結論1:「食べてはいけない部位」は一枚岩ではありません。法令で食用そのものが禁じられている部位、自然毒があるから落とす部位、産地とサイズ次第で危険になる部位の3つに分かれます。
結論2:この3つを混同すると、落とすべき部位を残したまま、落とさなくてよい部位まで捨てることになります。逆方向のミスも事故です。
結論3:フグの肝臓と卵巣は、可食部位表に載っている22種のどれであっても有毒部位です。表は「素人がさばける魚のリスト」ではありません。
秋は釣り物が一気に増える季節です。カワハギの肝が肥え、青物が接岸し、堤防ではハコフグやフグ類も普通に釣れてきます。同時に「この部位は食べていいのか」という判断を迫られる回数も増えます。
ところがインターネット上の「食べてはいけない部位一覧」は、法令で禁止されている部位と、単に生臭いから落とす部位と、地域によって答えが変わる部位が同じ列に並んでいることがほとんどです。この記事では、厚生労働省の通知と自然毒のリスクプロファイル、食品安全委員会の資料、都道府県の公式情報だけを根拠に、18種の部位を根拠の区分つきで整理しました。
「法令禁止」と「自然毒」と「個体差」は別の話です
まず判断の枠組みを決めます。釣った魚の部位について迷ったとき、答えは次の4つの軸のどこかで決まります。
- 法令の軸:厚生労働省の通知で食用または販売が禁じられている部位。ここには例外も自己責任もありません。フグの肝臓、イシナギの肝臓、バラムツやアブラソコムツの身などが該当します。
- 自然毒の軸:法令で一律に禁じられてはいないものの、その部位に毒が集中していることが分かっているもの。ツブ貝の唾液腺、ナガヅカの卵巣、コイの胆のうなどです。
- 個体差と海域差の軸:同じ魚種でも、獲れた海域や個体の大きさで毒の有無が変わるもの。シガテラ毒がこれにあたります。
- 処理と鮮度の軸:部位そのものは無害で、扱い方だけが問題になるもの。カワハギの肝、白子と真子、青物の血合いなどがここに入ります。
釣り人が事故を起こすのは、第1の軸を第2の軸だと思い込んだときです。「毒があるらしいから、自分の判断で少しだけなら」という思考が成立してしまうからです。逆に、第4の軸を第1の軸だと誤解して、食べられる部位を全部捨ててしまう人もいます。どちらも損失です。
【早見表】18種の食べてはいけない部位と根拠区分
次の表は、日本の釣りで実際に遭遇しうる魚介18種について、落とすべき部位と、その根拠がどの軸にあるかをまとめたものです。いちばん右の列は「その処理を一般の釣り人が自分でやってよいか」を示しています。可否だけを見て判断しないでください。
| 魚介名 | 食べてはいけない部位 | 根拠の区分 | 一般の釣り人が自分で処理してよいか |
|---|---|---|---|
| フグ類(通知で食用が認められた22種) | 肝臓、卵巣、血液。種類により皮と精巣も | 法令(昭和58年環乳第59号) | 不可。資格を持つふぐ処理者のみ |
| ハコフグ | 肝臓、卵巣に加えて皮も対象外。可食は筋肉と精巣のみ | 法令(同通知の可食部位に含まれない) | 不可 |
| イシナギ | 肝臓 | 法令(1960年に食用禁止) | 身は可。肝臓は必ず落として廃棄 |
| バラムツ | 筋肉を含む全身 | 法令(1970年に食用禁止) | 食べない |
| アブラソコムツ | 筋肉を含む全身 | 法令(1981年に食用禁止) | 食べない |
| オニカマス | 全身 | 法令(昭和28年衛環発第20号で食用禁止) | 食べない |
| アオブダイ | 肝臓や消化管などの内臓。筋肉での中毒報告もあり | 自然毒(パリトキシン様毒)と行政の販売自粛指導 | 食べない |
| ソウシハギ | 消化管などの内臓 | 自然毒(パリトキシン) | 食べない |
