今思えば、海や川に恵まれ、様々な種類の魚達が食卓を支えてくれる良い国に生まれたなと感じる事が増えてきたこの頃の筆者。
そしてこの時期になるとどうしても食べたくなってしまうのが「シラウオ」です。
シラウオは釣るというよりは目の細かいタモなどによる採集するタイプの魚で、一部の地域であればこういった採集も可能な食用魚でもあります。
また、名前が良く似た「ある魚」と混同される事もしばしばある、ちょっと紛らわしい一面もあったりします。
そんなシラウオワールドを是非覗いていってください。
1,繊細な体を持つ魚・シラウオとは?
①分類は?
シラウオは「キュウリウオ目シラウオ科」に分類されています。
以前は「サケ目」に分類されていた事もありました。
ちなみに「キュウリウオ」の仲間にはシシャモやアユ、ワカサギといった見た目も味も良い魚達も含まれています。
②生息地は?
シラウオの仲間自体は東シベリアから東南アジアまで広い範囲で生息が確認されています。
日本には4種類生息しており、そのうち2種類は日本固有種です。主に沿岸や河口などの汽水域に生息していますが、湖にいる事もあります。
食用の「シラウオ」と」イシカワシラウオ」は青森県の小川原湖、島根県の宍道湖、茨城県の霞ヶ浦、静岡県の浜名湖の他、福島県、千葉県、東京湾などの外洋で漁獲されています。
淡水の影響を受けている汽水域などで漁獲されるのは「シラウオ」、淡水の影響がない沿岸や外洋で漁獲されるのが「イシカワシラウオ」です。
③どんな見た目をしているの?
シラウオの体は細長く体の後半にいくにつれて太くなり、尾ビレの前、背ビレの終わりあたりから再び細くなる「楔」のような形をしているのが特徴です。
頭部に対して目は小さめですが、口は意外と大きいです。
尾ビレは二又になっており、背ビレの後ろには小さな「脂ビレ」があります。
この脂ビレの存在がシシャモやワカサギに近い種類という証であり、以前サケ目に分類されていた理由の1つだったりします。
食卓に並ぶ時は体の色が白く濁った状態か火が通って真っ白になっていますが、生きている時のシラウオは内臓や背骨が透けて見えてしまうほどの透明度がある白っぽい半透明の体を持っています。
また、お腹には黒い小さな点々が2列並んでいます。これは生きている状態でも確認できますが、食材として下ごしらえした後の姿だともっと目立ちます。
④どのくらいの大きさなの?
私達が口にするシラウオは「シラウオ」と「イシカワシラウオ」という種類です。
この2種類のうちイシカワシラウオは日本の固有種であり、シラウオと見た目も大きさもそっくりなので特に区別されずに漁獲されています。
そんなシラウオの大体の大きさは8〜10cmほどです。スーパーなどで見かけるシラウオはもう少し小さめな事もあります。
⑤シラウオの寿命は?
シラウオの寿命は僅か1年しかありません。2〜5月頃に繁殖期を迎え、産卵した後は死んでしまいます。
また、アンコウと同じようにメスが大きくなる特徴があり、10cmほどの大きさになります。
食卓でシラウオを食べる時にふっくらとしたお腹の個体をよく観察してみると、お腹に小さくて粒々した卵が確認できます。
⑥他のシラウオは?
日本にはあと2種類のシラウオが生息していますが、こちらは2種類とも「絶滅危惧IA種」とされており、環境省のレッドリストに入っているため食用にされていません。
そんな2種類は「アリアケシラウオ」と「アリアケヒメシラウオ」といいます。
「アリアケシラウオ」は大きさが15cmにもなる大型のシラウオの仲間で、日本では有明海沿岸にしか生息していません。
海外では中国や朝鮮半島でも見られるようです。
「アリアケヒメシラウオ」は大きさが5cmほどとシラウオの中でもかなり小さい種類です。
また、こちらの方が稀少で世界広しといえども、アリアケヒメシラウオは有明海に流れる筑後川や緑川などの限定した場所にしか生息していません。
食用にされていないのに数が減ってきている事でも知られており、水質汚染や堰を作るなどの河川改修が原因と考えられています。
⑦シラウオの別名や漢字表記は?
