磯遊びやダイビングは身近な海の生き物達と触れ合う事ができ、その生態も観察できる事から人気があります。
しかし、自然の中に入るという事は、自然界に生きる彼らの世界に入るのと同じ事です。
楽しく遊んでいる最中に無数の黒いトゲが突き刺さってしまったら、誰もが嫌な思いをしてしまう事でしょう。
しかもこのトゲは持続的な傷みを与えるだけでなく対処方法が難しいため非常に厄介なのです。
今回はそんな危険生物・ガンガゼについて皆様にご紹介させていただきます。
1,危険なウニの仲間!ガンガゼとは!?
①分類について
ガンガゼとは、詳しく分類すると「棘皮動物門ウニ綱ガンガゼ目ガンガゼ科ガンガゼ属」に分類されるウニの仲間です。
そのため見た目も攻撃力増し増しな真っ黒黒助みたいな姿をしています。
また、余談ですが、棘皮動物の仲間の中にはウニの他にナマコやヒトデがいます。
②生息分布について
世界的に見ればインド洋や太平洋などの暖かい海に広く分布しており、水深約15mあたりを好んでいます。
日本では相模湾や房総半島以南に生息している事が知られていますが、近年問題視されている地球温暖化による海水温の上昇に伴って、ガンガゼの生息地北上の可能性にも危機感を持つべきです。
ガンガゼは岩礁や潮間帯下部に生息していますが、岩の隙間などに群れ、密集している事も珍しくありません。
⭐そんな事ある!?ガンガゼの超大集団!
ガンガゼは基本的に1匹でいるよりは群れている事が多く、時折気に入った岩の隙間や珊瑚礁の隙間に大きな群れを作っている事があります。
しかし大量過ぎるのは流石に恐ろしいもので、タイ王国シャム湾では海岸から沖合いまでの約200mの区間一面をびっしりとガンガゼが埋め尽くしている場所があると言われています。
③ガンガゼの見た目について
冒頭でも触れましたが、ガンガゼの見た目はムラサキウニやバフンウニとは違い、かなり攻撃的な見た目をしています。
黒紫色の殻の直径は約5〜9cmですが、他のウニとは違い、殻は薄くて脆いという特徴があります。また、殻の側面の若干上に5個の白い点が目立ちます。
殻は底が平らな半球形をしており、平らな面の中心部に口があります。
反対側はまるでイクラのようなプヨプヨとした物が見受けられますが、これはガンガゼの肛門部分が膨らんだ物です。
ガンガゼのトゲは口側は短いですが、反対側は長く鋭いトゲに覆われており、その長さは30cmに達する事もあり、外敵を寄せ付けません。
また、若いガンガゼの場合はトゲに白い縞模様が現れる事もあります。
⭐光を感じれます💡
ガンガゼは私達人間のように目玉がある訳ではありませんが、殻の表面には「眼点」という器官があります。
この眼点は光を感じる事ができるため、自分に近付いてきた、あるいは横切った影を感じると毒トゲを振りかざすという防衛反応をします。
また、1匹のガンガゼがこの防衛反応を取ると、周りにいるガンガゼ達も同じように反応するため、彼らの近くに行く事は非常に危険な行動と言えます。
④食べ物について
ウニの仲間らしく、ガンガゼは鋭い口を使って岩に付着する藻や海藻、砂中の細かな有機物(デトリタス)を食べています。
夜になると岩場から集団で移動し、せっせと餌を食べるのです。
⑤ガンガゼの仲間について
ガンガゼの仲間には「アオスジガンガゼ」という種類がいます。
こちらも全身鋭く長いトゲで武装していますが、肛門周辺が黒っぽい事や、殻の表面に青い5本の筋が目立つのが見分けるポイントです。
⑥味について
他のウニと同じように身を食べる事ができますが、苦味やエグ味が強いため、あまり食用には向いていません。
2,何故、ガンガゼが危険生物なのか!
生態を見て、「ただのアグレッシブなウニ」と思った方もいらっしゃるかも知れません。
しかし、ガンガゼには危険生物と呼ばれるに値するある特徴があるのです。
この項目では、ガンガゼの危険生物たる所以についてご紹介させていただきます。
①必殺!「ファランクス戦法」!
