2020年代に入り、日本のソルトルアーフィッシング市場は著しい成長を続けています。コロナ禍以降、密を避けられるアウトドアレジャーとして釣りが急速に注目を集め、その中でも特にソルトルアー(海のルアー釣り)の人気は際立っています。エギング・ジギング・タイラバ・ショアジギングなど、多様なジャンルが細分化・発展し、釣り具市場全体を牽引する原動力となっています。
静岡・浜松を拠点とするアングラーにとっても、遠州灘・浜名湖・天竜川河口は豊かなソルトルアーフィールドです。シーバス・ヒラメ・青物・タチウオ・アオリイカと多彩なターゲットに恵まれ、地域の釣りコミュニティも年々活性化しています。今回は2025年時点の市場データと業界トレンドを詳しく分析します。
2020〜2025年のソルトルアー市場規模の推移
一般社団法人日本釣用品工業会(JFTA)のデータによれば、国内釣り具市場全体の規模は2020年時点で約2,100億円でしたが、コロナ禍を経た2022年には約2,400億円へと拡大しました。その後2023〜2024年にかけても底堅い需要が続き、2025年時点での市場規模は約2,500〜2,600億円に達すると推計されています。
この成長を牽引しているのが「ルアー釣り関連」カテゴリです。特にソルトウォーター向けルアー(ミノー・ジグ・バイブレーション・タイラバ・エギ)の出荷金額は2020年比で推定30〜40%増と、釣り具全カテゴリの中でも突出した伸びを示しています。
釣り人口は回復・増加トレンド
農林水産省の「海面漁業生産統計調査」や総務省の「社会生活基本調査」のデータを参照すると、2020年のコロナ禍を機に釣り人口(年1回以上釣りをする人)は増加に転じました。レジャー白書2024年版では、釣りの参加人口(15歳以上)が670万〜700万人規模と推計されており、コロナ前の600万人程度から明確な増加がみられます。特に20〜40代の新規参入者と、子供を連れた家族釣りの増加が顕著です。
ジャンル別動向:エギング・ジギング・タイラバの人気推移
エギング市場の拡大と安定化
エギング(アオリイカをルアー(エギ)で狙う釣り)は2010年代に爆発的に普及し、現在は成熟期に入っています。しかし市場は縮小しておらず、毎年秋の新製品シーズンには各メーカーが話題のエギを競って発売します。
2025年のエギング市場で特に注目を集めているのが「シャロータイプエギ」と「ディープタイプエギ」の二極化です。沿岸の浅場から水深30m超の深場まで対応するラインナップが整備され、エギングの可能性が広がっています。静岡・遠州灘では10〜12月にかけてアオリイカが接岸し、地元アングラーも毎年この時期にエギングを楽しみます。シマノ「セフィアBB」・ダイワ「エメラルダスX」などエントリーモデルの売れ行きが特に好調で、新規参入者の増加を示しています。
オフショアジギングの急成長
2020年代のソルトルアー市場で最も急成長しているジャンルが「オフショアジギング」です。遊漁船に乗り、水深50〜300mのポイントでメタルジグを操作してブリ・ヒラマサ・カンパチ・マダイ・根魚などを狙うこのスタイルは、ショアからは届かない大物を狙える醍醐味があります。
特に「スロージギング」(ゆっくりしたアクションで誘うジギング)の普及により、体力に自信のない高齢者や女性でも楽しめるようになり、参加層が一気に広がりました。スロージギング専用タックルを製造するディープライナー社(京都)の製品は国内外で高く評価されており、同社の売上は過去5年で大幅に伸長したと報告されています。
タイラバ人気の継続と深化
タイラバ(鯛ラバ)は、ラバー素材のスカートを付けたヘッドで底付近をトレースしてマダイを狙う釣法です。2010年代後半から全国に普及し、2025年現在も安定した人気を誇ります。特に「スライドタイラバ」「ネクタイ素材の多様化」など技術革新が続いており、釣り具各社からの新製品リリースが年々増加しています。
西日本(瀬戸内海・玄界灘・東シナ海)での人気が特に高く、遊漁船のタイラバ専門便が各地で増加しています。近年は太平洋側でも静岡・三重・高知でタイラバ遊漁船が増え、東日本への普及も進んでいます。
| ジャンル | 2020年人気度 | 2025年人気度 | 成長要因 |
|---|---|---|---|
| エギング | ★★★★★ | ★★★★★ | エントリーモデル拡充・女性参加者増加 |
| ショアジギング | ★★★★☆ | ★★★★★ | SNS動画拡散・青物人気の高まり |
| オフショアジギング | ★★★☆☆ | ★★★★★ | スロージギング普及・遊漁船市場拡大 |