シラウオは「シロウオ」「シラオ」「シラス」「トノサマウオ」など多くの別名があります。
別名の1つである「トノサマウオ(殿様魚)」は、領主は田んぼ仕事や力仕事を一切しないため、そのキレイな手をシラウオに例えた事が由縁という説があります。
漢字では「白魚」「銀魚」「王余魚」「鱠残魚」という表記があります。
「白魚」はこの魚が死んでしまうと色が真っ白になる事から来ており、「銀魚」や「鱠残魚」は中国での表記だったりします。中国ではシラウオを「銀魚」と呼び、鱠(なます)にして食べていたそうです。
2,ちょっと紛らわしい魚との違いについて
シラウオは名前や別名のせいか、よく「シロウオ」や「シラス」と混同されている事が少なくありません。
ここではちょっと間違えやすいシロウオとシラスについてご紹介させていただきます。
①シロウオ
特にシラウオと混同されやすいのが「シロウオ」です。
名前も良く似ていますし、体も透明なので色々と特徴がそっくりな種類でもあります。
そんなシロウオは「スズキ目ハゼ科シロウオ属」の魚で、小さくて透明なハゼの仲間です。漢字では「素魚」と表記されています。
大きさも5cmほどしかなく、シラウオが持つ脂ビレもありません。
また、ハゼの仲間の中ではかなり特異な種類でもあり、ヨシノボリやマハゼなど多くのハゼの背ビレが2つあるのに対し、シロウオは1つしかありません。
他にもシラウオと比較して浮き袋が大きく、よりハッキリと確認できます。
シラウオと同じように春の味覚であり、天ぷらや寿司ネタ以外の食べ方として、生きたシロウオにポン酢をかけて食べる「踊り食い」が有名です。
②シラス
種類の名称ではなく多種多様な魚達の稚魚の総称です。こちらもシラウオ、シロウオとよく混同されています。
主にアユやイワシ、ニシン、イカナゴなどの体色にまだ色素がなく白い状態の稚魚の事を指しています。
塩茹でにして干したものは「ちりめんじゃこ」などと呼ばれポピュラーな食材です。
このように多くの稚魚の総称であるシラスは、水揚げしたばかりの獲れたて新鮮なものは市場などで「生シラス丼」などで賞味されています。
甘味と優しい歯触り、僅かな苦味が最高の逸品です。
そんなシラスが加工された「ちりめんじゃこ」の中には様々な稚魚や生き物が確認できます。
これが「ちりめんモンスター」なのです。
アユやイワシの仲間、イカナゴなどの他にもエソの稚魚やアジの稚魚がいる事もありますし、運が良ければ生まれたばかりのタコやイカがいる事もあります。
ちりめんじゃこを食べる時、それぞれの違いを発見しながら食べるのも楽しみ方の1つかも知れません。
3,上品な味を楽しもう!シラウオ料理について!
食用魚として広く知られているシラウオは、様々な料理になってたくさんの人々に賞味され愛されています。
また、シラウオは骨も丸ごと食べられるのでカルシウムが豊富であり、カロリーも100gあたり約77kcalと、とてもヘルシーな食材でもあります。
そんなシラウオ料理についてご紹介させていただきます。
①サクサクふんわり!「シラウオの天ぷら」!
天ぷらというよりは「かき揚げ」に近いですが、シラウオの食べ方としてポピュラーな料理の1つです。
塩水で洗ったシラウオに小麦粉をまぶし、衣をつけて高温の油でカラッと揚げます。
この揚げ方も個性が出るところで、そのままスプーンなどで形を小さく整えながら揚げたり、三つ葉や刻みネギを衣に混ぜ、おたまで掬ってかき揚げのように揚げる方法などがあります。
この衣に混ぜる野菜ですが、三つ葉や刻みネギ以外にも玉ネギやアオサなどもオススメです。
特にシラウオが旬の時期には新玉ネギが販売されるようになります。
新玉ネギは玉ネギ特有の辛味が少なく甘味が強いので合わせるには打ってつけです。
また、アオサの優しい磯の香りとシラウオの淡白な味わいも春の海を感じる組み合わせです。
②シンプルにいただきます!「シラウオのお刺身」!
流石に三枚おろしは無理があるシラウオを強めの塩水で洗ってしっかり水気を切ったものをお皿に並べて醤油などでいただきます。
とてもシンプルな料理ですが、シラウオのプリっとした身と甘味、内臓の苦味を味わう事ができます。
また、メスのシラウオだとお腹に卵が詰まっているためプチプチとした食感も楽しめます。
筆者的にシラウオは生臭みも少ないため、生魚が苦手な方でも比較的食べやすいかと思いますので気になった方は是非トライしてみてください。
③サッパリ食べられる!「シラウオの酢〆」!