世界史が好きな方は聞いた事があるかも知れません。
ファランクス戦法とは、列ごとに槍を構えて前進する戦法であり、古代ギリシャ時代に使われていました。
ガンガゼも昼間は岩の隙間に集団で陣取っているのですが、その際に背中側の長く鋭いトゲを動かして身を守っているのです。
②鋭く脆い「毒のトゲ」!
ガンガゼが危険生物である最大の理由がこの毒のトゲです。
この毒のトゲは細長いだけでなく、ウニの仲間にしては異常に鋭いため、触れただけでも簡単に皮膚に突き刺さってしまいます。
しかも、このトゲは毒だけでなく、刺さった者を苦しめる二段構えがあるのです。
1つ目は、トゲに細かな「返し」がある事です。ガンガゼのトゲが1度刺さると簡単に抜く事ができません。
2つ目は、砕けやすい事です。ガンガゼのトゲは折れやすく、簡単に砕けてしまいます。
この特徴は折れた後も変わる事はなく、刺さった皮膚の内部に砕けながら残り、痛みを長引かせる原因となっています。
また、ガンガゼの毒は熱を伴う痛みと腫れがあり、強い痛みは数時間ほどで落ち着いてきますが、小さな痛みは数日間続きます。
重症の場合は呼吸困難や筋肉麻痺を引き起こす事もあり、非常に危険です。
③生態系が変わる原因の1つ!
日本の海では度々「磯焼け」という現象が発生しており、多くの漁業関係者や釣り人達を悩ませています。
この磯焼けの原因の1つとしてガンガゼが挙がっているのです。
ガンガゼの移動スピードは他のウニの仲間と比較しても素早く、どんどん移動したながら仲間達と共に周囲の海藻や細かな有機物を食べ尽くしてしまうのです。
こうしてできた「海底の荒野」を元の海藻生い茂る世界に戻すのは簡単な事ではありません。
⭐豊かな海の環境を取り戻すために!ガンガゼに挑むYouTuber!
YouTuberの中には魚介類調理系やアウトドア系など様々なタイプの方々がいます。その中でも筆者が知る限り、唯一大量のガンガゼに挑み続け、海藻を復活させようとしている方がいます。
そのチャンネル名は「スイチャンネル」様です。
昼の岩場の下で密集しているガンガゼを長年駆除しながらも、再び海藻が生えるように試行錯誤したり、熱心に勉強したりと磯焼けの解決に努めてらっしゃいます。
「どのように駆除しているのか」「どんな風に海藻を復活させようとしているのか」気になった方は是非動画を見てみてはいかがでしょうか?
3,ガンガゼに刺されてしまうパターンとは?
魚釣りで刺される事は滅多にありませんが、可能性は0ではないので、ここではガンガゼに刺されてしまうパターンについてご紹介させていただきます。
①磯遊び中に「ブスリ」!
ヤドカリやハゼなどの小さな命と触れ合う事ができる潮溜まり(タイドプール)は子供達にとっても楽しい遊びの場であり、命の尊さ、輝きを見て学べる場てもあります。
しかし、ガンガゼはそんな場所の岩場に隠れている事も多く、磯遊びに夢中になっている間にブスリと刺されてしまう事があります。
ガンガゼのトゲは折れやすいので長靴などは大丈夫ですが、軍手は貫通しますしビーチサンダルで入ると露出している部分に容赦なく突き刺さるため注意が必要です。
②ダイビング中に「ブスリ」!
ダイビングは磯遊びでは味わえない海中を泳ぎ、カレイやアジ、南日本であれば海水性熱帯魚を眺める事もできるアウトドアの1種です。
魚達の優雅な泳ぎと生命に満ち足りた世界に夢中になって注意を怠ってしまうと、まるで夢から覚ますようにガンガゼから手痛い一撃をもらってしまう事も。
ウェットスーツやドライスーツはそこまで厚みがないため、刺さる角度によってはガンガゼの毒トゲは当たり前のように貫通してくるので油断は禁物です。
③採集中に「ブスリ」!