| ヒョウモンダコ | 全身 | 自然毒(テトロドトキシン) | 触らない。食べない |
| ナガヅカ | 卵巣 | 自然毒(ジノグネリン) | 身は食用。卵巣は落とす |
| エゾボラ類(ツブ貝) | 唾液腺 | 自然毒(テトラミン) | 唾液腺を確実に除けば食べられる |
| ウナギ | 血液(生のまま口に入れる場合) | 自然毒(血清毒。加熱で失活) | 火を通せば問題なし。生食しない |
| マアナゴ | 血液(生のまま口に入れる場合) | 自然毒(血清毒。加熱で失活) | 火を通せば問題なし。生食しない |
| ウツボ | 血液(生のまま口に入れる場合) | 自然毒(血清毒。加熱で失活) | 火を通せば問題なし。生食しない |
| コイ | 胆のう | 自然毒(5α-シプリノール硫酸エステル) | 食べない。民間療法として飲まない |
| アブラボウズ | 脂肪の多い部位 | 異常脂質(量と体質に依存) | ごく少量にとどめる |
| イシガキダイ | 大型の老成個体の筋肉と内臓 | 個体差と海域差(シガテラ毒) | 大型個体は食べない |
| アワビ類 | 中腸腺(とくに春先) | 自然毒(ピロフェオホルバイドa) | 春は中腸腺を落とす。採捕は漁業権に注意 |
この表で最も重要なのは、上から6行目までが「法令」の列になっている点です。ここに並ぶ部位について、鮮度がよいから、少量だから、加熱するからといった理由づけは一切通用しません。
法令で食用が禁止されている部位
厚生労働省の通知によって食用または販売が制限されている魚介は、実はそれほど多くありません。だからこそ、この短いリストは丸ごと覚えておく価値があります。
フグの肝臓と卵巣は、22種すべてで有毒部位です
フグの取り扱いは「フグの衛生確保について」(昭和58年12月2日環乳第59号、最終改正は令和3年5月31日)という通知で決まっています。この通知の別表には、処理によって安全が確保できるフグの種類と部位が並んでいます。
ここで多くの人が読み違えるのが、表に載っている部位の種類です。表が可否を示しているのは筋肉、皮、精巣の3つだけです。肝臓と卵巣はそもそも表の対象になっていません。つまり、トラフグであろうとシロサバフグであろうと、肝臓と卵巣は例外なく有毒部位として扱われます。厚生労働省の資料でも、フグの肝臓は天然か養殖かを問わず販売や提供が食品衛生法により禁止されていると明記されています。
養殖トラフグの肝臓を可食化する提案は、平成17年と平成29年の2回、内閣府食品安全委員会で健康影響評価にかけられました。いずれも「食品としての安全性が確保されていると確認することはできない」と結論づけられ、原則は変わっていません。
参考までに、通知で認められている可食部位の組み合わせを整理すると次のようになります。東京都の公式情報にもとづく整理で、通知の別表1が21種、別表1の2のナシフグを加えて合計22種です。
| 可食部位の組み合わせ | 該当する種類 | 肝臓と卵巣 | 一般の方が処理してよいか |
|---|---|---|---|
| 筋肉のみ | クサフグ、コモンフグ、ヒガンフグ、サンサイフグ | いずれも有毒部位 | 不可 |
| 筋肉と精巣 | ショウサイフグ、マフグ、メフグ、アカメフグ、ゴマフグ、ハコフグ | いずれも有毒部位 | 不可 |
| 筋肉と皮と精巣 | トラフグ、カラス、シマフグ、カナフグ、シロサバフグ、クロサバフグ、ヨリトフグ、イシガキフグ、ハリセンボン、ヒトヅラハリセンボン、ネズミフグ | いずれも有毒部位 | 不可 |
| 筋肉と精巣(漁獲海域と処理方法に条件あり) | ナシフグ | 有毒部位 | 不可 |
ナシフグの筋肉は有明海、橘湾、香川県および岡山県の瀬戸内海域で漁獲されたものに限られ、精巣は有明海および橘湾で漁獲されて長崎県が定める要領にもとづき処理されたものに限られます。「ナシフグは食べられる」と単純化した瞬間に条件が抜け落ちる、典型的な例です。