お刺身よりサッパリ食べられる料理です。
強めの塩水でシラウオを一度洗ってから、再び新しい塩水に3分ほどつけます。
その後、シラウオをザルに上げて生酢でサッと洗ってから水気を切って、お皿に盛り付けて完成です。
酢の爽やかな酸味と香りがシラウオの身の甘さを引き立たせる乙な逸品です。
④カリサク食感がクセになる!「シラウオの唐揚げ」!
最初の天ぷらに近い感じですが、こちらは1匹1匹がバラバラに揚げられているのでカリサク食感が楽しめます。
作り方も簡単で、塩水で洗ってキッチンペーパーなどでしっかりと水気を切ったシラウオに片栗粉をまぶして油でカラッと揚げるだけです。
⑤あっさりとした旨味!「シラウオのお吸い物」!
火が通ると身がふっくらとして旨味が出るシラウオはお吸い物の椀種にもピッタリです。
下処理したシラウオを鰹節のお出汁や昆布の合わせ出汁の中に入れ、醤油や塩、酒などで味や風味をつけて煮たたせるだけで完成です。
彩りも考えている方は最後に三つ葉や水菜、小松菜などを入れると見映えも良くなります。
⑥卵とも相性抜群!「シラウオの卵とじ」!
こちらも簡単に作れて美味しいシラウオレシピです。
作り方の途中までは前述したお吸い物と一緒ですが、卵とじを作る場合は出汁の中にシラウオを入れて少し煮てから溶き卵を加えます。
この時の卵の火の通し具合はお好みで調節します。
⑦ご飯がすすむ!「シラウオの佃煮(時雨煮)」!
ご飯のお供としてシラウオは佃煮や塩煮などにされる事もあります。
シンプルな作り方は、下処理したシラウオを酒と醤油を煮たたせた中に入れて短時間で火を通します。
調味料としてキビ砂糖やみりんを入れるとコクや深み、甘味が出るのでオススメです。
また、お好きな方は生姜や山椒を入れるとパンチが効いた味わいになるので是非入れてみてください。
⑧パンにも合う!「シラウオのアヒージョ」!
シラウオは最近流行りのアヒージョにも変身するのでパンにも良く合います。
作り方はとても簡単で、スキレットか小振りの鍋とオリーブオイル、下処理をしたシラウオ、ニンニク、鷹の爪があればできてしまいます。
作り方はスキレットにオリーブオイルとニンニクを入れて火にかけます。
ニンニクは刻んでも良いですし、ホクホクのニンニクがお好きな方は皮をむいてそのまま入れても良いです。
ニンニクに火が入り、オリーブオイルにニンニクの香りが移ってきたらオリーブオイルを足し、そこにシラウオをたっぷり入れます。
一度オリーブオイルを足すのはオイルの温度を下げるためで、そのままシラウオを入れると火が通りすぎて身がボロボロになるのを防ぐためです。
シラウオに火が通って来たら最後に輪切りにした鷹の爪を入れて全体に火が入ったら完成です。
バゲットに乗せて良し、茹でたパスタに混ぜても良しの派生料理もあるナイスレシピです。
⑨簡単美味しい!「シラウオのだし巻き玉子」!
こちらも簡単に作れて美味しい料理です。卵とシラウオと出汁があればできてしまいます。
まずは卵を割り、良く混ぜて白身をしっかり切ります。次に下処理をしたシラウオと白出汁または鰹節出汁を卵に入れてよく混ぜます。
だし巻き卵の準備ができたら卵焼き器またはフライパンに油をしいて火にかけ、卵液を垂らして焼けるくらいに熱くなったらシラウオ入り卵を流し込みます。
この時おたまを使うとシラウオも入れやすいのでオススメです。
焼けてきたら端から剥がし、巻いていきます。巻いたら端に寄せ、残った卵を流し込みます。
この時巻いた卵を箸などで少し持ち上げ、下まで卵液を広げておくとキレイに巻けます。
卵に火が通ったら巻いて完成です。
そのまま食べても出汁とシラウオの味があって美味しいですが、食感が欲しい方は卵液に刻みネギを入れてもアクセントになります。
ちなみに筆者の場合は大根おろしをたっぷり乗せて食べます。
4,知らないと大変!?シラウオを食べる時の注意点について
シラウオは様々な食べ方が知られていますが、ある食べ方をすると大変な事になってしまう食材でもあります。
スーパーや飲食店などで食べる事ができるシラウオは冷凍処理をされているため生食でも危険度は低いですが、野生で採取したシラウオをそのまま生で食べるのはとても危険です。
というのもシラウオは「横川吸虫」や「顎口虫」といった寄生虫の中間宿主となっている事も多く、場合によっては腹痛やお腹を下してしまうなどの消化器系に障害が出てしまったり、皮膚下を寄生虫が這うため痛みやむず痒さが出る「皮膚爬行症」が発症してしまう事もあります。
獲れたて新鮮なシラウオは確かに魅力的ですが、寄生虫処理をしていない生食は避けたいものです。
しかし、最近の被害ではシラウオを寄生虫処理せず生で食べた事で約130人もの人々が顎口虫による皮膚爬行症にかかってしまった事が分かっています。
吸虫や顎口虫は淡水魚や汽水魚に多い寄生虫なので、食べる時は必ず一度冷凍するか、火を通してから食べるようにしましょう。
5,知って得する!?シラウオの豆知識について!