磯遊びに近いですが、こちらは食用としての採集目的です。
岩場には「ジンガサ」や「カメノテ」「フジツボ」などの美味しい生き物がたくさんいます。もちろん岩の隙間にもくっついているため採集側はテンションも上がります。
しかし、ここで目の前の美味なる食材に目が眩んで注意を怠ってしまうと岩場に隠れていたガンガゼの毒トゲが戒めのように刺さってしまう事があるため周囲をよく確認してから採集するようにしましょう。
④魚を揚げようとして「ブスリ」!
かなり珍しいパターンではありますが、釣り人でもガンガゼに刺されてしまう事があります。
夜釣りをしてたまたま大物が掛かってしまい、引き揚げるにもギャフもタモも無いとなると、一旦岸の近くまで引き揚げるしかありません。
その引き揚げた場所にガンガゼがいると、暗闇に紛れてしまい、魚を掴もうとした手を刺されてしまう事があります。
基本的に相当厚手の手袋でない限りは貫通してくるため、魚の引き揚げには十分に注意しましょう。
⑤魚の餌に使おうとして「ブスリ」!
ガンガゼは数が多いので、餌釣り用に捕獲して中の身の部分を使う釣り人の方もいます。
しかし、油断しているとガンガゼの鋭い毒トゲが手に刺さってしまい魚釣りどころではなくなってしまう事もあります。
ガンガゼを釣り餌として使いたい場合はトングを使って採集し、毒トゲを長い棒などでまんべんなく折ってから殻の解体に移る事をオススメいたします。
4,もしもガンガゼに刺されてしまったら!〜応急処置〜
皆様が細心の注意を払っていたにも関わらず、もしガンガゼに刺されてしまった場合は、まずは患部から飛び出している毒トゲを可能な限り抜きます。
自分では抜きづらい部分を刺されてしまり、痛みが酷く、自分ではどうしようもできない場合は同伴している友人に頼んだりして抜いてもらいましょう。
返しも付いていてトゲ自体が脆いため、慎重にピンセットや毛引きで抜いていきます。
大体抜けたら海水で患部を洗いますが、この時無理やり体内に残ったトゲを取らないように注意してください。体内でさらに砕けて被害者をもっと苦しめる事になってしまうからです。
患部を洗ったら、消毒液で患部を消毒します。消毒し終わったらステロイド外用薬などを塗り、応急処置は終了です。
患部の痛みが酷い場合は、温めたタオルを患部に当てて痛みを和らげましょう。
ガンガゼの毒トゲは看過できないほど危険なため、刺されたら必ず病院に行って、毒トゲを取り除いてもらうのが無難です。
5,ガンガゼの危険性以外の一面について
ガンガゼの危険生物たる生態な応急処置の方法などについてご紹介させていただきましたが、ここでは危険生物以外の一面についてもご紹介させていただきます。
危険生物と言っても、この広い世界に生きる1つの命であり、自然界に必要な役割を担っているのです。
危険生物を正しく恐れ、彼らを理解し付き合っていく事こそ本来の向き合い方ではないかという筆者の持論です。
それでは早速いってみましょう!
①大切な海の掃除屋さん
「磯焼けの原因」というイメージが強いガンガゼですが、自然界では大切な掃除屋さんでもあります。
確かに海藻も食べてしまいますが、砂や砂礫、岩の上や隙間に溜まっているなかなか分解されにくい有機物を食べて自然に還しているのです。
その中にはエビやカニの細かな食べ残しだけでなく、魚の死骸、撒き餌などもあり、これらを集団で食べて分解してくれるため、その点では海の浄化役を担っていると考えても良いと思います。
②ある意味「濡れ衣」を着せられている!?
