釣りを開始する前に磯や河口、川などで餌となるゴカイやモエビ、ミミズなどを採集する際に、が石と砂底の下に逃げ込んだエビを捕まえようとすると「パチン」という音とともに反撃を受ける方がいます。
その正体は砂地に生息している「テッポウエビ」で、種類によっては人に怪我を負わせるほどの力を持っています。
しかし、彼らには興味深い生態があり、マリンアクアリウムでは人気があります。
今回はそんなテッポウエビの生態や特徴、その相棒でもある「共生ハゼ」についても皆様にご紹介させていただきます。
1,海中のガンマン!テッポウエビの特徴や生態について
①分類
甲殻類の一種であり、「十脚目テッポウエビ科テッポウエビ属」に分類されています。
名前の由来は数あるエビの中でも特殊な構造をした鋏脚を用いて「パチン」という音を出す事、獲物や外敵を「狙撃」する事から来ています。
海外でも「Snapping shrimp」「Pistol shrimp」「Alpheid shrimp」と呼ばれており、何かを弾く、または拳銃を持つエビとして認知されています。
②生息地について
熱帯〜温帯の暖かい海に広く分布しており、日本を含めた東アジアの海でも多くのテッポウエビが確認されています。
基本的に浅い海に生息していますが、種類によっては河口や汽水域にもおり、磯や潮溜まり、マングローブ林、珊瑚礁などの砂泥に穴を掘って生活しています。
一部の種類は海藻の繊維を細かくして編み込み、管状の巣を作ったり海綿などの中に集団生活する面白い生態を持つものもいます。
③どんな見た目をしているの?
見た目はエビの中でもザリガニに近い見た目をしており、脚には毛が生えている種類が多いですが、それ以外は滑らかでツルンとした甲殻をしています。
また、額角も短く眼が小さいため、ザリガニのような厳つさはありません。
一方で第1歩脚が鋏脚になっていますが、左右どちらか特殊構造をした巨大な鋏になっています。
これは個体によって違うため、彼らにも利き手があるのかも知れません。
テッポウエビは砂泥や石、サンゴの下などに穴を掘って巣を作りますが、狩りや餌の時間でない限りは穴堀りに精を出しているため、20cm以上の深さになる事もあります。
そんな彼らは長い触角を使って周りを確認しながら作業や狩りをしています。この触角は振動などに非常に敏感なため、少しでも異常を感じると巣穴に逃げ込んでやり過ごします。
エビの仲間は腹肢を使って水中を泳ぎますが、テッポウエビの仲間は泳ぐのが苦手なため、逃げ方も凄く滑らかなバック移動のようで面白みがあります。
その滑らかな動きは、まるで超一流ドライバーによる激難エリアへの駐車のようです。
④どのくらいの大きさ?
テッポウエビはエビの中では中型種とされていますが、多くの種類が1〜3cmほどであり、大型種類の「オニテッポウエビ」「テッポウエビ」は6〜7cmほどになります。
小型種はツルンとした丸みのあるフォルムから人気があり、マリンアクアリウムだけでなく写真集でも人気者です。
⑤どんな物を食べているの?
雑食性のエビであり、自然下では柔らかい海藻や藻などの植物質を食べたり、小魚やモエビ、ゴカイなどを捕食しています。
飼育下では何でも食べてくれる食性のおかげで人工飼料にも慣れやすく、意外と飼育しやすい種類です。
⑥どんな性格をしているの?
テッポウエビは縄張り意識が強く、基本的に1匹で暮らしています。
縄張りに別の個体が侵入すると巣穴から出てきて銃撃戦に持ち込んだり、挟み合って相手の武器を奪おうとします。
この争いは激しく、鋏脚を失うだけならまだ良いのですが、場合によってはどちらかが殺されてしまう事があるので複数匹飼育したい場合は対策が必須です。
⑦どこでお迎えできる?大体のお値段は?
