お節料理や料亭、寿司屋などでよく見られる高級なエビ「クルマエビ」。
そんな彼らは養殖されたりする他、小型の個体は釣り餌や大型海水魚の餌として流通しやすく、注文すれば大型の個体も活きたまま届けられる事もあります。
そして今回は、マリンアクアリウムとしてクルマエビの特徴や飼育方法、近縁種などについて皆様にご紹介させていただきます。
クルマエビは活きたまま届いた個体を飼育している方がいるほどマリンアクアリウムのエビの仲間では比較的飼育しやすいので初の飼育種として選びました。
「釣り餌なら活きたスジエビ」という方は「日淡といっしょ」の方で詳しい生態や特徴、飼育方法についてご紹介しておりますので是非閲覧してみてください。
1,有名な食用エビ!クルマエビの特徴について!
①分類
クルマエビは生物学上「十脚目クルマエビ科クルマエビ属」に分類されているエビの仲間です。
学名は「Marsupenaeus japonicus」となっており、日本にとても馴染み深い種類であり、世界的にも「日本のエビ」として知られています。
そんな彼らですが、以前は「Panaeus属」に多くの近縁種達と共に分類されていました。
しかし、最近この「Panaeus属」が「ウシエビ属」に限定されるようになったため、今の属名になったと言われています。
②生息地
学名が「日本のエビ」を示してはいますが、クルマエビの分布は広く、日本近海からインド太平洋沿岸、南アフリカ、オーストラリア北部に生息しているとされています。
また、生息分布は広がりを見せている部分もあり、地中海東部にはスエズ運河を通じて広がっているようです。
日本では波が穏やかな内湾や汽水域の砂泥の底に好んで生息しており、青森県以南の日本海沿岸や仙台湾以南の太平洋沿岸でその姿を見る事ができます。漁獲としては有明海や伊勢湾などが有名です。
また、冬になるとクルマエビは成長するにつれ、深場に移動して冬眠をする事でも知られています。
③どんな見た目?
クルマエビはエビの中でも体型がアスリートのようにスマートなので、見た目もカッコ良い種類です。
幼体だと特徴的な縞模様も薄く体色も灰色っぽくなっていますが、成体になると淡褐〜青灰色の地色にハッキリとした茶褐〜黒色の縞模様が入ります。
この縞模様にも特徴があり、頭胸甲は斜め、腹部は横に入ります。
個体によっては尾扇の白が黄色みを帯びたり、腹肢が光の当たり方によって白銀色に見える事があります。
「クルマエビ」という名前を聞いた時、一体どの辺りが車なのかと思う方もいるかも知れません。
この理由としては、クルマエビのお腹を丸めると縞模様が一体化して「車輪のように見える」ためその名が付いたと言われています。
車輪も現代の車のようなメタルな物ではなく、人力車や牛車などの車輪の事です。
④大きさはどのくらい?
野生下のクルマエビの成体は約15cmほどと言われていますが、養殖されたクルマエビの場合は栄養価の高い餌か飼育スペースによる影響なのか、25cm近くの大きさにまで育つ個体もいます。
また、クルマエビはオスよりメスの方が大きくなる種類なので、お取り寄せで手に入る18cmクラスの巨大クルマエビは全てメスと考えられます。
スズキやブリ、ボラなどは成長ごとに呼び名が変わるため「出世魚」として知られていますが、実はクルマエビも成長と共に呼び名が変わる「出世海老」となっています。
ホンエビ、マエビ、ハルエビなど様々な呼び名がありますが、出世名としては稚エビ、まだ幼く小さい個体(10cm以下)は「サイマキ(鞘巻、細巻)」「マキ」、一般的なサイズの個体は「クルマエビ」、15cmを越える大型個体は「大車」と呼ばれています。
大車もレアですが、一番小さなサイマキはクルマエビの中で最も甘味が強いとされ、獲れる時期も限られる事から高値で取り引きされています。
お節料理だと腰が曲がった姿から「長寿」を願う食材となっていますが、クルマエビの場合は長寿だけでなく「出世」を願っても良いかも知れません。
⑤何を食べているの?
