浜名湖の天然ウナギ──釣り人だけが味わえる「本物の鰻」を自宅で極める
浜名湖といえばウナギ。全国的に「浜名湖=鰻」のイメージが定着しているが、実はこの湖で天然ウナギを釣り上げて自分で調理する釣り人は意外と少ない。専門店で食べる養殖鰻も美味しいが、浜名湖や都田川・細江湖で夜釣りで仕留めた天然ウナギの味わいは、脂の質・香り・身の弾力すべてが別次元だ。
ただし、天然ウナギの調理にはいくつかの壁がある。「捌くのが難しそう」「蒲焼きのタレってどう作るの?」「血に毒があると聞いて怖い」──こうした不安を全部解消するのがこの記事の目的だ。釣り上げてから食卓に並ぶまでの全工程を、釣り人目線で徹底解説する。骨・肝・頭まで無駄なく使い切るレシピも紹介するので、1匹の天然ウナギを余すところなく堪能してほしい。
難易度:中級(捌きに慣れが必要だが、コツさえ掴めば誰でもできる)
天然ウナギの下処理──血の毒を制し、ぬめりを完全除去する
ウナギの血液毒「イクチオヘモトキシン」について
ウナギの血液には「イクチオヘモトキシン」というタンパク質性の毒が含まれている。目や傷口に入ると炎症を起こすため、捌くときは注意が必要だ。ただし、この毒は60℃以上の加熱で完全に無毒化されるので、焼き・煮・揚げの調理をすれば一切心配ない。刺身で食べない限り問題なしだ(そもそもウナギの刺身は一般的ではない)。
- 捌くときはゴム手袋を推奨(ぬめり対策にもなる)
- 目に血が飛ばないよう注意
- 手に傷がある場合は必ず手袋着用
- まな板・包丁は作業後すぐに熱湯で洗う
釣り場での活かし方と持ち帰り
天然ウナギは鮮度が命。釣り場での扱いが最終的な味を大きく左右する。
- 釣れたらすぐにバケツへ:エアポンプ付きの活かしバケツがベスト。浜名湖の汽水で釣った場合はそのまま浜名湖の水を使う
- 泥抜きは自宅で:真水(水道水)に1〜2日入れておくと泥臭さが抜ける。水は半日ごとに交換。都田川上流で釣った個体は泥臭さが少ないため半日で十分
- 持ち帰りはクーラーボックスに湿らせた新聞紙:ウナギは皮膚呼吸ができるため、少量の水と湿った新聞紙で生きたまま運搬可能
捌き方──目打ちから背開きまでの手順
ウナギ捌きの最大のハードルは「目打ち」と「背開き」だ。関東は背開き、関西は腹開きが伝統だが、浜名湖は地理的に中間地点。ここでは家庭で扱いやすい背開きを紹介する。
用意するもの:
- 目打ち(千枚通しや太い釘で代用可。ホームセンターで手に入る)
- ウナギ裂き包丁(なければ出刃包丁やペティナイフで代用)
- まな板(木製が滑りにくくベスト)
- 氷水(締める用)
手順:
- 締める:氷水に10〜15分漬けて動きを鈍らせる。完全に動かなくなってから作業開始
- ぬめり取り:塩を大さじ2ほど振ってゴシゴシ揉み、流水で洗い流す。これを2回繰り返す
- 目打ち:目の下あたりに千枚通しを刺し、まな板に固定する。ウナギの背を手前にする
- 背開き:背びれの左側に包丁を入れ、中骨に沿って尾まで一気に切り開く。骨に沿わせるのがコツ
- 内臓除去:内臓を取り除き、肝は別取りしておく(肝吸い・肝焼きに使う)
- 中骨を外す:中骨の下に包丁を入れ、腹側の身を切り離さないよう慎重に骨を剥がす
- 頭を落とす:頭は捨てずに取っておく(出汁に使える)
コツ:最初の1匹目は必ず失敗する。3匹目くらいから感覚が掴めるので、釣果が多い日にまとめて練習するのがおすすめだ。YouTube動画を事前に何度か観ておくと、包丁の角度がイメージしやすい。
蒲焼き──関東式「蒸し」と関西式「直焼き」を自宅で再現する
タレの作り方(自家製蒲焼きダレ)