| タイラバ | ★★★★☆ | ★★★★★ | 西日本発→全国普及・タックル多様化 |
| シーバスゲーム | ★★★★☆ | ★★★★☆ | 都市近郊フィールドの安定した人気 |
| ライトゲーム(アジング・メバリング) | ★★★☆☆ | ★★★★★ | ULタックルの充実・手軽さで急成長 |
「オフショアゲーム」急成長と遊漁船市場の拡大
遊漁船業の市場規模と成長
農林水産省の「遊漁船業の実態把握に関する調査」によれば、全国の登録遊漁船は2020年時点で約5万隻、遊漁船業者数は約2万5,000業者とされています。売上規模は推計で年間1,000〜1,200億円に達するとみられ、コロナ後に釣り人口が増加した2022年以降は特に予約が取りにくい状況が続いています。
静岡県でも遊漁船の登録隻数は増加傾向にあり、浜松・舞阪・御前崎・焼津を拠点とした釣り船が活況を呈しています。ジギング・タイラバ・ライトジギングに特化した専門船が増加し、初心者向けの「体験釣り教室付き」プランを設ける船宿も出てきました。
オフショアゲームの敷居が下がった理由
かつてオフショアジギングは「体力が必要」「タックルが高額」「知識がないと危険」といったハードルがありました。しかしここ5年で状況は大きく変わりました。
- スロージギングの普及:体力に依存しない軽い操作で大型魚が狙える
- エントリーモデルの充実:実売1万5,000〜2万円台の入門タックルでも十分な性能
- 乗合船の増加:1人から乗れる乗合便が全国で増加。初心者一人でも参加可能
- YouTubeによる情報共有:仕掛けの作り方からジャークアクションまで動画で学べる環境が整備
- レンタルタックルサービス:多くの遊漁船がロッド・リール・ジグを貸し出し
地方創生と釣り観光の連携
釣り場マップ整備と自治体の取り組み
釣りを地方観光の柱にしようという動きが全国の自治体で加速しています。山口県萩市、高知県土佐清水市、長崎県平戸市など、沿岸部の自治体がプロのアングラーを招いて釣り大会を開催したり、地域の釣り場マップを整備・公開する事例が増えています。
観光庁が2022年度に実施した「釣りを活用したインバウンド観光促進モデル事業」では、北海道・静岡・熊本など7地域でモデルプロジェクトが実施されました。静岡県では浜松市・磐田市の遠州灘サーフを舞台に、外国人観光客向けのヒラメ釣り体験ツアーが試験的に運営されました。
遊漁船への補助金と安全規制の整備
2023年に改正施行された遊漁船業法では、乗船者へのライフジャケット着用義務が強化されました。同時に、中小遊漁船事業者に対する設備投資補助(魚探・GPSプロッター更新など)が一部自治体で実施されています。静岡県では「漁業・遊漁船業持続的発展緊急対策事業費補助金」により、省エネエンジン搭載やAIS(船舶自動識別装置)導入費用の一部が補助される仕組みが整っています。
世界の釣り大会と日本の参加状況
バスフィッシング世界大会と日本
バスフィッシングの世界最高峰大会「バスマスタークラシック」(アメリカ・バスアングラーズオブアメリカ主催)には毎年北米を中心とした世界トップレベルのアングラーが集います。日本からは近年、田辺哲男選手・福田康平選手らがBasser Allstar Classicなどの国内大会で活躍していますが、世界大会への日本人参戦はまだ限定的です。
一方、国内のバスフィッシングトーナメント「NBCチャンピオンシップ」は年間300以上の予選大会を全国各地で開催し、参加者数は毎年1万人を超えます。浜名湖もバストーナメントのフィールドとして知られており、春のバス釣りシーズンには各地からアングラーが集まります。
フライフィッシングと日本の参加
フライフィッシングの国際大会「世界フライフィッシング選手権(FIPS-Mouche World Fly Fishing Championship)」には日本代表チームも毎回参加しており、2023年のポーランド大会でも日本チームが出場しました。国内では渓流を舞台にしたフライフィッシングの愛好者が根強く存在しており、長野・山梨・北海道などでの渓流釣りが盛んです。
YouTuberとSNSが釣り人口に与えた影響
釣り系YouTubeチャンネルの急増
釣り専門のYouTubeチャンネルは2020年以降に急増し、2025年時点で登録者10万人以上の釣り系チャンネルは国内に100を超えるとみられています。代表的なチャンネルとしては「村田基の釣り」「はまちゃんねる」「ぐっち夫婦の釣りチャンネル」「釣りいろは」などが挙げられ、数十万〜数百万人の登録者を抱えます。