野生下のクルマエビは雑食性で、藻類やゴカイ、貝類を捕食したり、小魚や動物の死骸を食べて海をキレイにする役割を持っています。
飼育下では人工飼料や魚の切り身、アサリの剥き身などを食べてくれるのであまり問題はありません。
⑥昼行性?夜行性?
クルマエビは夜行性の生き物で、昼間は砂泥に潜って眼だけを出して休んでいます。
しかし、夜になると砂から出て海底付近で餌を探すようになります。
また、彼らは比較的泳ぎが上手いため、深い場所では腹肢を使って泳いでいる事もあります。
先ほどクルマエビが夜行性である事をご紹介しましたが、夜のクルマエビは意外と見つけやすかったりします。
夜の浅瀬でライトを照らしながら歩いていると、砂の上に丸くてキラッと光を反射する何かが見えます。これこそ、クルマエビの眼です。
クルマエビの仲間の複眼は光をよく反射するため、この方法で採集する事もできます。
2,クルマエビの仲間について
クルマエビはスラッとした体型に大型な体が特徴的ですが、クルマエビ亜目には誰もが知っている小型種もいます。
また、ここではクルマエビが以前含まれていた近縁種・ウシエビの仲間についてもご紹介させていただきます。
①サクラエビ
「根鰓亜目(クルマエビ亜目)」に分類されている約4cmほどの小型種です。サクラエビ科に分類されており、長い触角に桜の花を思わせるピンク色の体色が美しいです。
干しエビや釜茹でなどに加工され重要な食用エビとなっていますが、生きたままの輸送が非常に難しい事と産卵後は2〜3ヶ月で死んでしまうという特徴から飼育・養殖が壊滅的に難しい種類としても知られています。
②バナメイエビ
クルマエビ科に分類されている近縁種で、メキシコやペルー沿岸が原産です。
年間を通して海水温20℃以上の海域にしか生息しない種類でもあり、東南アジアなどでも食用として養殖され、大きさは約23cmほどに成長します。
日本では活きたバナメイエビは珍しく、味や食感が良いためスーパーなどで「むきエビ」として販売されている事が多いです。
③コウライエビ
東シナ海や黄海などに面する朝鮮半島沿岸に生息しているクルマエビ科の近縁種で、生息地が限定的なものの漁獲量が多く安価なためクルマエビの代用品として知られています。大きさは約20cmほどです。
見た目はクルマエビに似ていますが、特徴的な模様が無く、尾だけ黒っぽくなっているので見分けは簡単です。
日本では大正時代によく漁獲されていた事から「タイショウエビ」という呼び名があり、そちらの方が有名かも知れません。
④クマエビ
日本では西日本の暖かな海に生息しており、成長すると22cmにもなる大型の近縁種です。
名前の由来は共食いをするほどの激しい気性の荒さを動物のクマに例えて名付けられたと言われています。
縞模様は薄く不明瞭で、触角に白い模様がある事、腹脚や歩脚が赤く、生きている時は白い斑点が現れる事から区別はしやすいです。
この特徴からアカアシやアシアカ、タヌキ、アカシマなどと呼ばれ食用として知られていますが、活きた状態での輸送が難しい事から希少な種類とされています。
ちなみにインドネシアなどの一部の東南アジアでは養殖もしているようです。
⑤ウシエビ
クルマエビ科の中でも最大クラスの大きさを誇り、成長すると30cm近い大きさになります。
灰褐色の体に黒く不明瞭な縞模様が入り、クルマエビより暗い印象のある体色をしているため見分けは難しくありませんが、元気いっぱいの個体には黄色い縞模様が現れる事があります。
インド太平洋やオーストラリア、西日本など広い範囲に生息していますが、日本ではウシエビという名前より「ブラックタイガー」という名称の方が有名かも知れません。
⑥フトミゾエビ
南日本やインド太平洋、オーストラリアなどの広い範囲に生息している近縁種です。