これもガンガゼの食性に関係しているのですが、海藻を食べてしまうのも確かな事です。
しかし、海藻や藻を全て彼らが食い尽くしているという訳ではありません。
こちらも「スイチャンネル」様の動画を見てくださると分かりやすいのですが、海藻復活のために海底から離して海藻栽培をしていたところ、たった数日で生い茂った海藻を無惨な姿に変わってしまったという動画があります。
これほどの被害はいくらガンガゼが集団で海藻を食べる一面があるとはいえ、そのような芸当はできません。
では真犯人は誰なのかというと、「メジナ」や「イスズミ」の群れです。
最初は斥候役なのか数匹で現れ、栽培中の海藻を見つけると「パクリ」と一口。そのまま引き返したかと思えばたくさんの仲間を引き連れて戻り、海藻を食べ尽くしていたのです。
メジナやイスズミは雑食性ですが、海藻類もよく食べるという一面があまり注目されていなかったため、海藻を食べ尽くす生き物=ガンガゼになっていたという結果になっていた訳です。
イスズミやメジナは引きが強く、ゲームフィッシングに適した魚としてもしられており、きちんと下処理すれば美味しく食べる事もできます。
また、メジナの場合は「グレ」とも呼ばれていますが、長生きして大きく育った個体は「年無し」と言われ、非常に珍しいとされ、引きはさらに強い事から憧れを抱く釣り人もいます。
もし「我こそは!」という方は、引きや味を楽しみながら海藻や藻場を守るためにも、メジナやイスズミを釣り上げてみてはいかがでしょうか?
③たくさんの小さな生き物の住みかになっている!
近付けばブスリと長い毒トゲを突き刺してくるガンガゼですが、ある小さな生き物達にとって大切な住みかになっています。
例えば平たい体で常に逆立ちで泳いでいる「ヘコアユ」はガンガゼのトゲの隙間を群れで巧みに泳ぎながら外敵から身を守っています。
他にも「ハシナガウバウオ」や「ガンガゼカクレエビ」「ヒカリイシモチ」といった小さな命がガンガゼの毒トゲに隠れて暮らす事で、か弱いその身を守って生きているのです。
磯焼けは全てガンガゼが悪いと決めつけてガンガゼを駆除し過ぎてしまうと、ガンガゼに守られてきた彼らの住みかが奪われてしまう事になってしまいます。
自然界のバランスを狂わせ過ぎないように考える事は、彼らがこれからの未来を生き抜くための光になるのではないかと筆者は思います。
④ガンガゼを食用にする試みもある!
ガンガゼの身はエグ味や苦味が強く、食べれるけど常食されないといった特徴があります。
しかし、長崎県や愛媛県ではそんなガンガゼを駆除するついでに美味しく食べられるようにしようといった試みが行われています。
その方法としては、地元の農協などから本来なら廃棄される野菜をガンガゼの餌として食べさせる事です。
結果は大成功で、甘味の強い野菜であるキャベツやブロッコリー、ニンジンなどを食べた事で、ガンガゼの身の短所がまろやかになって甘味や旨味が出てきた事が分かっています。
現在はこのように美味しくなったガンガゼを飲食店や宿泊施設などに出荷する試みもあるようです。
⑤君だけを狙い打ち!イシダイ専用の釣り餌!
後述でもご紹介させていただきますが、強い引きが特徴で大きくなった個体は「クチグロ」と呼ばれ、イシガキダイと共に「岩礁の王様」と呼ばれるイシダイはガンガゼの天敵であり、尚且つガンガゼが大好物です。
そのためガンガゼを餌として使うとほぼイシダイ専用の餌となる事からイシダイを狙う方に重宝されています。
⑥長い毒トゲが仇に!?ガンガゼの天敵はヤツ!
長くて鋭い毒トゲは触れた相手に簡単に刺さるため、一見駆除に来た人間相手以外の天敵がいないように見えます。
しかし、そんなガンガゼにもしっかりと天敵がいるのです。
それが前述したイシダイとモンガラカワハギの仲間です。
彼らはガンガゼを見つけると長いトゲを咥えて引っ張り、岩から引き剥がしてしまいます。
さらに、ガンガゼが反撃ができないようにひっくり返し、裏側のトゲも短く脆い部分からバリバリと食べてしまうのです。
特にモンガラカワハギの場合は全身鎧のようなウロコに覆われており、ガンガゼの折れやすい毒トゲを物ともしません。
まとめ
今回は危険生物かつ厄介者として知られるガンガゼについて皆様にご紹介させていただきました。
ガンガゼは海のアウトドアではかなりメジャーな危険生物であり、漁業関係者にとっても厄介な一面があります。
しかし、自然界からすれば彼らも大切な命であり循環の1つなので、ただただ駆逐してしまうのは考え物であると思い、生態や刺されてしまった時の対処方法についてもご紹介させていただきました。
この記事を通して皆様の釣りライフ、そしてアウトドアライフがより素晴らしい物になりましたら、私も幸いです。