古くから春の味覚として親しまれていたり、シロウオやシラスと混同されたりとあらゆる形で有名な魚ですが、まだまだたくさんの情報が詰まっていたりします。
ここではそんなシラウオの豆知識についてご紹介させていただきます。
①めっちゃ繊細!
今までの経験で生きたシラウオを見た事があるという方はどのくらいいるのでしょうか。
生息地に行った方や実際に漁に行った方であれば見た事があるかも知れません。
シラウオは漁であれば定置網や刺し網漁、四つ手網漁で、野生採取であれば目の細かいタモで漁獲されています。
しかし、シラウオは体が非常に繊細で傷付きやすいため、漁具やタモによる擦り傷や空気に触れて表面が僅かに乾燥しただけですぐに弱って死んでしまいます。
また、死んでしまったシラウオはすぐに鮮度や味が落ちてしまうため漁獲されたものはすぐに冷凍して鮮度や品質を保っているのです。
ちなみに生きているシラウオは本当に水と見分けるのが難しいほどの透明な体をしており、非常に美しいです。
繊細で儚いからこそ生きているシラウオの姿は貴重なのかも知れません。
②野生で捕まえる時は「アレ」が便利!
まず、シラウオは地域によって重要な水産資源となっていて採取に漁業権を得なければならなかったり採捕禁止期間を設けられたりしている事があるため、採取をお考えの方は一度地域のシラウオ情報を調べておくと無難です。
しっかり調べて「いざ採取!」となっても透明過ぎてどこにいるのか分からないシラウオ。湖や河口で捕獲するのは一筋縄ではいきません。
ここで役に立つのが「懐中電灯」です。
夜の水面を懐中電灯で照らすとシラウオの目が光を反射してキラキラと輝くため捕まえやすくなります。
シラウオの見事な擬態を看破したらタモで素早く掬いましょう。
この時プラケースがあるとシラウオの生きている時の貴重な姿を観察する事ができます。
その場ですぐに食べたい場合は生食を避けるようにだけ気を付けましょう。
③福島県のブランド!「海のプラチナ」!
東北地方の福島県もシラウオの名産地の1つです。
特に福島県浪江町請戸漁港のシラウオは1匹1匹が大きく食べ応えがあるのが特徴です。
そのため「小魚界の女王」とも呼ばれています。
そんなシラウオを水揚げから加工まで約1時間という早業で鮮度を極限まで保ち、全国に発送しています。
鮮度が高いため箸で掴めば透けて見えるほどの透明度を誇り、プツプツとした歯切れの良い肉質も特徴的です。
「海のプラチナ」として生シラスが気になる方は是非お取り寄せしてご賞味してみてください。
また、「近海シラウオ一夜干し」という商品もありますので、一夜干しによって旨味が凝縮したシラウオが気になる方はこちらもオススメです。
まとめ
今回は筆者も大好きな春の味覚・シラウオについて皆様にご紹介させていただきました。
シラウオは未だに謎が多い魚ではありますが、その見た目の美しさや優しい歯触り、上品な旨味が昔から愛されてきました。
見た目の繊細さや儚さはありますが、食材に使うと想像以上に旨味があり、お吸い物やだし巻き卵にしてもしっかり存在感を出してくれます。
そんな美しい食用魚・シラウオについて少しでも知っていただけたら私も嬉しく思います。