YouTubeの視聴データによると、「タイラバ 釣り方」「ショアジギング 初心者」「エギング コツ」などのキーワードは月間数十万回の検索がされており、釣り初心者の情報収集チャネルとして完全にYouTubeが定着しています。
InstagramとTikTokの釣り文化
Instagramでは「#釣り」タグの投稿数が2025年時点で1,500万件を超え、「#ショアジギング」「#エギング」「#タイラバ」などのジャンル別タグも百万単位で投稿されています。釣果写真の共有文化が根付いたことで、フォロワーを増やしたいアングラーが頻繁に釣りに出かけるようになり、釣行頻度の向上に寄与しています。
TikTokでは「15〜30秒で魚が釣れる動画」のフォーマットが若者に受け、10〜20代の新規釣り人獲得に大きく貢献しています。特に「チニング(クロダイをルアーで釣る)」「メバリング」「アジング」など、手軽にできる釣りの短尺動画は数百万回再生されるものも珍しくありません。
| SNSプラットフォーム | 釣りコンテンツの特徴 | 主な利用年齢層 | 影響力 |
|---|---|---|---|
| YouTube | 解説・釣行動画(5〜30分) | 20〜50代 | 技術習得・商品購買意欲に直結 |
| 釣果写真・タックル紹介 | 20〜40代 | コミュニティ形成・ブランド認知 | |
| TikTok | 短尺動画・ハイライト集 | 10〜30代 | 新規釣り人獲得の主要チャネル |
| X(旧Twitter) | 速報釣果・タックル情報 | 20〜40代 | リアルタイム情報共有・コミュニティ |
釣り具のサブスク・レンタルサービスの台頭
釣り具レンタルサービスの市場化
2020年代に入り、釣り具のレンタル・シェアサービスが市場に登場しはじめました。釣り具大手のシマノ・ダイワ・アブガルシアがレンタルサービスを直接展開しているわけではありませんが、遊漁船での「タックルレンタル」は標準的なサービスとして完全に定着しています。
また、「Rext(レクスト)」などの釣り具シェアリングサービスが登場し、アングラー同士でタックルを貸し借りできるプラットフォームが出現しました。高額なオフショアジギング用タックル(ロッド・リールで5万〜20万円)を所有せずに体験できる仕組みは、参入障壁を大幅に下げています。
サブスクリプション型サービスの動き
ルアーや仕掛けのサブスクリプションサービスも一部で始まっています。「釣り具のサブスク」として毎月選定されたルアーや消耗品が届くサービスは、米国では「Lure Lock」「Mystery Tackle Box」などが先行しており、日本でも追随するサービスが2023〜2024年にかけて複数登場しました。釣り初心者が「何を買えば良いかわからない」という課題を解決する手段として注目されています。
女性・高齢者アングラーの増加トレンド
女性アングラーの急増
日本の釣り人口における女性の割合は、10年前は10〜15%程度とされていましたが、2024〜2025年には20〜25%まで上昇したとみられています。この背景には、SNSでの釣り女子(釣りガール)コンテンツの拡散、タイラバ・エギング・アジングなど力を必要としない釣り方の普及、釣り具メーカーによる女性向けカラーリング商品の充実などが挙げられます。
シマノは「女性向けライン」として軽量・細身グリップのロッドを展開し、ダイワも「カラーリングカスタマイズ」サービスで女性からの支持を高めています。釣り系YouTuberの「りょうちん」「魚突き女子おがちゃん」などの女性クリエイターも多くのファンを持ち、釣り女子コンテンツの市場は急拡大しています。
シニアアングラーの市場価値
60代以上の「シニアアングラー」は日本の釣り市場で無視できない存在です。時間的・経済的余裕があるシニア層は、高額な遊漁船釣りや本格的なタックルへの投資意欲が高く、釣り具業界にとって最も購買力のある顧客層の一つです。
スロージギング・タイラバ・鮎釣り・磯釣りなど、経験と技術を生かせる釣りスタイルへのシニア層の関心は特に高く、遊漁船の利用者の中でも50〜70代が大きな割合を占めています。「健康増進」「認知症予防」「社会参加」の観点から釣りを推奨する動きも医療・福祉の分野で広まってきており、高齢者施設での釣り体験プログラムの導入事例も報告されています。
2025年以降の展望と課題
資源管理と持続可能な釣り文化の両立