市販のタレでも作れるが、自家製タレの香りと深みは段違い。一度作ると冷蔵保存で1ヶ月以上持つので、ぜひ仕込んでおきたい。
| 材料 | 分量 | 備考 |
|---|---|---|
| 醤油 | 200ml | 濃口醤油。浜松なら「かめびし」や地元醤油も合う |
| みりん | 200ml | 本みりんを使うこと。みりん風調味料はNG |
| 砂糖 | 大さじ4 | ザラメがベスト。コクが出る |
| 酒 | 100ml | 料理酒でOK |
| ウナギの頭・骨 | 1匹分 | 焼いてから入れるとさらに旨味UP |
- ウナギの頭と骨を魚焼きグリルで軽く焼き色がつくまで焼く(5分ほど)
- 鍋にみりんと酒を入れて強火で沸騰させ、アルコールを飛ばす(約2分)
- 醤油・砂糖・焼いた頭と骨を加え、中火で15分煮詰める
- 骨と頭を取り出し、とろみがつくまでさらに5〜10分煮詰める
- 冷めたら清潔な瓶に移し、冷蔵保存。使うたびに骨を入れて煮ると風味が深まる
関東式蒲焼き(蒸してから焼く)
ふっくら柔らかい仕上がりが特徴。脂が多い天然ウナギに特に合う。
- 開いたウナギを串打ちする(竹串を3〜4本、身側から皮側へ等間隔に刺す)
- 白焼き:魚焼きグリルまたは炭火で、皮面から中火で3〜4分、返して身側を2〜3分焼く。タレはまだ塗らない
- 蒸す:蒸し器に入れて10〜15分蒸す。蒸し器がなければ深めのフライパンに水を張り、皿に載せたウナギを入れて蓋をして代用
- 本焼き:タレをハケで塗り、グリルで1〜2分。返してまたタレを塗り1〜2分。この「塗って焼く」を3回繰り返す
- 最後にタレをたっぷり塗って完成
関西式蒲焼き(蒸さずに直焼き)
パリッとした皮の食感と、身の弾力を楽しめる焼き方。浜松は関東と関西の中間地点だが、天然ウナギの力強い味を活かすなら関西式もおすすめだ。
- 串打ちしたウナギを、皮面から強めの中火で焼く(4〜5分)
- 返して身側を3〜4分焼く
- タレを塗って焼く→返してタレを塗って焼く、を4〜5回繰り返す
- 皮がパリッと、身がジュワッとなったら完成
コツ:炭火がベストだが、家庭のガスグリルでも十分美味しく焼ける。その場合、焼き網の上にアルミホイルを敷かないこと。直火の輻射熱で皮をパリッと仕上げるのがポイントだ。七輪があれば最高──ホームセンターで2,000円程度で買えるので、ウナギ釣り師なら1台持っておいて損はない。
白焼き──天然ウナギの実力を「素」で味わう最高の食べ方
白焼きの焼き方
脂の質が良い天然ウナギなら、白焼きこそ真骨頂。養殖とは明らかに違う、品のある脂の甘みと、川や湖の風味をダイレクトに感じられる。
- 串打ちしたウナギに軽く塩を振る(振りすぎ注意。あくまで下味程度)
- 皮面から中火で4〜5分、返して身側を3〜4分焼く
- 焼きすぎないこと。身にうっすら透明感が残る程度がベスト
- 焼き上がったらすぐに串を抜く(冷めると身に刺さったまま取れなくなる)
白焼きの食べ方3パターン
| 食べ方 | 薬味・調味料 | 相性の良い酒 |
|---|---|---|
| わさび醤油 | 本わさび+醤油少々 | 純米大吟醸(花の舞・開運など静岡の地酒) |
| 塩とすだち | 粗塩+すだち搾り | 辛口の冷酒、またはシャブリなどの白ワイン |
| ポン酢おろし | 大根おろし+ポン酢 | 焼酎ロック(芋焼酎が合う) |
コツ:白焼きは焼きたてを即座に食べるのが鉄則。家族の箸が揃うまで待つのはNG。焼けた人から順に食べ始めるスタイルがベストだ。
ひつまぶし──名古屋発祥を浜松流にアレンジする三度美味しい食べ方
材料(2人前)