もうひとつ、通知には雌雄同体の個体に関する注記があります。まれに見られる両性の個体については、その生殖巣はすべて有毒部位として扱うことになっています。精巣か卵巣かの判別自体が、素人には成立しない場面があるということです。
ハコフグの肝が食べられないのは、可食部位表にないから。その背景にパリトキシン様毒があります
ハコフグの肝を焼いて食べる文化は各地にありますが、現在の制度上、ハコフグの肝臓は食べてよい部位ではありません。根拠は二重です。制度の面では通知の可食部位表にハコフグの肝臓が載っていないこと、実害の面では肝臓を食べたことによる中毒が実際に記録されていることです。ハコフグの可食部位は筋肉と精巣だけで、皮も対象外です。
実害も報告されています。厚生労働省の自然毒のリスクプロファイルによれば、パリトキシン様毒による中毒はアオブダイとハコフグ類が中心です。ハコフグ(推定を含む)を原因とする事例は10件、患者14名で、死亡例は記録されていません。ただし同じハコフグ科のウミスズメでは、2007年8月に長崎県で患者2名、うち1名が死亡した事例があります。そしてハコフグの事例のうち2011年12月の福岡県と2016年3月の沖縄県の2件は、いずれも喫食部位が肝臓と記録されています。パリトキシン様毒は水溶性で、加熱調理しても毒性は失われず、煮汁などに移行すると考えられています。潜伏時間は概ね12時間から24時間と長く、主な症状は横紋筋融解症による激しい筋肉痛とミオグロビン尿症です。
ハコフグの毒とテトロドトキシンの関係、そして「昔は食べられていた」という言い伝えの背景については、ハコフグは食べられる?身は可食でも肝が食用禁止な毒の正体で毒の正体と法律面を掘り下げています。
イシナギの肝臓は1960年から食用禁止です
イシナギの肝臓には大量のビタミンAが含まれています。厚生労働省の資料では、肝臓のビタミンA含有量は1グラムあたり10万から20万国際単位程度、ヒトに対する中毒量は100万国際単位以上と推定されています。単純計算で、肝臓を5グラムから10グラム食べただけで中毒域に届く計算になります。
症状は食後30分から12時間で発症し、激しい頭痛、発熱、吐き気、嘔吐、顔面の浮腫が起こります。2日目ごろからは顔面や頭部の皮膚の剥離が始まり、回復には20日から30日を要するとされています。2006年から2015年の間に3件、患者26人が報告されています。
イシナギの肝臓は1960年に食用禁止となりました。東京都の市場向け情報では、措置の内容が「肝臓を除去して販売」と整理されています。身は問題なく食べられる大型の白身魚ですから、ここを混同して魚ごと捨てる必要はありません。
バラムツは1970年、アブラソコムツは1981年です
「バラムツとアブラソコムツは1970年に一緒に販売禁止になった」という説明をよく見かけますが、厚生労働省の自然毒のリスクプロファイルではバラムツが1970年、アブラソコムツが1981年と、11年の開きがあると記載されています。細かい違いに見えますが、二次情報が一次資料を写し間違えたまま拡散した典型例です。
両種の筋肉に含まれるのはワックスエステルという成分で、ヒトの消化酵素では分解できません。摂取すると消化されないまま体外へ排出され、下痢や肛門からの油漏れを起こします。加熱しても脂を落としても、成分そのものは変わりません。深場の釣りで釣れてしまった場合、身がどれほど白く美味しそうでも持ち帰らないのが唯一の正解です。
一方、よく似た印象で語られるアブラボウズは食用禁止になっていません。こちらの主成分は通常の脂質であるトリグリセリドで、筋肉の脂質含量が異常に高く、腹部では50パーセント近くに達することもあるため、食べ過ぎると下痢を起こす、という性質のものです。禁止と、量を控えるべきものは別の話です。
