「カレイ」と言えば、多くの方が口にした事があるポピュラーな食用魚です。
煮付けや刺身、干物で食べられ地域によっては年末年始になくてはならない食材となっている事もあります。
また、カレイは投げ込み釣りで釣りやすいため、釣り初心者や家族でアウトドアを始めた方にも人気があります。
その中でも今回は「幻のカレイ」「カレイの王様」と呼ばれる「マツカワ」について皆様にご紹介させていただきます。
マツカワは漁獲量が少ないだけでなく、その分謎が多い種類です。しかし、貴重なその身は非常に美味しいため、カレイの仲間とは思えない高級魚となっています。
この記事は、そんなキングオブカレイの世界をまとめてみました。
1,謎多き幻の魚・マツカワとは!?
①分類
マツカワは生物学上「カレイ目カレイ科マツカワ属」に分類されています。学名は「Verasper moseri」で「Verasper」がマツカワ属を指しています。
マツカワ属の魚には同じく美味しい魚と言われている「ホシガレイ(星鰈)」も含まれており、食の期待値が高いです。
②別名について
多くの名前を持つ種類でもあり、「キマツカワ」「シロマツカワ」「タカノハガレイ」「ムキガレイ」「ヤマブシガレイ」「クロスジガレイ」「タカバ」とも呼ばれています。
マツカワという名前自体も有名ではありますが、「王鰈(おうちょう)」という呼び名もかなり有名です。
③生息分布について
生息分布は意外と広く、茨城沖、若狭湾より北の太平洋や北日本海、南オホーツク海に生息しており、島根県の太平洋側でも漁獲される事もあります。
マツカワは特に大陸棚の底が砂泥になっている場所を好んでおり、暖かい時期は浅瀬、寒い時期は水深200m以上の深さに移動して生活するのが特徴です。
⭐北のマツカワ、南のホシガレイ!
南日本でよく漁獲される高級魚・ホシガレイと相対する魚として、マツカワは北日本代表の高級カレイとされています。
マツカワは漁獲量自体が少ないため見かける機会は滅多にありません。
また、漁獲されたとしても一般的な魚屋さんや市場でも並ぶ事はほとんどなく、マツカワのほとんどが料亭などに流通するとまで言われています。
④どのくらいの大きさ?
カレイの仲間の中では大型種であり、全長90cm以上になる事もあります。
マツカワは体長平均60〜80cmほどに成長しますが、天然物は滅多に市場に出回る事がなく、養殖された40cmほどの個体が売りに出される事がほとんどです。
⑤どんな見た目?
体型はカレイの仲間らしく縦に著しく扁平で、上から見ると菱形に見えます。
マツカワの体表は黒褐〜茶褐色をしており、移動や擬態に用いられる背ビレ、尻ビレには黒〜褐色の帯模様があります。
また、体表にはザラザラとした硬いウロコがあるのも他のカレイとの違いの1つです。
マツカワの尾ビレは後端の真ん中部分が丸みを帯びた扇型になっており、これを使って一気に泳ぎ獲物に近寄ったり天敵から逃げたりします。
⭐名前の由来は体表の硬いウロコから!
マツカワは漢字表記では「松皮・松川」と表記されます。この名前の由来として、マツカワのウロコは硬くて丈夫、ザラザラとした触り心地をしており、模様も含めて松の木の皮に似ているために付けられたという説があります。
⭐成熟した個体は雌雄判別も簡単!?
マツカワは貴重な魚ではありますが養殖もされており、それに伴って雌雄判別もしやすいカレイの仲間となっています。
その方法はマツカワをひっくり返した時に見られる目がない面(無眼部)で判別をするというものです。
ひっくり返した時に、この面が白ければメス、黄色ければオスです。ちなみにひっくり返した時に無眼部に黒い斑模様があった場合はホシガレイとなりますので、釣り上げた際は種類判別も含めてやって見ると良いと思います。
⭐基本は砂に潜っている
マツカワを始めとするカレイの仲間達は砂泥に潜って外敵から身を守っています。
筆者もダイビング中に見た事があるのですが、砂から目だけを出して常に周りを窺っています。
そんな彼らは背ビレと尻ビレがとても器用で、少しだけ立てて波のように動かす事で砂地を歩いたり、隠れる時も背ビレと尻ビレを細かく動かして自身に砂をかけながら潜り、敵の目を欺きます。
⑥何を食べているの?
マツカワは肉食性の魚です。自然下では砂泥に潜んで待ち伏せし、エビやカニなどの甲殻類やゴカイ、貝類、小さな魚などを捕食しています。
魚釣りの際はゴカイにも反応しますが、サバやアジ、イワシにも強く反応する個体がいます。
⑦漁獲されている時期は?