テッポウエビは磯や河口、汽水域などの石の下などにある小さな穴を掘ると捕獲する事ができますが、その場合は熊手やスコップなどである程度掘る必要があります。
また、小型種は体色が美しい種類も多いため海水系にも強いアクアショップや総合ペットショップでも入荷・取り扱いされている事もあるので自然採集が難しい場合や美しい種類を楽しみたい方はそちらでお迎えするのもオススメです。
気になるお値段は種類にもよりますが、1匹あたり約2000〜4000円ほどで購入する事ができます。
⑧変わった生態
テッポウエビは仲間同士激しく争うため気性が荒いイメージを持たれやすいのですが、自然下では一部の種類がハゼの仲間と「共生」する事が知られており、飼育する時も一緒にしてあげると共生する様子を観察できます。
「共生」は互いにメリットがあり、視力が悪いテッポウエビは視力が良いハゼに周囲を警戒してもらい、敵や獲物の接近を教えてもらいます。
テッポウエビは常に触角でハゼに触れており、ハゼはそれを刺激して教えます。
そんなハゼに対してテッポウエビは、自分の巣穴を彼らの巣としても提供し、仕留めた獲物も分け合ったりするためハゼにも大きなメリットがあります。
また、テッポウエビが共生する相手は種類によって大体決まっていると言われており、ある種類に至っては「絶対にコイツじゃなきゃヤダ!」というこだわりというかメンヘラにも似た執着を見せてきます。
2,テッポウエビが危険と呼ばれる理由について
シャコやアカエイ、オニオコゼなどに比べれば危険性は低いのですが、小さいからと舐めてかかると怪我をさせられてしまう事があります。
そんなテッポウエビの武器は鋏脚に備えた「鉄砲」です。
この鋏脚は開き方で普段使いを調整しているのですが、狩りや迎撃となると大きな鋏を約90°に開き、一気に合わせる事で「パチン」という音とともに強烈な衝撃波をぶつけます。
これは小型種であれば人間に大したダメージにはなりませんが、オニテッポウエビやテッポウエビなどの大型種になると衝撃波の威力も桁違いで、当たり所によっては鋭い痛みとともに出血する事もあります。
彼らの衝撃波はシャコの攻撃時にも発生する「キャビテーション」の応用であり、超高速で鋏を閉じた事で耐えきれなかった水から泡が発生、水分子合成反応熱によって約4400℃ものプラズマ状態に達し、獲物を穿ちます。
テッポウエビが放つ銃弾は、実はただの衝撃波などではなく、高火力の小型プラズマキャノンだったのです。
このプラズマキャノンは数cm離れた所から相手を攻撃する事ができ、まともに撃たれた相手は気絶どころか衝撃による体内へのダメージにより死んでしまいます。
テッポウエビに襲われたモエビを観察してみると目立った外傷がありません。
また、このプラズマキャノンが人間に向けられる時は大体威嚇なのですが、彼らの捕獲を試みる際に素手での捕獲はナンセンスで、至近距離からの一撃は場合によっては肉を裂きます。
テッポウエビによる攻撃で怪我をした場合は、まず傷口を真水で洗って細かい砂粒などを落としてから消毒し、絆創膏などを貼って対処しましょう。
幸いにもモンハナシャコや大型シャコのパンチほどの威力は無いため、重傷になる事はほとんどありません。
3,小さくてカッコいい!テッポウエビの仲間達のご紹介!