大きくなると約20cmほどに成長する食用エビで、沖縄では「セーグァー」「シルセー」と呼ばれています。
フトミゾエビの体表は滑らかで、全身が淡い黄色の体色をしているためクルマエビと間違える事は無いと思います。
沖縄のYouTuberの中には夜の採集の時にライトで照らした際に光る眼を手がかりに、網や素手で捕獲されて食べられたりもしています。
ちなみに味は甘味があって美味しいそうです。
3,クルマエビを飼育する時に注意すべき点について
クルマエビは養殖技術も確立されているため、マリンアクアリウムでも比較的飼育しやすい種類です。
しかし、気を付けて飼育していないと急に体調を崩してしまい、腰を曲げて死んでしまう事も少なくありません。
そんな彼らの飼育の注意点は以下のように挙げられます。
〜🦐クルマエビの注意ポイント🦐〜
特にエアレーションと水温、底砂はマストです。
砂に潜るタイプの生き物はクルマエビに限らずストレスを感じやすいので、状態良く飼育または餌用にキープしたいのであれば水槽に必ず砂を敷いてあげてください。
4,クルマエビの飼育方法について
①お迎え
クルマエビは極稀に甲殻類にも強いアクアショップや総合ペットショップ、通販などでお迎えできる他に地域によっては自然採集する、食用の活きクルマエビを購入するなどがあります。
しかし、漁業権などによってはクルマエビの採集やサイズの規制があるので注意が必要です。
また、YouTuberの方ではスーパーや市場などで購入したクルマエビを飼育する事が多いです。
食用活きクルマエビの場合はオガクズの詰まった箱に入っている事が多いですが、スーパーや市場などの場合はオガクズもなくパック詰めされる事があり、さらに冷やされて弱っている可能性もあるのですぐにご自宅に連れ帰ってあげてください。
ペットショップやアクアショップの場合はパッキングの際に酸素も注入しているので水温の急変に注意すればそこまで神経質にならなくても良いです。
採集した場合はクーラーボックスなどに入れ、携帯式エアレーションや酸素ブロックなどを入れて酸欠させないように注意しましょう。
A,オガクズは保湿性が高い素材なので、数日くらいであればエビが干からびるような事はありません。
よく食用の活きたエビを通販で購入すると箱の中にたっぷりとオガクズが詰まっていたりします。
一見エビの水分を吸って弱ってしまいそうですが、オガクズは高い保湿力を持った緩衝材です。
オガクズに詰める前にエビの胸あたりをしっかり湿らせる事で水分を保ち、水中でないにも関わらず生きたまま安全に運ぶ事ができます。
また、最も理に叶っていそうな海水に入れたままの輸送だと、エビの排泄物によって水質が悪化しエビが弱って死んでしまうリスクが高いです。
これらの理由からオガクズは活きエビ輸送に欠かせない素材となり、ある程度の大きさがあればクルマエビだけでなく伊勢エビの輸送にも使われています。
②水合わせ、導入
これは淡水魚とあまり変わりませんが、水槽に導入する前に必ず水合わせをする事をオススメいたします。
エビやカニなどの無脊椎動物は水質や温度の急変に敏感な一面があるため、そのまま水槽に導入してしまうとショック死する可能性があります。
ペットショップやアクアショップ、通販などで購入した場合はクルマエビが入っている袋を水槽に20〜30分ほど浮かべて水温を合わせてから水合わせをします。
水温を合わせ終わったらパッキングを開封し、中の水を1/5〜1/4捨てて同じくらいの量の水槽の水を足します。
その後20分ほど様子を見て、暴れたり脱皮しようとするなどの異常が見られなければ、この作業を袋の中の水がほぼ水槽の水になるまで繰り返します。
最後の水合わせ後も異常が見られなければ、水槽に放ってあげてください。
水槽に放たれたクルマエビは環境の変化に驚き、ライブロックの影や砂の中に潜って隠れようとします。