非常に美味しい魚と言われるマツカワは10月〜12月に漁獲されており、カレイの刺し網漁が盛んな北海道の苫小牧市では11月がマツカワ水揚げのピークとなっています。
また、マツカワの産卵期は11月〜4月と言われているため真子を狙う場合は産卵期前に狙うようにしましょう。
2,幻との対峙!マツカワ釣りの仕掛けについて
滅多に水揚げされない事から「幻のカレイ」とも呼ばれるマツカワですが、北海道沿岸部や津軽海峡などで投げ釣りをしているとヒットする事があります。
ここではマツカワを釣り上げるための仕掛けや方法についてご紹介させていただきます。
①時期を考えて挑もう
マツカワは時期によって浅瀬と深場に移動する魚です。
暖かい春〜夏は浅瀬、寒い晩秋〜冬は深場にいるため、季節ごとに場所を変えて挑むのがマツカワ釣りに欠かせません。
浅瀬にいる時期は漁港、深場にいる時期はサーフや釣船などを使って優位に進めましょう。
②大物狙いで!
カレイの仲間の中でもヒラメ並みに大型化するマツカワは、小物釣り用の竿では太刀打ちできない魚です。
ヒットしても25cmに満たない小さなマツカワが釣れる事もありますが、大物を狙うためには「3.9〜4.2mの投げ竿」で挑むのが良いとされています。
③釣り糸は太めで挑む!
ミチイトはナイロン3号またはPE1.5号を使います。またチカライトは15m、真下に落とすなら3〜8号で遠投する場合は12号にします。
また、幹イトは4〜10号を使いますが、遠投して狙いたい場合は太めの物がオススメです。
④大物を想定して針は大きめに!
マツカワは釣りでは小さな個体がヒットしやすいため、敢えて大きめの針を使う事で少し震いをかけます。
針は丸セイゴ、ソイ針の18号を使い、大物に食らいつかせましょう。
⑤ハリス同士の間隔は30cmほど開ける事
マツカワは平たい魚なのでもう少し間隔を詰めたいところですが、間隔を開ける事でハリス同士が絡まりにくくなったり、それぞれの動きを見てマツカワが反応しやすくなります。
また、キラキラした反射物を見ると寄ってくるため、集魚効果のあるホタテミラーやサバの皮などを仕掛けても効果があります。
⑥餌は大好物のアレ!
マツカワはエビやカニの他、ゴカイやイソメ、小魚が大好物です。
釣具屋さんに行けばこれらの餌はすぐに購入できますし、マツカワの生息地に生息しているモエビやカニ、ツブ、アサリなどを捕まえる事ができれば餌として使う事も可能です。
また、小アジや小サバ、サンマの切り身にもよく反応するので外野からのついばみによって簡単に取れないように針に仕掛けましょう。
⑦数本は用意しておきたい
マツカワは簡単に釣れる魚ではなく、これに関しては運の要素もかなり強いです。
少しでもヒットの可能性を上げるため、マツカワ仕掛けの竿は2〜3本用意し、それぞれ遠投、真下と距離を変えて設置します。
⭐色々面倒だと思ったら市販の仕掛けがある!
とはいえ初めてマツカワに挑むのは色々と準備が必要なので、仕掛けを作るのも面倒になってしまうかも知れません。
相手は幻の魚。ナメタガレイやヒラメが掛かってもおかしくはありません。釣れるのは嬉しいけれど本命が釣れないのは慣れないとそこそこダメージがあります。
多くの熟練アングラーが経験や情報を頼りに仕掛けを作って挑んでいますが、そこまで考えるのが難しいという方は、市販のマツカワ仕掛けを利用しましょう。
市販の物に頼る事は恥ずかしい事ではありません。むしろ自作するより時短ですし、難しい事を考えずに目的の魚に挑む事ができます。
魚釣りは自然との勝負。釣れる釣れないという事や緊張感もあるかも知れませんが、あまり難しく考え過ぎずに目的の魚との勝負を楽しんでください。
⭐小さい個体はリリースしよう!
マツカワには謎が多く、大型魚なのに漁師さんの刺し網になかなかかからないため、非常に珍しい魚となっています。
ですが、シンプルに漁港で投げ釣りしていたら掛かったという報告も一定数あったりもします。
そんな不思議なマツカワですが、小さな個体が釣れた場合は大きくなって帰ってくる事を願ってリリースしてあげましょう。
特に北海道では35cm以下のマツカワを漁獲してしまった場合は速やかにリリースするように呼びかけています。
3,カレイの王様に恥じない旨味!マツカワ料理について
マツカワは漁獲量が少ないだけでなく非常に美味しい魚として珍重されており、その旨味は多くの食通達を喜ばせています。
ここではマツカワの旬や捌く時の注意、マツカワを使った料理についてご紹介させていただきます。
①マツカワの旬について
マツカワ自体が珍しい魚ではありますが、旬は晩夏〜冬までとされています。
この時期を過ぎてしまい、産卵期に入ってしまうと味が落ちてしまい、品質もかなり不安定になってしまいます。
②マツカワのウロコは「すき引き」で対処!