オニカマスは1953年から食用禁止です
オニカマスは、昭和28年6月22日付の衛環発第20号という古い通知で、ヒトに健康被害をもたらす有毒魚として食用が禁止されています。理由はシガテラ毒です。南方系の魚ですが、海水温の上昇にともなって分布は少しずつ変わっています。同じカマスでも、一般的な食用種であるアカカマスやヤマトカマスとは扱いがまったく違うため、大型のカマスが釣れたときは種の確認が必要です。
アオブダイは「法令禁止」ではなく「販売自粛指導」です
ここも通説が雑になりやすい部分です。アオブダイは、東京都の市場向け情報の分類では販売等禁止ではなく販売を自粛するよう指導する対象に置かれています。法的な禁止と行政指導は別物です。
ただし、これは「食べてよい」という意味ではまったくありません。パリトキシン様毒による中毒のうちアオブダイを原因とするものは、1953年から2020年の間に30件、患者100名、死者7名が記録されています。原因魚種が「ブダイ」「ブダイ科魚類(推定)」とされた事例まで含めると33件、患者104名です。厚生労働省の集計では(速報値を除き)全魚種あわせて48件、患者148名、死者8名にのぼります。死者が出ている魚です。法令上の位置づけが弱いことと、リスクが低いことはつながりません。
自然毒があるから落とす部位
次は、魚種そのものは普通に食べられるのに、特定の器官にだけ毒が集中しているケースです。ここは正しく処理すれば食べられるものが多く、実務的な知識がそのまま得になります。
ツブ貝の唾液腺(テトラミン)
秋から冬にかけて出回るツブ貝は、市場に流通するだけで30種を超えるといわれます。このうちエゾボラ属の巻貝はすべて有毒と考えられており、エゾボラ(マツブ)、ヒメエゾボラ(青ツブ)、エゾボラモドキなどが該当します。毒があるのは唾液腺という器官で、乳白色から淡黄色をした1対の組織が肉の中に埋まっています。現場では通称「アブラ」と呼ばれます。
毒成分はテトラミンです。食後30分から1時間ほどで、物が二重に見えるといった視覚異常、めまい、頭痛、船酔いのような感覚が現れます。通常は数時間で回復し、死亡することはないとされていますが、車を運転する予定があれば深刻です。厚生労働省の資料では毎年数件程度の中毒が発生しており、2008年には12件24名という多い年もありました。
重要なのはテトラミンは加熱しても分解されないという点です。煮ても焼いても唾液腺が残っていれば中毒します。札幌市が公開している手順では、殻から身を外して内臓と分け、貝蓋の面を下にして中心に切れ目を入れ、左右に開いて指で唾液腺を押し出し、流水で洗ってから調理する、という流れが示されています。
なお「唾液腺さえ取れば安全」という発想が通用しない生き物もいます。ヒョウモンダコは唾液腺だけでなく筋肉や皮にもテトロドトキシンを持つため、器官を除くという考え方そのものが成立しません。この違いはヒョウモンダコは茹でても食べられないで詳しく整理しています。
ナガヅカの卵巣(ジノグネリン)
北日本で釣れる細長い魚、ナガヅカは身が練り製品の原料にもなる食用魚ですが、卵巣にジノグネリンAからDという毒成分を持ちます。症状は嘔吐、下痢、腹痛といった胃腸障害で、死亡することはないとされています。1960年ごろに本州へ出荷された時期に中毒が続発し、最近では2003年に北海道で1件、患者4名の事例が記録されています。
北海道には「カラスも食べない」という言い伝えがあるそうです。地域の伝承が結果的に一次資料と一致している、数少ない例といえます。身は食べられますので、卵巣だけを確実に外してください。
ウナギ目の血液(血清毒)
ウナギ、マアナゴ、ウツボといったウナギ目の魚の血液には、血清毒と呼ばれるタンパク質性の毒が含まれています。ハモも同じウナギ目の魚です。目や口に入ると激しい灼熱感と粘膜の発赤を起こし、傷口につくと炎症や化膿の原因になります。調理人の間では昔から知られている症状です。