また、クルマエビは夜行性なので環境に慣れない限り暗くなるまでは餌を食べないので、導入当日は餌を与えるのを控えるようにした方が無難です。
オガクズの中にいた場合は水槽内の海水を少し汲み取り、その水でクルマエビの体に付いたオガクズを洗い流してから水槽に導入します。
この方法はかなりクルマエビを驚かせてしまいますが仕方ありません。
③水槽、フタ
クルマエビは養殖されており、その際は1㎡あたり30匹以上の個体が飼育されているという説があります。
しかし、養殖場は濾過力が家庭用とは桁違いなので、飼育または食べたり釣り餌用に維持するためには水槽を広くしてフィルターも濾過力が高いタイプを使う必要があります。
クルマエビをご家庭で飼育する場合は、最低でも90cm以上の水槽をオススメいたします。一匹だけ飼育する場合は60cmでも良いですが、彼らの行動力には十分な警戒が必要です。
水槽を買うとフタもセットで付いてくる事がありますが、飛び出し防止のためにも必ずフタをするようにしましょう。
④比重
マリンアクアリウムでは人工海水の素をカルキ抜きした水に混ぜて海水を作るのですが、この時「比重」がかなり重要になってきます。
比重は「比重計」で測る事ができ、主に数値が「1.021〜1,025」であれば良いとされています。
この数値が高すぎても低すぎても「浸透圧」による問題があるため、マリンアクアリウムを始めるのであれば覚えておくと楽になります。
ちなみにサンゴを育てる場合は比重が高めの方が栄養を供給しやすいという説もあります。
⑤水温
クルマエビは暖かい水温を好んでおり、22〜27℃くらいであれば飼育する事ができます。
よく無加温飼育する方もいますが、飼育部屋の温度が常に一定であり、水温の変化も少なければできない事もありません。
しかし、温度が一定にならないようであれば、オートヒーターやサーモスタット付きヒーターにヒーターカバーを装着して使い、水温を保った方が健康的に飼育できます。
⑥底砂
クルマエビの仲間達はモエビの仲間とは違い、野生下でもよく砂の中に潜っているため、できれば細かい砂を少し厚めに水槽に敷いて潜れる環境を作ってあげましょう。
淡水魚や熱帯魚の場合は底砂にソイルなどを敷きますが、マリンアクアリウムの場合は主に「サンゴ砂」を敷きます。
クルマエビの場合は砂に潜れるようにするため、粒が細かいパウダータイプが個人的にオススメです。
クルマエビやスターゲイザー、一部のフグの仲間などは砂に潜る性質があります。
このタイプは潜れる砂(隠れられる場所)がないとかなりストレスが溜まりやすく、場合によっては仲間同士で激しく争ったり早死にしてしまう事があります。
これらを防ぐためにも性質を見極め、なるべくストレスがかからないように底砂などは用意するようにしましょう。
⑦フィルター
水質を浄化したり酸素を供給する働きがある飼育器具で、マリンアクアリウムでは絶対に無くてはならない物です。
淡水熱帯魚の場合、一部の種類は空気中から酸素を取り込む「鼻上げ」をしたり、体に「ラビリンス器官」などを持つ種類がいるためエアレーションとこまめな水換えで飼育できる場合もあります。
クルマエビの場合は飼育で細かい底砂を敷く事が多いので、底面式フィルターは不向きです。しかし、それ以外であれば、水槽のサイズに合わせてどのフィルターを使っても飼育する事ができます。
水質浄化力が高い上部式フィルター、外部式フィルターもオススメですが、外掛け式フィルター、投げ込み式フィルター、パワーフィルターなどを併用して濾過力を上げる方法もあります。
資金があればオーバーフローも良いですが、夜間に泳ぎだしたクルマエビが濾過槽に落ちる事があるので注意が必要です。
⑧海藻
