はじめに
「海釣り」その甘い響き…。
大物との戦いを楽しむも良し、釣れた魚を捌いて食べるのも良しとハマる要素が多いのも魅力的です。
そんな海釣りの最中、避けては通れないのが危険生物との遭遇です。潮溜まり(タイドプール)や干潟、川にも危険生物は潜んでいますが、海釣りは多種多様な生き物がかかりやすいため遭遇率も高めです。
今回は海釣りで遭遇しやすい危険生物から「アイゴ」について皆様にご紹介させていただきます。
今回はこの『アイゴ』の特徴や毒を持っていることからの危険性、対処方法等についても盛り込みましたので、これから釣りに出かけるという方は是非ご参考にしていただければと思います。
1,危険生物「アイゴ」とは何者!?
アイゴは縦に扁平な体を持つスズキ目アイゴ科の魚です。
その体型は木葉のようになっていて水の抵抗を受けにくく、岩礁やサンゴ礁の狭い隙間に逃げ込んだり泳いだりするのに適した構造になっています。
成長すると30cm前後の大きさになります。
体色は種類によってかなり違いが見られ、本種の場合は茶褐色〜黒褐色の帯状の模様が背中側から腹側にかけて数本入り、白色の霜降り模様が全身に入っています。
また、アイゴの仲間達はどの種類も基本的に小顔で口も小さく厚みのある唇を持つのも特徴の1つです。
2,アイゴの生息場所とは?
アイゴの生息範囲は非常に広く、日本ではほぼ全海域にいると言っても過言ではありません。
また、世界規模で見ると朝鮮半島の南部からオーストラリア北部、西太平洋の沿岸に広く生息していると言われています。
アイゴはかなり草食性が強い魚種なので、餌となる海藻類が豊富な岩礁やサンゴ礁では特に多く生息しています。
3,アイゴが危険生物と呼ばれる由来とは?
今までの特徴紹介とアイゴの見た目はパッと見「タイ」によく似た姿をしているのでどこに危険があるのか分かりにくいかも知れません。
ですが、彼らはとんでもない武器を隠し持っています。
それが背ビレ、尻ビレ、腹ビレに備わっている「毒棘」なのです。
この毒棘、本来は「棘条」というのですが、ここでは毒棘と表記させていただきます。
アイゴの毒棘は鋭いだけではなく、太くて頑丈な構造となっています。
その根元には「毒腺」という器官がそれぞれ備わっており、棘が刺さると瞬時に毒を注入してくるのです。
この毒はタンパク質が含まれており、作用としてはオコゼやゴンズイに近いものがあります。
幸いゴンズイやオコゼのように死者を出す程の威力は無いようですが、刺されると激しい痛みに襲われ、この症状は短ければ数時間、長ければ数週間続きます。
アイゴに刺される時は釣り上げてしまった時や捌く時に誤って刺されてしまう事が多いです。
アイゴは死んでも毒が消えないから、調理時に油断しているとファイナルカウンターが来るぜ・・。
4,もしアイゴを釣り上げてしまったら!?〜遭遇・対処編〜
アイゴは釣り上げられると毒棘を全開にして力の限り暴れます。
彼らにとっては命がかかっていますから何とか逃げようと必死なのです。
そのためまずは魚本体を掴んだりラインを短く持ったりはせず地上に置きましょう。
そうすると最初は暴れていたアイゴも次第に大人しくなってきます。
次にアイゴの頭部から胴体を素早く足で押さえつけ、身動きを封じます。
ちょっと可哀想であるが、仕方ない。
ここからちょっとした分岐があります。
食用として持ち帰る場合はエラか脊椎にナイフを突き立てたりして締め、血抜きをします。
アイゴをより美味しく食べたい場合はこの段階で内臓を取り出しておくと身に匂いがあまり付かなくなるのでオススメです。
☆より安全にアイゴを持ち帰るためには?