市場拡大の一方で、釣り人口の増加に伴う資源への影響は無視できません。アオリイカ・マダイ・ブリなどの人気ターゲット魚の乱獲懸念から、遊漁船での1人あたり釣果制限(例:マダイ10枚まで)を設ける船宿が増えています。また、キャッチ&リリースの文化も徐々に根付いてきており、特にシーバスゲーム・バスフィッシングではリリースが当然視される風潮があります。
インバウンド釣り観光の可能性
海外からの釣り観光客(フィッシングツーリスト)の取り込みも大きなテーマです。台湾・韓国・中国・欧米からのアングラーに対し、翻訳対応の遊漁船サービスを提供する業者が増えており、2025年のインバウンド需要回復とともにフィッシングツーリズムの市場は拡大が期待されています。
釣り具市場の価格帯別トレンドと今後の展望
ソルトルアー市場の成長に伴い、釣り具の価格帯別のトレンドも大きく変化しています。エントリーモデルの品質向上と、ハイエンドモデルのさらなる高性能化という二極化が進んでいます。
| 価格帯 | 市場動向(2025年) | 代表的なジャンル | 購買層 |
|---|---|---|---|
| 5,000円以下 | 安定需要(入門・ファミリー) | 万能ルアーセット・防波堤セット | 体験希望者・子供向け |
| 5,000〜20,000円 | 最大市場・最も競争激化 | エギング・ライトゲーム・バスロッド | 入門〜中級の釣り人 |
| 20,000〜60,000円 | 堅調な成長(本格志向層拡大) | オフショアジギング・シーバスゲーム | 中〜上級アングラー |
| 60,000円以上 | 拡大傾向(シニア・高所得者) | スロージギング専用・競技用タックル | 上級者・コレクター層 |
FAQ|ソルトルアー市場と釣りトレンドのよくある質問
Q: ソルトルアー市場はコロナバブルで今後は縮小しますか?
A: 短期的な調整はあるものの、大きな縮小は考えにくいとみられています。SNSによる情報拡散・遊漁船市場の成熟・女性やシニア層の参入が需要の底上げとなっており、釣り具業界全体としては緩やかな成長が続くと予測されています。むしろコロナ禍で釣りを始めた層が本格的なアングラーに移行するフェーズに入っており、高額タックルへの投資増加が見込まれます。
Q: 初心者がオフショアジギングを始めるのに費用はどのくらいかかりますか?
A: タックルレンタルを利用すれば、遊漁船代(1万5,000〜2万5,000円)+えさ・仕掛け代(2,000〜3,000円)程度でスタートできます。自前タックルを揃える場合、エントリーモデルのロッド(1万5,000〜2万円)+電動リールまたは中型ベイトリール(2万〜5万円)+ジグ数本(5,000〜1万円)で最低4万〜8万円程度が目安です。
Q: 浜松周辺でオフショアジギングができる遊漁船はありますか?
A: 舞阪港・御前崎港を拠点とした遊漁船がジギング・タイラバ便を運航しています。ブリ・ヒラマサ・カンパチ・マダイ・根魚が主なターゲットで、特に秋〜冬のブリ・ワラサジギングは人気が高く、早めの予約が必要です。
Q: 女性がソルトルアーを始めるのに最も向いているジャンルは何ですか?
A: エギングまたはアジング・メバリングが最も始めやすいとされています。エギングはシャクリのリズムを覚えれば体力的な負担が少なく、タックルも比較的コンパクトです。アジング・メバリングは超軽量タックルで夜の堤防から気軽に楽しめます。遠州灘・浜名湖エリアでは浜松市の赤鳥居付近や新居町の弁天島海浜公園がアジング・メバリングのメジャーポイントです。
Q: SNSで人気の「ライトゲーム」とは何を指しますか?
A: ライトゲームとはUL(ウルトラライト)クラスの軽量タックルを使い、小型のルアー(ジグヘッド+ワーム・小型プラグ)でアジ・メバル・カサゴ・クロダイなどを狙う釣りの総称です。使うライン(エステルまたはPEライン0.2〜0.4号)やルアー(0.5〜5g)は非常に繊細で、食感や当たりを楽しむゲーム性の高さが人気の秘密です。夕方〜夜間の短時間でも十分楽しめる手軽さから、特に都市部・近郊の堤防でファンが増えています。
Q: 2025年に注目すべきソルトルアーの新トレンドは何ですか?
A: 2025年注目のトレンドとして「マイクロジギング(20〜60gの軽量ジグを使うオフショアジギング)」「ブレードゲーム(ブレードルアーでのシーバス・マダイ狙い)」「ボートシーバスゲームの細分化」「ネイルリグを使ったアカメ・ヒラスズキ狙い」などが挙げられます。また、環境配慮型の「バイオ素材ルアー」「分解性リーダー」なども研究・開発が進んでおり、サステナブル釣り具市場の創出が期待されています。



