天竜川水系のカワウ食害が「過去最悪」レベルに——釣り人が知るべき現状
「最近、天竜川で魚の気配が薄い」「放流したはずのアユが全然残っていない」——2026年春、浜松周辺の川釣りアングラーの間でこんな声が急増している。その原因として、いま最も深刻視されているのがカワウ(川鵜)による魚類食害だ。
環境省および静岡県の最新モニタリングデータによると、天竜川水系におけるカワウの飛来数は2024年度比で約1.4倍に増加。中流域の磐田市・浜松市天竜区を中心に、アユ・オイカワ・ウグイなど遊漁対象魚の食害被害額は静岡県全体で推定年間3億円超に達する見込みだ。全国的にも問題は深刻で、水産庁の「カワウ被害防止行動計画」は2026年度に第5次改定を迎え、より踏み込んだ対策が求められている。
本記事では、天竜川水系を中心とした静岡県のカワウ食害の最新状況、県・漁協が進める駆除対策、そして浜松周辺で川釣りを楽しむアングラーへの具体的な影響と今後の見通しを、5W1Hを押さえて徹底解説する。
カワウとは何者か——釣り人が理解すべき「空からの脅威」の生態
基本的な生態と食性
カワウ(Phalacrocorax carbo)はペリカン目ウ科に属する大型水鳥で、体長約80cm、翼開長は130cmに達する。日本全国の河川・湖沼・沿岸部に生息し、潜水して魚を捕食する。
| 項目 | データ |
|---|---|
| 体長 | 約80〜90cm |
| 体重 | 1.5〜2.5kg |
| 1日の捕食量 | 体重の約20〜30%(300〜500g) |
| 潜水深度 | 最大10m以上 |
| 潜水時間 | 1回あたり20〜40秒 |
| 主な獲物サイズ | 5〜25cmの魚(最大30cm超も) |
| 繁殖期 | 3〜7月 |
| 寿命 | 野生下で10〜15年 |
特に注目すべきは1日あたり300〜500gという捕食量だ。これはアユに換算すると1羽で1日に15〜30尾に相当する。100羽の群れが1カ月滞在すれば、単純計算で4万5000〜9万尾のアユが消費される計算になる。
なぜ今、個体数が増えているのか
カワウは1970年代には全国で3,000羽程度まで減少し、絶滅が危惧された時期もあった。しかしその後の環境保全政策や、ダム湖・養殖池など安定した餌場の増加を背景に個体数は急回復。2000年代には全国で約15万羽に達し、現在も高い水準で推移している。
天竜川水系で近年特に増加している背景には、以下の要因が指摘されている。
- 他県での駆除圧の強化:愛知県・長野県での大規模駆除により、追われたカワウが静岡県側に移動(いわゆる「玉突き移動」)
- 佐久間ダム・秋葉ダム湖の餌資源:ダム湖に溜まるワカサギ・ハス・オイカワが安定した餌場を提供
- 営巣地の拡大:天竜区の山間部にある大規模コロニー(集団営巣地)が年々拡大しており、2025年度調査では推定800巣以上が確認
- 暖冬による越冬個体の増加:2025〜2026年の暖冬で北方への移動をせず天竜川流域に留まる個体が増加
被害の実態——天竜川・太田川・都田川で何が起きているか
天竜川本流の状況
被害の中心は天竜川中流域、特に鹿島橋〜掛塚橋間の約25km区間だ。この区間は天竜川漁業協同組合が毎年アユの稚魚放流を実施しているエリアだが、2025年の追跡調査では放流後2週間以内のアユ稚魚の生残率が前年比で約35%低下したことが報告されている。
早朝に天竜川河川敷を訪れると、カワウの群れが水面すれすれを編隊で飛行し、瀬や淵に次々と着水して潜水を繰り返す光景が日常的に見られる。地元のベテラン川釣り師からは「朝イチで30羽以上の群れが上流から降りてきて、瀬のアユを根こそぎやられる。竿を出す前に終わっている」という悲痛な声も聞こえてくる。