ただし、この毒には明確な失活条件があります。60度で5分の加熱で完全に毒性を失うとされており、通常の調理をすれば食品衛生上の問題は生じません。わが国では血清毒による食中毒の正式な記録はないとされています。ウナギやアナゴを刺身にしないのは、この血清毒があるからです。捌いたあとに身をよく洗い、火を通す。それだけで解決します。
コイの胆のう
コイの胆のうは、滋養強壮や眼精疲労に効くとして民間薬に使われてきた歴史があります。毒成分は5α-シプリノール硫酸エステルで、嘔吐、下痢、腹痛といった胃腸障害に加えて、黄疸などの肝機能障害や、乏尿や浮腫をともなう急性腎不全を引き起こします。東南アジアや中国ではソウギョの胆のうによる中毒例があり、中国の統計では1970年から1975年の間にコイ科魚類の胆のうによる食中毒が82件発生し、死者21人を出しています。日本については、厚生労働省の資料が「食中毒統計にはあがっていないが、わが国ではコイ胆のうによる中毒事例がかなり多い」と記載しています。
海釣りの記事でコイに触れるのは、この「薬になると信じられている部位が、実は最も危険」という構図が、ほかの魚でも繰り返し起きるからです。肝や胆のうを珍味として扱う話が出たら、まず一次資料を確認する癖をつけてください。
アワビ類の中腸腺
アワビ類の中腸腺には、餌となる海藻に由来するピロフェオホルバイドaという成分が蓄積することがあります。摂取して1日ほど後に、顔面や手指の発赤、はれ、疼痛といった光過敏症が起こります。死亡することはなく、発生自体もきわめてまれです。東北地方には「春先のアワビのツノワタを食べさせるとネコの耳が落ちる」という言い伝えがあります。
なお、アワビ類は多くの海域で漁業権の対象です。釣り人が磯で採捕すると密漁になります。食べる前の段階で判断が必要な生き物だという点も、あわせて覚えておいてください。
同じ魚でも産地とサイズで答えが変わる部位
ここまでは「魚種が決まれば答えが決まる」話でした。シガテラ毒だけは違います。同じ種類でも、獲れた海域と個体の大きさで結論が反転します。
シガテラ毒の本体はシガトキシンおよびその類縁化合物で、有毒渦鞭毛藻が産生します。それを藻食魚が取り込み、藻食魚を食べる肉食魚へと食物連鎖を通じて濃縮されていきます。したがって食物連鎖の上位にいる大型個体ほど毒量が多くなるのが原則です。
食品安全委員会のハザード概要シートでは、シガトキシン類のほとんどは脂溶性で、加熱調理しても毒性は失われず、加熱により毒成分は煮汁などへ移行するとされています。下処理でどうにかなる毒ではありません。ヒトに対する発症量は経口摂取で70ナノグラム程度と見積もられています。
症状の中心は神経系です。もっとも特徴的なのが温度感覚異常で、ドライアイスセンセーションと呼ばれます。冷たいものに触れると電気刺激のような痛みを感じたり、冷水を口に含むと炭酸飲料のようなピリピリ感を覚えたりします。掻痒や四肢の痛みは移動しながら断続的に起こり、就寝時にひどくなるため不眠の原因にもなります。軽症例では1週間程度で治まりますが、重症例では数か月から1年以上続くことがあります。
釣り人にとって重要なのは、これが沖縄だけの話ではないという点です。同資料には、日本近海で漁獲されたヒラマサやカンパチによる中毒もあると記されています。また、本州の太平洋沿岸で釣れた大型のイシガキダイによる事例が国内で報告されており、原因となるのはほとんどが老成した大型個体です。
つまり、シガテラに関する正しい問いは「この魚種は安全か」ではなく、「この海域で、このサイズの個体は安全か」です。判断に使える現実的な目安は次の3つです。
- 南方系のハタ類、フエダイ類、バラハタ、バラフエダイなどは、獲れた海域を問わず口にしない