先程の説明にもあった通り、アイゴの毒はアイゴが死んでも消える事はないためうっかりしていると何かの拍子で刺さってしまう可能性もあります。
この予期せぬ事故を防ぐための方法として「キッチンバサミ」がかなり良い仕事をしてくれます。
何をするのかと言うと答えは単純!毒棘を全部切り落とすのです。
アイゴの毒棘はかなり丈夫なので、普通のハサミだと歯が立たないか、切れたとしてもハサミがボロボロになってしまいます。
ですが、キッチンバサミは刃の部分もかなり丈夫な作りをしているため比較的簡単に毒棘を切り落とす事ができます。
切り落とした毒棘は海に帰すかキッチンペーパー等に包んで燃えるゴミに捨てましょう。
リリースしたい場合は地上に置かれて大人しくなったアイゴを足で押さえつけたらペンチを使ってかかっている針を外し、口内をしっかり掴んで海に投げ返してあげましょう。
5,もしアイゴに刺されてしまったら?〜応急処置編〜
釣り上げられたり網で掬われたりしてパニック状態のアイゴに刺されてしまった場合は、
40〜60℃の熱い湯を患部にかけ続けるか、熱い湯をバケツやタライ、鍋等に張って患部を浸けましょう。
そうする事でアイゴの毒に含まれるタンパク質の活性が失われるため痛みを緩和させる事ができます。
特に冬場は肌寒さのあまりアイゴに刺されると痛みが引きにくいと言われているため注意が必要です。
応急処置が終わったら病院に行くのが一番ですが、お湯を沸かす物がなく応急処置ができなかった場合はすぐに救急車に連絡しましょう。
アイゴの毒棘の威力はゴンズイよりマシとはいえ、その激しい痛みは大人もうずくまるしかないぞ・・。
家族連れでの釣りの時、もし小さなお子さんにアイゴの毒棘が奮われないとは限りませんし、刺された場合に感じるダメージは大人の比ではありません。
応急処置ができるように、お湯を沸かす道具一式と救急車を呼ぶための携帯電話やスマホは必ず用意しておく事をオススメいたします。
6,実はこんな被害も出ている…!
毒棘をヒレに備えたアイゴは刺されなければ完全無害!という訳ではありません。
実は「ある現象」の原因となっているのです。
アイゴは草食性が強い魚です。そのため餌となる海藻等が豊富な場所に生息しているのですが、成魚も稚魚も群れを成してこれらの海藻や藻類を食べ尽くしてしまい、しばしば「磯焼け」の原因となっています。
「磯焼け」は元々海藻や藻類が繁茂して「藻場」を形成している場所で海藻類が減少、消失してしまう現象を指しています。
磯焼けが起きると本来あった藻場を産卵場所にしていたり餌にしていたウニやアワビや魚達の生活に甚大なダメージを与えてしまい、ひいては沿岸漁業にまでダメージを与えてしまうのです。
特に西日本で起きる磯焼けはアイゴの食害が原因と指摘される程問題になっています。
アイゴの特徴や危険生物とされる理由、対処方法のお次はアイゴの危険生物以外の一面もご紹介させていただきます。
アイゴの危険生物以外の意外な一面について
①嫌われ者、と思いきや!
釣り上げると毒棘全開で暴れまくるアイゴは釣り人の間では嫌われ者…と言うわけでもありません。
確かに刺す魚なので嫌われている面もありますが、アイゴ自体は遊泳力が強く、タフで引きが強いため釣り人に人気の魚でもあります。
また食用にもできるため対処や捌き方が分かっている方からするとかなりありがたい魚なのです。
②ちょっとクセがあるけど美味しい魚♪
ご紹介の時もちょくちょく出てましたが、アイゴは食べられる魚です。
磯臭さがあると言われていますが、
歯ごたえのある淡白な白身は刺身や塩焼き、煮付け等で食べられています。
実際に釣ったアイゴを捌いて刺身で食べてみましたが、絶品でした。
その時の記事がこちら!