太田川・都田川水系への波及
天竜川だけではない。浜松市西部を流れる都田川や、掛川市から流れる太田川水系でも食害は拡大している。都田川では2025年秋以降、ハヤ(オイカワ・カワムツ)の魚影が顕著に薄くなったとの報告が複数の釣り人から上がっている。太田川水系の原野谷川・宇刈川でも、里川特有の穏やかな環境がカワウにとって格好の餌場となり、渓流釣りファンにとって深刻な問題となっている。
浜名湖・汽水域への影響
河川だけでなく、浜名湖の奥部(猪鼻湖・三ヶ日周辺)でもカワウの飛来が増えている。浜名湖はボラ・ハゼ・セイゴなど餌となる小魚が豊富で、冬季を中心に湖上で群れが目撃されることが増えた。ただし、浜名湖は水域が広大なため、河川ほど集中的な食害にはなりにくいとされている。現時点では「注視すべき段階」というのが漁協関係者の認識だ。
静岡県・漁協の最新駆除対策——2026年度の取り組み
静岡県カワウ管理指針の改定ポイント
静岡県は2026年3月、「第4期静岡県カワウ管理指針」を策定し、従来の対策を大幅に強化する方針を打ち出した。主な改定ポイントは以下の通りだ。
- 駆除目標の引き上げ:県内の目標駆除数を年間1,500羽から2,500羽に引き上げ
- 広域連携の強化:愛知県・長野県・岐阜県との4県合同駆除作戦を年2回実施(春・秋)
- 営巣地対策の本格化:繁殖期のコロニーでの卵のドライアイス処理(孵化阻止)を大規模に実施
- テクノロジー活用:ドローンによるコロニーの個体数モニタリングとGPSテレメトリーによる移動追跡
- 漁協への補助金増額:追い払い用花火・レーザーポインター・テグス張り等の資材費補助を倍増
天竜川漁協の現場対応
天竜川漁業協同組合は、2026年度のアユ放流計画に「カワウ対策」を初めて正式に組み込んだ。具体的には以下の施策を実施・予定している。
- 放流タイミングの分散化:従来の3月下旬〜4月上旬の集中放流から、3月中旬〜5月上旬にかけて5回に分散。一度にまとまった稚魚が狙われるリスクを低減
- 放流場所の戦略的選定:カワウの飛来が少ない支流合流点や、橋梁下など上空からの視認性が低い場所を優先
- 追い払いパトロールの強化:組合員とボランティアによる早朝パトロール(午前5時〜8時)を週5日実施。花火やロケット花火による追い払いを行う
- テグス(釣り糸)張り:重要な放流区間の水面上にナイロンテグスを格子状に張り、カワウの着水を物理的に阻止
銃器による駆除の現状と課題
最も直接的な個体数管理手段は猟銃による駆除だが、これには多くの制約がある。鳥獣保護管理法に基づく許可が必要であり、河川敷では住宅地や道路からの距離制限もある。さらに、駆除従事者(ハンター)の高齢化と人材不足は全国的な課題だ。静岡県猟友会によると、有害鳥獣駆除に参加可能な射手は県内で年々減少しており、2026年度は前年比で約15%減の見込みという。
こうした状況を受け、環境省は2025年度から「カワウ駆除担い手育成事業」を開始。若手射手の養成と、空気銃によるコロニー駆除の技術研修を全国で実施している。静岡県でも2026年6月に浜松市内で研修会が開催予定だ。
アングラーへの具体的影響——2026年の川釣りはどう変わるか
アユ釣りへの影響
最も大きな影響を受けるのは、言うまでもなくアユの友釣り・ドブ釣りだ。天竜川漁協管内では、2026年のアユ放流量は前年並みを維持する方針だが、食害による減耗を織り込むと実質的な釣果は厳しくなる可能性が高い。
特に注意すべきポイントを以下にまとめた。
| 影響項目 | 詳細 | アングラーの対応策 |
|---|---|---|