野外観察でもマリンアクアリウムでもずっと観察しやすい種類ではありませんが、丸みのあるフォルムとせっせと穴を掘る様子が可愛らしいテッポウエビの仲間達。
ここではマリンアクアリウムで親しまれている種類と野外で出会いやすい種類についてご紹介させていただきます。
①ランドールピストルシュリンプ
「コトブキテッポウエビ」の和名がある、体色も相まっておめでたい感じがする種類です。大きく育てば約4cmほどになりますが、大体1〜2cmほどの個体がショップで取り扱われています。
体色は透明感のある乳白色の体に白と赤の模様が交互に入り、山吹色の触角が可愛らしいです。
小型種なので人間に対する攻撃力はありませんが、それでも威嚇射撃すると水槽からハッキリと音が聞こえます。
共生するタイプなのでマリンアクアリウムでも共生相手のハゼと一緒に飼育されたり、ダイビングなどでハゼと一緒にいるところをよく撮影されています。
②ニシキテッポウエビ
成長すると6cmほどの大きさになる大型種です。その分共生するハゼもランドールピストルシュリンプの共生相手より大きくなっています。
体色は白地に朱色や赤色が揺れる水面のように不規則な網状に入り、美しいです。触角は濃赤色です。
海外では「タイガーピストルシュリンプ」と呼ばれています。
③コシジロテッポウエビ
落ち着いた黄色の体色に、頭胸部の付け根や腰部分に白いスポット模様がある可愛らしい種類です。成長しても4cmほどしかありません。
こちらも共生するタイプなので、ハゼの仲間と飼育すると巣穴から顔だけ出してこちらを見ている事があります。
マリンアクアリウムでは知る人ぞ知る種類で前2種ほどの派手さはありませんが、チョコチョコと動き回る様子が愛されています。実は日本でも観察する事ができます。
④ヒノマルテッポウエビ
いかにも「日本」を感じさせるネーミングの種類です。夕陽を思わせる鮮やかなオレンジ色に鋏脚の付け根は紫色、腹部には濃赤色の日の丸が入ります。
成長すると約5cmくらいですが、謎も多く共生するかも不明な種類でもあります。
⑤カリビアンピストルシュリンプ
名前の通りカリブ海からやってきた美しい種類で、成長すると6cmほどになります。
鮮やかなオレンジの体色に頭部から背中と脇腹に淡いオレンジ色のラインが入り、かなり派手です。この配色は今では飼育できない「メキシカンドワーフクレイフィッシュ」に似ており、飼育欲をそそってきます。
こちらも現段階では共生するタイプかは不明とされているため、混泳には注意が必要です。
⑥ブドウテッポウエビ
謎が多い珍しい種類であり、最大全長は不明ですが、ショップでは3〜4cmほどの大きさの個体が取り扱われている事が多いです。
体色は透明感のある乳白色に赤と黄色のドット模様が規則正しく並びます。ブドウ要素がイマイチ分からないのはご愛嬌と言ったところです。
海外では「ダンスゴビーピストルシュリンプ」と呼ばれており、「オドリハゼ」という種類としか共生NGなメンヘラ系でもあります。
筆者も一度レイアウト変更の兼ね合いで2匹を離ればなれにしてしまった事があるのですが、「奪うな!」と言わんばかりに発砲されまくりました。
⑦オニテッポウエビ
5cmを越える事もある大型のテッポウエビの仲間であり、白地に砂色の体色、頭胸部の後半は白い縞模様が入ります。
狙撃用の鋏脚は今まで紹介した種類より巨大化しているだけでなく、もう片方も大きく切断力に優れた形状をしているため戦闘能力が高くなっており「リアル鬼」となっています。共生しないタイプです。
日本でも観察でき、クルマエビを漁獲する時に一緒に捕まる事もあります。
4,一緒にいる姿が癒される!共生ハゼのご紹介!