アクアリウムでは多種多様な水草を使いますが、マリンアクアリウムでは水草の変わりに海藻・海草を使います。
育てやすい海藻として「タカノハヅタ」「ウミブドウ」「ヘライワヅタ」があり、これらは雑食性の生き物の植物質な餌にもなってくれる他、溜まった栄養分などを吸収・分解して水質を浄化する作用があります。
飼育環境が合っていると海藻はどんどん増えるので、定期的にトリミングして水槽を覆い尽くさないようにしましょう。
⑨ライト
昼夜のメリハリをつけたり海藻を育てるために必要な飼育器具です。
淡水と海水では光の入り方などに違いがあるため「海水用」「マリン用」と表記されたライトがオススメです。
商品によっては淡水・海水両用、サンゴ育成用などもあり、マリンアクアリウムを極めたい時はライトの波長にもこだわると新たな面白味が生まれてきます。
また、ライトには蛍光管やLED、メタルハライドランプなどがありますが、電気代を少しでも抑えたいという方はLEDタイプを使うと良いでしょう。
⑩ライブロック
ライブロックは岩の表面に石灰藻や微生物などが付着した物で、飼育環境を整えたり隠れ家になったりします。
クルマエビの場合は主に砂に潜ってしまいますが、ライブロックがあるとその近くを隠れ家にする事もあります。
また、ライブロックには様々な形状があるだけでなく、多くの生物が潜んでいるためクルマエビにとっても大好物なゴカイなどが付いてくる事も珍しくありません。
思いがけない発見や飼育環境の調整のためにも、ライブロックはオススメのレイアウトアイテムです。
⑪混泳
他の種類と飼育する事を混泳、同じ種類で飼育する事を群泳と言ったりもします。
クルマエビの場合はあまり混泳される事はありませんが、種類を限定すればできない事はありません。
流石にエビが大好物なタコやイカ、ハタ、フグなどは向きませんが、小型でクルマエビに害が少ないスズメダイやチョウチョウウオ、キンチャクダイ、ハナダイなどの仲間はクルマエビと混泳させやすいです。
ただし、クルマエビが脱皮した時はイタズラしに来る可能性があるのでライブロックなどで隠れられる場所を作っておく事をオススメいたします。
アクアリウムは水槽という限られた世界に自然環境をできるだけ再現したものです。
そんな世界では自然界だと本来なら起こり得ない事も多く、混泳の組み合わせもよく考えないととんでもない落とし穴が待ち構えています。
例えばミノカサゴと小さなスズメダイです。自然界であれば捕食者であるミノカサゴやシマヒメヤマノカミに近付かないスズメダイ達ですが、水槽の中では彼らに挑み、体をつつき回して殺してしまう事があります。
また、カエルアンコウはフグに襲われる事がありますが、フグの幼魚や稚魚は丸呑みにしてしまう事も珍しくありません。
マリンアクアリウムではアクアリウムより混泳での失敗が起きやすいので、混泳を考えている方は性質や生態を考えて行うように注意しましょう。
⑫給餌
クルマエビは養殖が盛んに行われており、人工飼料にも比較的慣れやすい方です。
餌は海水魚用または甲殻類用の人工飼料、魚やエビの切り身、アサリの剥き身、ブラインシュリンプやホワイトシュリンプなどの冷凍飼料、乾燥クリル、ワカメ、アオサなどを食べます。
雑食性なので基本的に好き嫌いなく食べてくれるのは飼育維持する上でもかなりありがたいものです。
餌は1日1回、数分で食べきれる量を与えます。特にクルマエビは夜間に行動するため、餌を与える時はライトを消して10〜20分ほど時間を空けてからにすると反応が良くなります。
魚の切り身やアサリの剥き身、冷凍飼料は水を汚しやすいので、朝水槽を見た時に食べ残しを見つけたらクリーナースポイトやネットで取り除き、水質悪化を防ぐようにするとクルマエビの突然死を抑制できます。
⑬水換え、水槽掃除