ある地域ではアイゴが美味しすぎて盛られてきた皿まで舐め回したという話があるようで「アイゴの皿ねぶり」という言葉まであります。
③稚魚は丸ごと…
沖縄料理には「スクガラス」という料理があります。これはアイゴの稚魚(スク)を塩辛にしたもので、豆腐に乗せて食べたり、お酒のお供にして味わうそうです。
流石のアイゴも稚魚の時は毒も弱いのか、スクガラス以外では酢漬けにされたり丸ごとカラッと揚げられたりして食べられる事もあるようです。
④色んな名前がある!
アイゴは漢字で「阿乙呉」「藍子」と書きますが、名前自体はアイヌ語からきていると言われています。
「アイ」は「トゲ」、「ゴ」は「魚」を意味しているそうです。
また、地方名も豊富で「イタイタ」「エーグヮー」「バリ」「ヤノウオ」等があります。
一方海外では「顔がウサギ似ている」とされ「ラビットフィッシュ」と呼ばれたり、ヒフキアイゴの仲間のように面長な種類だと「フォックスフェイス」と呼ばれています。
世界の海に広く分布しているアイゴだからこその名前の多さなのかも知れません。
⑤アクアリウムでも大人気!
アイゴの仲間には体色が美しい種類も多く、そのような種類は「マリンアクアリウム」ではかなり人気があります。
その中には、アイゴの仲間の中でも小型の「ヒメアイゴ」、モノトーンな顔と明るい黄色の体色が特徴的な「ヒフキアイゴ」、ヒフキアイゴに似ているけどグレーの落ち着いた体色がカッコいい希少種「アダマンフォックスフェイス」等がいます。
飼育の時は毒棘に注意が必要ですが、環境に慣れると丈夫で美しい種類です。
⑥魚の中では変わり者?
アイゴはゴカイやイソメ、オキアミも食べますが基本的には「草食性が強い雑食」の魚です。
そのため海藻類には目がないのですが植物質が好きすぎて水族館や個人のマリンアクアリウムでは餌としてホウレン草や小松菜、レタスや味付けではない海苔、乾燥ワカメを戻したもの等を与えられる事も多い種類です。
また、沖縄の籠漁ではサツマイモを餌として使ったり、別の地域では味噌や酒粕を練り餌として使う事もあるそうです。
アイゴは他の魚と比べて味覚がちょっと特殊なのかも知れません。
⑦チクチクアイゴに迫る怪しい影…天敵はまさかの!
水の抵抗を受けにくい木葉型の体、丈夫な毒棘を隠し持つアイゴですが、やはり天敵は存在します。
巨体や鋭い牙を持つサメやロウニンアジ、タマカイのような大型魚にも捕食対象にされていますが、アイゴにとって一番の天敵は何と「アオリイカ」なのです!
かつてヒョウモンダコの天敵としても紹介された高級寿司ネタがここにも見参です。
ある研究結果によると、アオリイカにはアイゴの毒も効果がなく、鋭い鉤爪が並ぶ吸盤がついた触腕でアイゴを捕獲すると毒棘よりも固くて鋭い口でバリバリと食べてしまうそうです。
さらに驚くべき事に、アオリイカは小さい頃からアイゴの稚魚を積極的に襲って食べている事も判明しており、ヒョウモンダコに続いてアイゴの天敵としても立ちはだかっていたのです。
アオリイカは食の面でも生態系の面でもヒーロー級の活躍をしてくれているのが良く分かります。
まとめ
今回はベジタリアンな危険生物「アイゴ」について皆様にご紹介させていただきました。
アイゴは沿岸であれば日本のどこでも釣れる可能性があり、対処が分からないと非常に痛い目を見せられてしまうため注意喚起の意味も込めて取り上げさせていただきました。
特に最近海釣りを始めたという方やお子さんと一緒に釣りに行くようになったという方に対処等の予備知識なれたら幸いと思います。
また、余談ではありますがアイゴを飼育した時の失敗として餌の問題が挙がる事があります。
急に食欲を無くしたり人工飼料を食べない等がありますが、もしアイゴを飼育していて餌を食べなくなって困っている場合も参考になる部分が幾つかあると思いますので是非読んでいただき、改善のお力添えができれば私も嬉しいです。