「共生ハゼ」とはその名の通り、別の生き物と力を合わせて生きているハゼの事を指します。
サンゴの仲間と共生したり、「クリーナー」としての働きもする事で生存率を上げている種類もいます。
ここではテッポウエビと共生するハゼの仲間についてご紹介させていただきます。
①ヤノダテハゼ
最大9cm近く成長する共生ハゼの仲間です。白地に赤褐色のバンド模様が美しい種類で、主にランドールピストルシュリンプやコシジロテッポウエビと共生します。
縄張り意識が強いのでペア以外では他の種類の共生ハゼとは飼育できません。
②ギンガハゼ
基本的には暗めの砂色に水色がかったドット模様が入る種類ですが、全身鮮やかな黄色い水色のドット模様という個体もおり、そちらの方が人気が高いです。
主にニシキテッポウエビと共生しており、成長すると8cmほどの大きさになります。
③クビアカハゼ
マリンアクアリウムでは昔から共生ハゼとして有名な種類で、成長すると8cmほどになります。
乳白色の体にクリーム色と赤紫色のバンドが交互に入り、頭部には赤いドット模様が入ります。
多くのテッポウエビと共生できる種類でもあり、そのコミュ力の高さから、共生に悩んだら取り敢えず本種を入れておけば何とかなる事もあります。
④オーロラゴビー
ヤノダテハゼより大きめで10cmほどに成長する共生ハゼの仲間です。
乳白色の体に滲むようにサーモンピンクのバンド模様、尾ビレにも赤いスポットが入るため、より派手な体色になっています。
ランドールピストルシュリンプやニシキテッポウエビとも共生し、鮮やかな体色のコンビで水槽を賑やかにしてくれます。
⑤ヒレナガネジリンボウ
名前の通り第一背ビレの一部がピョロンと伸びている共生ハゼの仲間です。
ネジリンボウの場合は背ビレのピョロンが無い事で見分けられます。
黄色い顔に乳白色の体、茶褐色のバンドが斜めに複数入り、それを挟むように白銀の細いラインが入り、美しくて人気の高い種類でもあります。
成長しても7cm前後と小型で、ランドールピストルシュリンプなどの小型種と共生します。
⑥ヤシャハゼ
共生ハゼの中でも派手な体色から人気が高い種類で、各ヒレは黄色、白地に鮮やかな赤色の細かな縞模様が目を惹きます。
また、成長しても約6cmほどしかありませんが、第一背ビレの一部が白く、体と同じくらいの長さまで伸びるため優雅な印象も受けます。
主にランドールピストルシュリンプと共生しており、ダイビングでもその様子を観察する事ができます。
⑦ニチリンダテハゼ
成長すると10cm近く成長する種類であり、上品な色彩が魅力です。
乳白色の体色にオレンジ色の細いバンドがいくつも入り、大きく開く第一背ビレには砂色の複雑な虫食い模様と名前の由来になった茶褐色のスポットがあります。
ニシキテッポウエビなどと共生しており、ペアで巣穴を警戒したり背ビレをいっぱいに広げている姿は勇ましくも見えます。
⑧オドリハゼ
ハゼというよりは小さなハタの仲間に見え、大きさも4cmほどしかありません。
ダイビングでは比較的観察しやすいのですが、マリンアクアリウムでは稀少種とされています。体色は黒地に白のスポット、頭部の上部分が白く染まっています。
胸ビレが大きく、ホバリングや独特な泳ぎ方の様子が「踊っている」ように見えるためこの名前が付けられました。
テッポウエビ界のメンヘラ、ブドウテッポウエビが唯一共生を認める種類です。
ヒレナガネジリンボウやヤシャハゼなどの共生ハゼとテッポウエビの関係性は結構しっかりしており、どちらも自らの役目を果たしながら仲良く生活しています。
しかし、それとは別に「ハナハゼ」の仲間がテッポウエビの巣穴に住み着く事があります。
一時期は「居候」と呼ばれた彼らですが、高い遊泳力を活かしてヤノダテハゼなどより高い位置から周囲を警戒するため敵に襲われる可能性も低くなります。
テッポウエビの巣穴は気が合う仲間達とのシェアハウスでもあるのです。