飼育している匹数や水槽のサイズ、汚れ具合などによりますが、目安として1週間に1度、1/5〜1/3の量の水換えをします。
目安とはいえ少ない気がするかも知れませんが、マリンアクアリウムの水換えは相当飼育環境が崩れていない限り、水換えはこまめに少量ずつ行うのが良いとされています。
クルマエビの場合は体が大きい分小型種より丈夫で体力がありますが、水質の悪化や急変に弱く、場合によっては少しずつ体が白濁したり腰が曲がって死んでしまう事も多いので注意しながら水換えと水槽掃除を行います。
まずはヒーター以外の飼育器具の電源を切り、フタや水温計などの割れたら困る物を外して安全な場所に避難させます。
その後、水槽の壁面を掃除します。海水の場合は淡水とは違って水槽内部に赤や灰色の「石灰藻」が生えてくるため、淡水のようにスポンジを使うと石灰藻に負けて千切れたスポンジが散らばる事があります。
これを防止するため、石灰藻が生えている場合は「スクレイパー」で壁面をしっかり擦って掃除します。
石灰藻が生えていない場合はメラミンスポンジなどでコケを拭き取ってキレイにしましょう。
フィルターの掃除は揚水パイプとストレーナーがあるタイプは1度取り外し、中を専用のブラシで洗います。
また、内部にウールマットがある場合も軽くもみ洗いして目詰まりを解消し、濾過力に支障がでないようにしましょう。
一体型濾過材の場合も飼育水で軽く洗って目詰まりを解消します。これらは繊維がかなり傷んでしまったり濾過力が落ちてしまっている場合は新しい物と交換してください。
オーバーフローをしている場合もウールマットは洗いますが、プロテインスキマーに汚れが溜まっている場合は洗います。
また、プロテインスキマーは水換えや水槽掃除の日以外でもこまめに確認し、掃除する必要があります。
フィルター内部の生物濾過槽は1〜2ヶ月に1度、軽く濯ぐくらいで良いので定期的に掃除するようにしましょう。
海藻が殖えてしまった場合はハサミなどでトリミングします。クルマエビは雑食性で、お腹が減ると海藻を齧る事があるので飼育している匹数によってはトリミングの必要がない場合もあります。
トリミングをした場合は、不要な海藻はネットで掬って燃えるゴミとして処分してください。
水槽内の掃除が大体終わったら、クリーナーポンプで水ごと汚れを排出します。この時砂の中に潜って隠れているクルマエビを驚かせてしまうのも危険ですが、細かな砂に吸水口を近付け過ぎてしまうと砂を吸い込んでしまいクリーナーポンプが詰まって壊れてしまったり、クルマエビの砂を減らしすぎてしまう可能性もあるため注意が必要です。
感覚としては、筆者は底砂から5〜10cmほど離した位置から汚れをピンポイントで吸い取るようにしています。
水を抜き終わったら新しい水を作って水槽に足します。新しい水は、カルキ抜きをした水道水に人工海水の素を混ぜて水温、比重を合わせた水です。
水温を同じにするのは水を足した際に起きる水温の変化を減らすためと、海水の素の溶け具合を均一にするためです。
新しい水はカップなどを使って少しずつ足していきますが、水槽より高い位置にバケツを置ける場合は「サイフォンの原理」を利用し、エアチューブの端に重りを付けた方をバケツに入れ、もう片方の端を軽く吸って呼び水をしてから水槽に向ければ少しずつ水を足す事ができます。
水を足し終わり、外しておいた水温計とフタ、ライトを設置して飼育器具の電源を入れれば水槽掃除は完了です。
もし水槽に海水が飛び散ってしまった場合は、絞ったタオルなどで1度拭いてからガラスクリーナーを使うとキレイになります。
5,クルマエビの気を付けるべき状態について
クルマエビは大型で体力がある種類なので、マリンアクアリウムで人気が高い小型種のホワイトソックスやオトヒメエビよりは飼いやすい面があります。