- イシガキダイやイシダイの、明らかに規格外の老成個体は食べない
- 地元の漁協や釣具店が「この魚のこのサイズは食べない」と言っている場合、その情報は一次資料に近い価値がある
部位ではなく処理と鮮度で決まるもの
ここからは逆方向の話です。「危険だから捨てる」と思われがちで、実際には処理次第で問題なく食べられる部位を整理します。捨てなくてよいものを捨てているなら、それも損失です。
カワハギの肝は毒の問題ではなく寄生虫の問題です
秋から冬にかけてのカワハギの肝は、この釣りの最大の目的といっていい部位です。ここに毒はありません。判断すべきなのはアニサキスなどの寄生虫と鮮度です。
厚生労働省が示すアニサキスの死滅条件は、中心温度70度以上の加熱、または60度で1分以上の加熱、あるいはマイナス20度で24時間以上の冷凍です。ここで釣り人が誤解しやすいのが家庭用冷凍庫です。一般的な家庭用冷蔵庫の冷凍室は扉の開閉などによりマイナス18度前後までしか下がらない機種が多く、一晩入れただけでは公的な殺虫条件に届きません。「冷凍したから安全」は成立しない場合があります。
整理すると、①殺虫条件(公的基準は中心温度70度以上、または60度で1分以上、またはマイナス20度で24時間以上)、②家庭設備の実力(家庭用冷凍庫はマイナス18度前後までで①に届かないことがある)、③品質(味と食感の劣化。凍らせて安全にできても肝の食感は落ちる)は、別々の層です。肝を生で食べたいなら、釣った当日に手早く処理し、目視で確認する。確信が持てないなら湯通しか加熱に切り替える。この二択で考えるのが現実的です。
白子と真子は「何の魚か」を先に確認する
白子(精巣)と真子(卵巣)は、フグ以外の一般的な食用魚であれば食べられる部位です。問題は、オスとメスの判別を誤ったまま調理する場合と、そもそもフグを扱っている場合です。フグでは精巣が可食で卵巣が有毒部位という種類があるため、判別ミスがそのまま事故に直結します。
判別の手順と、フグの白子で起きる具体的な落とし穴については、魚の白子・真子は食べて安全?オスメスの見分けとフグ毒の落とし穴にフローチャートつきでまとめています。
皮と血合いは「毒」ではありません
青物の血合いは、毒だから避けるものではありません。血合いは鉄分と水分が多く傷みやすいため、鮮度が落ちると生臭さの原因になる、という品質の問題です。釣り場での血抜きと冷却が効いていれば、加熱調理で問題なく食べられます。
魚の皮についても、毒があるとされる俗説が独り歩きしているケースがあります。実際のハザードが皮ではなく、腸炎ビブリオやヒスタミンといった別の要因にあることは珍しくありません。俗説の検証と実際に対策すべき項目の切り分けは、シイラの刺身は危険?皮の毒説の真偽と腸炎ビブリオ・ヒスタミン対策で具体例をたどれます。
可食部位表があっても素人がフグを処理できない理由
この記事でフグの可食部位表を示しました。ここで必ず補足しておかなければならないことがあります。表を読めることと、フグを処理できることはまったく別の能力です。
理由は3つあります。
第一に、種の判別精度です。表は種類ごとに可否が違います。シロサバフグは皮まで食べられますが、外見のよく似たドクサバフグは通知に載っていません。ヒガンフグとアカメフグのように、可食部位の組み合わせが違うのに現場で紛らわしい組み合わせもあります。表の使用前提が「種が正しく同定されていること」なのですが、その同定こそが最初の関門です。
第二に、除去の技術です。有毒部位を除くというのは、単に肝臓を取り出すことではありません。有毒部位から可食部位への毒の移行を起こさないように処理する技術が必要です。厚生労働省のガイドラインでも、ふぐ処理者は「ふぐの種類の鑑別に関する知識および有毒部位を除去する技術等を有する者」と定義され、認定にあたっては水産食品の衛生に関する知識、ふぐに関する一般知識という学科と、ふぐの処理という実技が想定されています。
