごと海へ持っていかれます。置くなら穂先を陸側へ、リールは砂や礫に接しない向きにします。堤防でロッドを立てかける場合も、リールが下側になる置き方は避けます。
ウェーディング時のランヤード。腰まで立ち込むなら、ロッドと体を繋ぐランヤードやフローティングストラップを使ってください。転倒時に手を離してもタックルが流れていかず、リールが海底の砂に埋まる最悪の展開を避けられます。
ライフジャケットは道具の話より先。サーフのウェーディングも磯も、転倒と落水のリスクがある釣り場です。リールの心配をする前に、まず自分が浮くことを確保してください。船釣りでは小型船舶の乗船者にライフジャケットの着用が義務づけられています。陸からの釣りに着用義務はありませんが、秋の磯やウェーディングでは着けていることが前提だと考えてよい環境です。ヘッドライトも、暗い時間に濡れた足場を歩くなら必須の装備になります。
まとめ
リールを海水に水没させたときにやることは、突き詰めると次の順序です。ハンドルから手を離す。電動ならコードを外して電源を入れない。真水があればドラグを締めたまま流水で塩を落とす。帰宅後は漬けず、温めず、洗い終えたらドラグを緩めて、日陰で半日から1日かけて自然乾燥させる。そのうえで、レベル2以上の浸水ならメーカーのオーバーホールへ出す。
シマノが日常メンテナンスのページで水没だけを別枠にして「オーバーホールに出していただくほうが安心です」と書いているのは、水没が日常の手入れの延長では回収できない事故だからです。自分の手で完結させようとせず、どこで手を止めるかを先に決めておくことが、結果として最も安く済む道になります。