| 解禁直後の魚影 | 放流アユの残存率低下により、解禁初期(6月)の釣果が例年より薄い可能性 | 解禁直後は支流合流点や瀬脇など、カワウの影響が少ないポイントを狙う |
| 遡上アユの動向 | 天然遡上アユはカワウの影響を受けにくい中流〜上流域に生息するため、7月以降に期待 | 7月以降の盛期に本格的な釣行計画を組む |
| 放流区間の変更 | 漁協が放流ポイントを変更する可能性あり | 漁協の公式情報・釣具店情報をこまめにチェック |
| 遊漁券価格 | 放流事業費の増加に伴い、将来的に値上げの可能性 | 年券の早期購入を検討 |
ハヤ釣り・雑魚釣りへの影響
オイカワ・カワムツ・ウグイなどの雑魚釣りも無縁ではない。特に都田川・太田川水系の里川では、カワウの食害によりハヤ類の魚影が目に見えて薄くなっている場所がある。毛バリ釣りや餌釣りで里川を楽しむアングラーにとっては、ポイント選びがより重要になる。
対策としては、カワウが入りにくい以下のような場所を選ぶことが有効だ。
- 両岸に樹木が覆いかぶさる狭い渓流区間(カワウは翼幅が大きく、狭い場所を避ける傾向がある)
- 橋の直下やコンクリート護岸の日陰(上空からの視認性が低い)
- 水深が浅く流れの速い瀬(潜水しにくい)
- 人の往来が多い市街地区間(カワウは人を警戒する)
渓流釣り(ヤマメ・イワナ)への影響
天竜川上流域や支流の渓流では、ヤマメ・イワナへの直接的な食害報告は現時点では限定的だ。ただし、カワウは水深のある淵があれば渓流域にも入り込む。気田川上流域では2025年に初めてカワウの飛来が確認されており、今後の動向には注意が必要だ。
全国の先進事例——他県に学ぶカワウ対策
滋賀県・琵琶湖の成功例
カワウ対策で最も成果を上げているのが滋賀県だ。琵琶湖の竹生島を中心に最大4万羽が生息していたカワウを、20年以上かけた継続的な管理により約5,000羽まで減少させることに成功している。その要因は以下の通りだ。
- 営巣地での繁殖抑制(卵のオイル処理・ドライアイス処理)を毎年継続
- 県・市・漁協・猟友会・大学研究者が連携した「オール滋賀」体制
- 科学的モニタリングに基づくPDCAサイクルの徹底
- 駆除だけでなく、生息地管理(営巣木の伐採・代替地の設定)を併用
静岡県もこの滋賀モデルを参考に、2026年度から科学的管理を重視したアプローチに転換しつつある。
栃木県・鬼怒川のドローン活用事例
栃木県では2025年度から、ドローンにスピーカーを搭載し、カワウの天敵であるオジロワシの鳴き声を再生して追い払う実験を実施。従来の花火やロケット花火に比べて慣れ(馴化)が起きにくく、効果の持続性が確認されている。コスト面でも、1回の飛行で広範囲をカバーできるため効率が良い。静岡県でも2026年度下半期に天竜川での実証実験が予定されている。
釣り人にできること——カワウ問題への関わり方
情報提供と目撃報告
カワウ対策で最も重要なのは、正確な現状把握だ。県や漁協は限られた人員でモニタリングを行っているが、日常的に川に立つ釣り人の「目」は極めて貴重な情報源となる。以下のような情報を漁協や県の水産担当に提供することで、対策に直接貢献できる。
- カワウの群れの目撃場所と大まかな羽数
- 営巣地(巣のある木)を新たに発見した場合の位置情報
- カワウが集中的に餌を取っている場所と時間帯
- 食害を受けたと思われる魚(体に傷跡のある魚)の写真
天竜川漁協では2026年度から、LINEでのカワウ目撃情報受付を開始する予定だ。釣行のついでにスマートフォンで撮影・報告するだけで、効果的な対策の立案に大きく貢献できる。
追い払いへの協力