| 材料 | 分量 |
|---|---|
| 蒲焼き | 1匹分 |
| ご飯 | 2合(硬めに炊く) |
| 蒲焼きダレ | 大さじ3〜4 |
| 刻み海苔 | 適量 |
| 万能ねぎ(小口切り) | 適量 |
| わさび | 適量 |
| 白ごま | 適量 |
| 出汁 | 300ml(かつお昆布出汁、または鰻の骨で取った出汁) |
作り方
- 蒲焼きを1.5cm幅に切る
- おひつ(なければ大きめの丼)にご飯を盛り、タレを回しかけ、切った蒲焼きを並べる
- 薬味を別皿に盛り付ける
- 出汁を小鍋で温めておく(沸騰直前で火を止める)
三段階の食べ方
- 一杯目:そのまま──茶碗によそって蒲焼きとご飯のシンプルな旨さを味わう
- 二杯目:薬味で──ねぎ・わさび・海苔・ごまをたっぷり載せて、味変を楽しむ
- 三杯目:出汁茶漬け──薬味を載せた上から熱い出汁をかけて、サラサラと食べる。天然ウナギの脂が出汁に溶け出して得も言われぬ旨さ
浜松流アレンジ:出汁を取るときに、ウナギの頭と骨を焼いたものを昆布と一緒に煮出すと、鰻出汁の風味が加わって格段に美味しくなる。名古屋のひつまぶし店では鰹出汁が一般的だが、浜名湖の天然鰻なら骨出汁で作る贅沢を味わってほしい。
うざく・う巻き・肝焼き──蒲焼きの「もう一品」副菜レシピ
うざく(鰻ときゅうりの酢の物)
蒲焼きの濃厚さを爽やかにリセットしてくれる、夏の定番副菜。浜名湖の天然ウナギを釣った日の晩酌に最高の一品だ。
材料(2人前):
- 蒲焼き:半身
- きゅうり:2本
- 塩:小さじ1/2(きゅうりの塩もみ用)
- 酢:大さじ3
- 砂糖:大さじ1.5
- 薄口醤油:小さじ1
- 生姜(千切り):適量
手順:
- きゅうりを薄切りにし、塩もみして10分置く。水気をしっかり絞る
- 酢・砂糖・薄口醤油を混ぜて三杯酢を作る
- 蒲焼きを一口大に切る
- きゅうりと蒲焼きを三杯酢で和え、冷蔵庫で30分冷やす
- 器に盛り、生姜の千切りを天盛りにする
う巻き(鰻の卵焼き)
材料(2人前):
- 蒲焼き:半身(細長く切る)
- 卵:4個
- 出汁:大さじ3
- 砂糖:大さじ1
- 薄口醤油:小さじ1
- みりん:小さじ1
手順:
- 卵を溶き、出汁・砂糖・薄口醤油・みりんを加えてよく混ぜる
- 卵焼き器を中火で熱し、油を薄くひく
- 卵液の1/3を流し入れ、半熟の状態で蒲焼きを手前に置く
- 蒲焼きを芯にして奥から手前へ巻く
- 残りの卵液を2回に分けて流し入れ、そのつど巻いていく
- 巻きすで形を整え、5分ほど落ち着かせてから切り分ける
肝焼き──釣り人の特権、新鮮な肝でしか作れない一品
ウナギの肝は鮮度が落ちるのが早く、スーパーではまず手に入らない。釣ったその日に食べる肝焼きは、釣り人だけの贅沢だ。
材料:
- ウナギの肝:2〜4匹分(1匹分だと少ないので、数釣りした日にまとめて作るのがおすすめ)
- 蒲焼きダレ:適量
- 山椒:適量
手順:
- 肝を流水で丁寧に洗い、胆嚢(緑色の小さな袋)を潰さないように取り除く。潰すと強烈な苦味が出る
- 沸騰した湯で30秒ほどサッと湯通しし、臭みを抜く
- 串に刺して(竹串に3〜4個ずつ)、グリルで軽く焼く
- タレを塗って焼く→返してタレを塗って焼く、を2〜3回繰り返す
- 山椒を振って完成。ビールとの相性は最強クラス
コツ:胆嚢を潰してしまった場合は、その肝だけ流水で念入りに洗えば苦味は軽減できる。ただし、最初から丁寧に扱うに越したことはない。
骨せんべい・頭の素揚げ──1匹を完全に使い切る「もったいない」精神
骨せんべい