しかし、水質や水温が急変したり古い餌を食べたりするとすぐに体調を崩してしまい、可愛がったり食べたりする前に死んでしまいます。
ここではそんなクルマエビの飼育で気を付けるべき状態についてご紹介させていただきます。
①脱皮不全
エビやカニなどの甲殻類やヘビなどの爬虫類などでよく見られる状態です。
甲殻類の場合は爬虫類と違って命に直結しやすいため、なるべく起こさないようにするのが唯一の方法と言えます。
脱皮不全の原因は主に3つで、1つ目はカルシウム不足。2つ目は水合わせ失敗による水質ショック。3つ目は水質の急激な悪化などによるショックです。
後者の2つは水質管理に気を遣っていれば、そうそう起きるものではありませんが、最初のカルシウム不足は餌で補う必要があります。
②共食い
クルマエビはある程度の縄張りを示すため、空腹になると共食いを始めてしまう事があります。
これもある程度の広さがある水槽での飼育としっかり餌を食べさせてあげる事で抑制する事ができます。
しかし、脱皮直後は特に仲間に襲われる可能性が高いため、砂以外の隠れ家を作って殻ができるまでの安全を確保する必要があります。
養殖場ではかなり過密飼育をしている事は以前触れていますが、これは濾過力がある事に加え、気が強い種類や共食いしやすい種類を過密状態で飼育すると縄張りを保てなくなって争いが減るという性質を利用したものです。
③腰曲がり
クルマエビは体がピーンと伸びている状態が健康であり、これで水槽内を泳いだら相当元気いっぱいです。
しかし、腰を曲げたままになっている個体は非常に危険な状態となります。
この状態は筋肉が既に硬直してしまっており、もはや手遅れの事が多いです。こうなってしまう原因として水質や環境変化によるショックや体が弱ってしまった事などが挙げられます。
エビやカニの仲間は本当にショック死が多いので、導入時は気を遣ってあげてください。
淡水、海水に限らず甲殻類は薬品や有害物質に敏感でかなり弱い一面があります。
よくあるのが「防虫剤・殺虫剤」で、部屋に現れた虫を殺そうとして設置、または噴霧してしまったら暴れるように飛び跳ねた後や少しずつ行動が鈍くなって硬直し、そのまま全滅してしまったというパターンも珍しくありません。
アクアリウムや奇蟲愛好家の中には虫が出ても絶対に飼育部屋で薬を使わせないというルールを設ける事があるほど危険な行為なのでかなり注意が必要です。
また、タバコの吸い殻や煙も危険と言われています。タバコに含まれるニコチンなどは水に溶けやすい性質があり、生物にとって非常に有害となります。
強力なフィルターがあっても有害物質を瞬時に無害化する事はできず、そのままショック死してしまう原因になるので注意しましょう。
生き物に感謝の気持ちや大切な気持ちがある方は水槽にタバコを捨てるとかはしないと思うので、筆者のお節介で終わればと思っています。
まとめ
今回はマリンアクアリウム・クルマエビの特徴や飼育方法についてご紹介させていただきました。
クルマエビは旨煮や塩焼きなどで賞味されるだけでなく、大型魚の餌としても優秀、飼育しても可愛らしいとして人気があります。
そんなクルマエビを活きた状態でキープしたい、育つ様子を見てみたいというお悩みの解決のために執筆いたしました。
アクアショップなどの通販で販売しているタイプはクルマエビの成体ではなく、まだまだ小さいサイマキの事が多いです。
サイマキは体色も灰色寄りで縞模様も薄いため地味な印象を受けますが、大切に飼育する事で黒褐色のハッキリした縞模様や白銀の輝きが増すため非常に美しくなります。
また、育て方によってはかなり大きく育つため、大車目指して育ててみるのもかなり面白いと面白います。
美しくて大きくてカッコいい、そして美味しく用途が多いクルマエビに魅せられた方は是非飼育してみてはいかがでしょうか。