釣りをしている最中にカワウの群れが飛来した場合、手を叩く、声を出す、竿を振るなど簡単な行動でも追い払い効果がある。カワウは人間の存在を警戒するため、釣り人が川にいること自体が一種の「防除効果」を持っている。
ただし、石を投げたり、釣り針で引っかけたりする行為は鳥獣保護管理法違反に該当する可能性があるため、絶対に行わないこと。あくまで合法的な範囲での追い払いに留めよう。
漁協活動への参加
多くの内水面漁協では、カワウ追い払いのボランティアを募集している。天竜川漁協でも組合員以外の一般参加を受け付けており、早朝パトロールへの参加が可能だ。遊漁券を購入することも、放流事業やカワウ対策の原資となるため、間接的だが確実な支援となる。
今後の見通し——天竜川のアユは戻るのか
短期的な見通し(2026年シーズン)
2026年のアユシーズンについては、楽観は禁物だが悲観する必要もないというのが関係者の共通認識だ。放流量は維持されており、駆除対策も強化されている。天候・水温・水量など自然条件が良ければ、天然遡上アユが例年並みに遡上する可能性もある。
ただし、解禁直後(6月上旬〜中旬)は放流魚の残存率が読みにくいため、例年以上に情報収集を密にして釣行計画を立てることが重要だ。天竜川漁協や地元釣具店(浜松市内のフィッシングショップ各店)の最新情報を活用しよう。
中長期的な見通し(2027年以降)
カワウ問題の解決は一朝一夕にはいかない。滋賀県の例でも20年以上の歳月を要している。しかし、以下のポジティブな動きも確認できる。
- 広域連携の進展:中部4県の合同対策が2026年度から本格化し、「玉突き移動」の抑制が期待される
- 科学的管理の導入:GPSテレメトリーやドローンモニタリングにより、従来の「もぐら叩き」的対策から戦略的管理への転換が進む
- 予算の確保:水産庁の「内水面漁業振興対策事業」の2026年度予算が増額され、カワウ対策の枠も拡大
- 市民参加型モニタリング:釣り人やバードウォッチャーからの情報提供体制が整いつつある
3〜5年のスパンで見れば、個体数の管理が軌道に乗り、アユをはじめとする川魚の資源回復が見込める可能性はある。ただし、それは駆除と繁殖抑制を毎年継続した場合の話であり、予算や人材の確保が途切れれば個体数はすぐに回復してしまう。息の長い取り組みが求められる。
まとめ——浜松アングラーが今すぐやるべき3つのこと
カワウ食害は、天竜川水系の川釣りを楽しむ浜松アングラーにとって、もはや「誰かが解決してくれる問題」ではなくなっている。釣り人自身がこの問題に関心を持ち、できることから行動することが、将来の釣り場を守ることにつながる。
今すぐやるべき3つのアクション:
- 遊漁券を買う:天竜川漁協の遊漁券(年券6,600円・日券1,100円)購入が、放流事業とカワウ対策の直接的な財源になる。「少しでも川に竿を出すなら、必ず遊漁券を」という原則を改めて徹底しよう
- カワウ情報を漁協に報告する:釣行中にカワウの群れを見かけたら、場所・羽数・時間帯をスマホで記録し、漁協に情報提供する。2026年度からLINE受付も始まる予定だ
- 釣果情報を冷静に分析する:「魚がいない=もう終わり」ではない。カワウの影響が少ないポイントや時期を選べば、まだ十分に楽しめる。情報収集と柔軟なポイント移動が今まで以上に重要になる
天竜川のアユも、都田川のハヤも、この地域の釣り文化を支える大切な資源だ。カワウとの共存は簡単ではないが、科学的な管理と地域の連携によって、必ず道は開ける。浜松アングラーの一人ひとりが当事者意識を持って、この問題に向き合っていこう。
(情報出典:環境省「カワウ被害防止行動計画」、静岡県水産・海洋局、天竜川漁業協同組合、水産庁「内水面漁業の振興に関する基本方針」)