松の樹皮のように硬くザラザラしているマツカワのウロコはウロコ掻きで取ろうとすると上手く剥がれてくれない事も少なくありません。
そんな時は、ヒラメやクエと同じように包丁でウロコをすき引きします。
マツカワの皮は薄くて柔らかいため、ちょっと難しいですが美味しくいただくためにも下処理を頑張りましょう。
③マツカワの身は透明感のある白身!
そこはカレイの仲間らしく、身は透明感のある白身をしています。
この身は見た目の美しさだけでなく上品な味わいから、同じく高級魚であるヒラメを凌ぐとまで言われています。
マツカワの身は鮮度が落ちにくいものの、食べる時は活魚またはその日に獲れた締めたての状態が好ましいと言われています。
④上品な味わいが魅力!マツカワ料理の種類について
マツカワ料理はシンプルな物が多く、しっかりとした歯応えと旨味が高く評価されています。
ここではそんなマツカワ料理をご紹介いたします。
・刺身
マツカワ本来の旨味をダイレクトに味わえる一品です。
鮮度が良いマツカワは身に強い弾力があるため、薄めに切るのがポイントです。
クセのない味わいと脂の甘味はカレイの中で最も美味と言われています。
・縁側の刺身
カレイやヒラメの仲間は背ビレと尻ビレをよく動かすため筋肉が発達し、他の魚より分厚くなっています。
マツカワの縁側も分厚くなっており、強い歯応えと旨味を楽しむ事ができます。脂が乗っていて身よりも甘味が強いため、魚の脂が大好きな方にもオススメです。
ちなみにここでもヒラメ派かマツカワ派か分かれるようです。
・唐揚げ
幻の魚を贅沢に使った一品です。
淡白な旨味は油とも相性が良いため、唐揚げにすればサクサクの衣にプルプルの皮、フワフワなのにジューシーな身の三重奏を楽しむ事ができます。
刺身より食感が優しいので、お子様にもオススメです。
・マリネ、カルパッチョ
クセのない味わいは和食だけでなく洋食にもピッタリという万能フィッシュ・マツカワ。
薄く切った身に塩コショウで味付けし、レモンなどの柑橘とオリーブオイルに軽く漬けたマリネやカルパッチョにも良く合います。
パーティーメニューにあったらオシャレな一品ですし、お酒好きな方は白ワイン片手に味わってみるのもオススメです。
・塩焼き
淡白な旨味と脂の甘さが特徴的なマツカワの身に塩を振って焼き上げた料理です。
ホクホクの身にシンプルな塩味がマツカワの旨味を引き立てます。
脂がある分焦げやすいので焼きすぎには注意が必要です。
・酒蒸し
アサリなどの貝類が主な材料ですが、マツカワも酒蒸しに良く合います。
すき引きしたマツカワの身を、皮目を下にしてアサリなどと共にさっと焼きます。焼いたら返さず、白ワインや日本酒を回しがけてから蓋をして蒸し焼きにします。
使うお酒によって風味が若干異なりますが、アサリとマツカワの旨味がたっぷり滲み出したスープは絶品で、マツカワの身もふっくらと仕上がります。
・アラの煮付け
カレイの代表料理と言えば煮付けのイメージがありますが、マツカワも煮付けにされます。身の方はあまり煮付けにされず、頭やアラを煮付けにする事が多いようです。
マツカワは大型なのでカマや頭部にも厚みがあり、肉が多くついています。トロトロの皮と旨味の強い希少な肉を美味しく食べられる料理方法であり、玄人さんの中には「魚は頭とカマが一番旨い」という方もいるくらいです。
煮付けを作る場合、マツカワの淡白な旨味を損ねないように濃く煮すぎないようにするのがポイントです。
・真子(卵巣)の煮付け
元々希少な魚であるマツカワのメスから取れる超希少な食材・真子を使った贅沢な料理です。
良型のマツカワのメスからはある程度の大きさの真子が入っている事があります。産卵期が近付いた個体だと中の真子も大きくなります。
真子は繊細な食材なので、煮る前に筒切りにして中の卵が散らばらないようにします。その後、酒、醤油、みりん、ザラメ(砂糖でも可)を合わせて沸騰させた物にそっと入れて落し蓋をして煮付けます。
甘辛いタレがしみた真子はご飯に良く合うので取り合わないように注意しましょう。
⭐カレイの仲間は低カロリー高タンパク!