ウナギの中骨は、カリッと揚げれば最高の酒のつまみに化ける。カルシウムも豊富で、まさに一石二鳥。
手順:
- 捌いたときに外した中骨を、キッチンペーパーで水気をしっかり拭く
- 10cm程度の長さに切る
- 170℃の油で5〜7分、泡が小さくなるまでじっくり揚げる。低温でじっくりがカリカリの秘訣
- 油を切り、熱いうちに塩を振る。カレー粉や七味をまぶしても旨い
頭の素揚げ
タレの出汁取りに使った頭も、そのまま揚げればつまみになる。
- タレの出汁取り後(または生のまま)、水気を拭き取る
- 160℃の油で10〜12分、じっくり揚げる。頭は骨が硬いので低温・長時間が鉄則
- 塩を振って完成。顎の部分にゼラチン質が多く、これが旨い
浜名湖天然ウナギ料理に合わせる酒と保存のコツ
ウナギに合わせる酒の提案
| 料理 | おすすめの酒 | 選ぶ理由 |
|---|---|---|
| 蒲焼き | 純米酒・常温(花の舞「純米辛口」など) | タレの甘辛に純米の旨味が寄り添う |
| 白焼き | 純米大吟醸・冷酒(開運「大吟醸」など) | 繊細な脂の甘みに華やかな吟醸香が合う |
| ひつまぶし(出汁茶漬け) | 焼酎のお湯割り | 温かい出汁に焼酎の柔らかさがマッチ |
| うざく | 辛口のビールまたはハイボール | 酢の物の爽やかさに炭酸の切れ味が最高 |
| 肝焼き | ビール(生ビールが最適) | ほろ苦い肝にビールの苦味が共鳴する |
| 骨せんべい | ホッピーまたはレモンサワー | カリカリ食感の塩系つまみに軽い酒がベスト |
浜松には「花の舞酒造」(浜北区)や「土井酒造場」(掛川市、「開運」で有名)など、地元の銘酒が揃っている。天然ウナギ×静岡の地酒──これ以上の贅沢はなかなかない。
保存方法
- 蒲焼きの冷蔵保存:タレごとラップで密閉し、冷蔵庫で2〜3日。食べるときはグリルで軽く炙り直すと、焼きたての香ばしさが復活する
- 蒲焼きの冷凍保存:1切れずつラップで包み、ジップロックに入れて冷凍。1ヶ月以内に食べきる。解凍は冷蔵庫で自然解凍してからグリルで温める
- 白焼きの冷凍:ラップ→ジップロックで冷凍。食べるときにそのままグリルで焼き直せばOK
- タレの保存:清潔な瓶で冷蔵保存。1ヶ月以上持つ。使うたびに骨を加えて煮れば風味が増す「継ぎ足しタレ」になる
まとめ──天然ウナギ1匹を丸ごと堪能する「釣り人の特権」フルコース
天然ウナギ1匹から作れる料理をまとめると、以下のフルコースが完成する。
| 部位 | 料理 | 難易度 |
|---|---|---|
| 身(半身) | 蒲焼き or 白焼き | 中級 |
| 身(半身) | ひつまぶし or うざく or う巻き | 初級〜中級 |
| 肝 | 肝焼き | 初級 |
| 中骨 | 骨せんべい | 初級 |
| 頭・骨 | タレの出汁取り→素揚げ | 初級 |
浜名湖や都田川で天然ウナギを釣り上げたら、ぜひこの記事を見ながら全レシピに挑戦してみてほしい。捌きは最初こそ手こずるが、3匹目には「意外とできるじゃないか」と思えるはずだ。
最後にひとつだけ注意。静岡県のウナギ採捕にはルールがある。シラスウナギ(稚魚)の採捕は漁業許可が必要で、天然ウナギも河川によっては禁漁期間や体長制限が設けられている。釣行前に必ず静岡県の内水面漁業調整規則を確認し、ルールを守って楽しもう。持続可能なウナギ釣りが、次の世代にもこの贅沢を残すことにつながる。
さあ、次の夜釣りで天然ウナギを仕留めたら、タレの仕込みから始めよう。あの炭火で焼ける蒲焼きの匂いが立ち上る瞬間──それは釣り人にしか味わえない最高の幸せだ。