第三に、制度が全国で統一されていないことです。ふぐを扱う資格は国家資格ではなく、都道府県ごとの条例などにもとづいて運用されています。名称も「ふぐ処理師」「ふぐ調理師」「ふぐ包丁師」「フグ取扱者」などに分かれ、取得方法も学科と実技の試験を課す自治体と、講習会の受講で足りる自治体に分かれています。厚生労働省は令和2年5月1日付のガイドラインで全国的な平準化を図りましたが、現時点でも「どの県の話をしているか」で前提が変わります。
家庭での自家消費については、多くの自治体の条例が営業者を規制対象としており、家庭内の調理まで一律に禁じているとは限りません。ただし規定は自治体ごとに異なります。そして千葉県の公式情報のように、「一般の方が、ふぐを素人調理・喫食することは極めて危険であり、最悪の場合、死亡するおそれがあることから、絶対にしないでください」と明確に呼びかけている自治体があります。条例で名指しされていないことは、安全の根拠にはなりません。
フグの毒は、塩もみ、水にさらす、加熱といった調理では無毒化されません。釣れたフグは、その場でリリースするか、持ち帰るなら食べる目的以外で扱ってください。
迷ったら落とす基準と、落とした部位の捨て方
最後に、現場で使える判断基準を整理します。
迷ったときの3つの質問
- 魚種が確定しているか。確定していないなら、部位の議論に進む資格がありません。似た魚がいる場合は、必ず似ている側の毒性で判断してください。ウスバハギと猛毒のソウシハギのように、慣れた人でも見間違える組み合わせがあります。
- その部位を落とすと、何を失うか。肝や白子のように失うものが大きい部位ほど、判断が甘くなります。失うものが大きいときこそ、根拠が法令なのか自然毒なのかを確認してください。
- 誰が食べるか。子ども、高齢者、持病のある方が食卓にいる場合、判断の基準は一段厳しくなります。同じ部位、同じ鮮度でも、食べる人の側の条件で線が引かれる食中毒が実際に存在します。自分が食べて平気だったという経験は、配る相手にとっての安全の根拠にはなりません。
落とした部位の捨て方
取り除いた内臓を、その場の海や堤防に捨てるのは避けてください。廃棄物の処理および清掃に関する法律では、廃棄物に動物の死体その他の汚物または不要物が含まれ、何人も港湾その他の公共の場所を汚さないようにしなければならないと定められています。海に投げれば消えるという発想は、法的にも実態としても成立しません。
実務的には、次の流れが確実です。
- 釣り場では内臓を出さず、クーラーごと持ち帰って自宅で処理する
- 船に乗る場合は、船宿でアラを引き取ってもらえるか事前に確認する
- 自宅で出た内臓は袋に密封し、そのまま冷凍庫へ入れて、ごみの日の朝に出す。凍らせると悪臭が広がりません
- フグの有毒部位の廃棄については、自治体によって考え方が異なる場合があります。一般ごみへの廃棄を制限している地域もあるため、保健所に確認するのが確実です
まとめ
釣った魚の部位で迷ったとき、答えを決めるのは「その部位が危険そうかどうか」ではありません。その禁止が法令にもとづくのか、自然毒にもとづくのか、個体差にもとづくのかという根拠の区分です。
法令の列にある部位は、議論の余地なく落とします。自然毒の列にある部位は、正しい手順で除去すれば残りは食べられます。個体差の列にある部位は、海域とサイズを確認してから決めます。そして処理と鮮度の列にあるものは、そもそも捨てる必要がありません。
秋の釣行では、堤防でも船でも普段より多くの魚種に触れます。表を印刷して持っていく必要はありませんが、この4つの列があることだけは頭に入れておいてください。それだけで、落としすぎる事故と、落とし損ねる事故の両方を減らせます。