マツカワを始めとするカレイの仲間達はマグロやサケのように脂がノリノリではなく、適度な脂肪を持つ白身魚なので低カロリー高タンパクという特徴があります。
また脂が乗りすぎていない分胃に負担をかけず消化しやすい事から病気で体調が優れない時や赤ちゃんの離乳食にも良い食材と言われています。
⭐タウリンが豊富!
某栄養ドリンクのCMを思い出しそうですが、カレイの仲間はタウリンという成分を豊富に含んでいます。
このタウリンは血糖値の上昇を抑制したり、コレステロール値の低下、動脈硬化の予防や血圧の正常化、視力の回復、心臓や肝臓の機能を高めるなどの効果があると言われています。
ダイエットや健康的な生活をお考えの方は、魚料理の中に是非カレイ達を取り入れてみてはいかがでしょうか。
⭐味わいたくなったら通販もオススメ!
マツカワは食べられるサイズを釣り上げたら奇跡みたいなところもある魚なので、なかなか出会う機会も少ないと思います。
しかし、マツカワを食した多くの人達のレビューを見ると「美味しい魚」という言葉が多く、できる事なら食べてみたいのではないでしょうか?
そんな時は通販で購入するのがオススメです。マツカワは「王鰈」というブランド名で販売されている事があり、最低でも35cm以上はあるので刺身やカルパッチョを食べる事はできます。
お値段は人によって感じ方がそれぞれ違うのでノーコメントですが、気になる方は是非お取り寄せしてみてください。
4,マツカワと人間の関係について
「北のマツカワ」とも呼ばれる彼らは非常に希少な魚であり、その歯応えと旨味から高級魚として知られています。
現に北海道の日高や渡島などの沖合いで漁獲された個体の内35cmを超す個体は「王鰈」と呼ばれ、ブランドとして流通しています。
「カレイの中で最も美味しい」「カレイの王様」と呼ばれる彼らに相応しいブランド名です。
そんなマツカワは希少とあって、自然の資源を守るために養殖も行われるようになりました。
このキッカケは1980年代に北海道のマツカワの漁獲量が1tを下回った事だと言われており、養殖に漕ぎ着けたのは2006年と意外にも最近です。
2006年に養殖と放流が始まり、小さい個体はリリースするなど地道に保護した結果、2008年以降は100t以上の漁獲ができるようになったのです。
マツカワは依然として高級魚であり養殖も色々と気遣いが必要なため、北海道の漁師さんは売り上げの一部をマツカワの稚魚育成のための基金にして養殖に力を入れています。
最近では青森県でもマツカワの養殖がされるようになり、希少過ぎて一般的に名前があまり知られていないこの魚を「美味しい養殖魚」として普及に努めています。
養殖のこだわりとして、青函トンネルから採取した湧き水を使っているとの事です。
しかし、近年記録的な暑さによる海水温の上昇により、多くの養殖場が大きな被害を受けてしまいました。
マツカワもその1つであり、高水温になってしまった海水に耐えられず県内各地で大量死してしまったのです。陸上養殖施設でも様々な対策をしたものの、小さな命を救う事はできませんでした。
マツカワは10℃〜24℃という冷水性の魚なので高水温に弱い他、2023年8月は水温の急激な変化があったため、小さなマツカワの稚魚達はそのダメージに耐えられず次々と死んでしまいました。
「幻のカレイ・マツカワ」が本当の幻にならないように新たな対策や養殖方法を模索する必要があり、今後も目が離せません。
まとめ
今回は幻のカレイ・マツカワについて皆様にご紹介させていただきました。
マツカワは高級魚でありながら滅多に市場に出回らないため一般的には結構マイナーな魚です。
しかし、魚釣りの世界となれば餌の見せ方や仕掛け、時期を見計らう事である程度狙いを定める事もでき、幻とのファイトも夢ではありません。
そんなマツカワはクセがない上品な旨味とあっさりとした甘い脂、強い歯応えが多くの人々を唸らせており、縁側の刺身もヒラメ派かマツカワ派かに分かれるほどで、刺身に関しては色味的にも寝かせない方が良いとまで言われています。
食べ方にも様々なこだわりがあり、ヒラメに匹敵する大きさと旨味があるカレイの王様・マツカワとのファイトを希望される方は是非北の海へ足を運んで見てはいかがでしょうか。
王様との勝負に打ち勝つ事ができれば、料亭ですらなかなか手に入れられない「天然極上の旨味」というご褒美が手に入るかも知れません。