砂地を深く掘って作るテッポウエビの巣ですが、テッポウエビ1匹に対してハゼが1〜2匹同居している事があります。
この同居魚のハゼはペアでテッポウエビの巣穴に住み込む事があり、運が良いと2匹で役割分担をしながら周囲を警戒している姿を観察する事ができますし、ショップでも稀に共生ハゼのペアが入荷する事もあります。
ペアが同居している間はハナハゼの仲間が同居する事は少ないですが、巣穴が広いと極稀に心が広いペアが同居を許す事もあります。
人間で言う「ルームシェアリング」なのかも知れませんが、熱々なカップルを前に気まずい空気は流れないのかが気になる所です。
5,テッポウエビと共生ハゼの飼育で注意すべき点について
テッポウエビ単体で飼育する方は珍しく、基本的に共生ハゼとのセットで飼育する事がほとんどです。
その様子はとても可愛らしいのですが、ある事がキッカケで体調や共生が崩壊してしまう事があります。
〜共生組の注意点について〜
- 底砂を厚めに敷くこと。
- フタは必ず設置すること。
- 両者ともに水質悪化に弱いため、濾過はしっかりすること。
- 長い間共生ハゼとテッポウエビを離ればなれにさせないこと。
これらが主に挙げられます。水質が悪化すると病気が起きやすくなり、テッポウエビが穴の中で知らない内に死んでしまう事もあるので注意が必要です。
6,テッポウエビと共生ハゼの飼育方法について
①お迎え
この共生組は自然採集は難しく、捕まえる場合は巣穴をスコップなどで掘り、プラケースや目の細かいネットで捕獲する必要があります。
ショップであれば、海水にも力を入れているアクアショップや総合ペットショップであれば入荷している事も多く、通販でも見つけやすいです。
ショップでお迎えする時はすでに共生相手を見つけており、セットになっている事もあるため共生ハゼを何にするか決めてない場合はそちらがオススメです。
テッポウエビだけお迎えする場合は体が白濁していないか、体が変に固まっていないかなどを見ますが、共生ハゼもお迎えする場合もしっかり健康チェックをします。
ヒレが不自然に避けてないか、体表に付着物があったり赤く爛れていないかなどを見て、特に問題が見られなければ店員さんにお願いしてパッキングしてもらいましょう。
②水合わせ、導入
早速ご自宅の水槽に彼らを入れたくなるかも知れませんが、まずは水温合わせをするために梱包したまま水槽に20分ほど浮かべます。
水温が合わせ終わったら開封し、中の水を1/6〜1/5捨て、同じくらいの量の水槽の水を足して20〜30分ほど様子を見ます。
異常が見られなければ、梱包内の水がほぼ水槽の水になるまでこの行程を繰り返し、水に慣らしていきましょう。
最後の水合わせ後も特に異常がなければ、彼らを水槽に解き放ちます。
環境が変わった事で、テッポウエビと共生ハゼはそれぞれライブロックなどの影に隠れてしまいますが、少しずつ姿を見せてくれる事もあります。
しかし、緊張している状態なので導入直後は給餌をせず、翌日から餌を与えるようにしてください。
また、導入日でも気に入った場所が見つかればテッポウエビは穴掘りを始めるので、興味深い最初の行動を観察する事ができます。
③水槽、フタ
テッポウエビだけを飼育、または小型種同士の共生の場合は30cmキューブや45cm水槽でも飼育する事ができます。
しかし、穴を掘って暮らす彼らのために底砂を厚く敷く必要があるため、あえて高さのある水槽もオススメです。
60cmスリム水槽などの場合は観賞魚用の仕切り板をしっかり砂の中まで設置する事で水流の流れがある「個室」を擬似的に作り出す事ができるため、飼育する種類と仕切る範囲によっては1つの水槽で3組の共生組の飼育を狙う事もできます。
フタについてですが、テッポウエビは飛び出す事はほとんどありませんが、ハゼは驚くと飛び出しやすいのでフタは必ず設置するようにしてください。
④水温、比重
水温は22〜24℃くらいあれば、共生組を飼育するには十分です。
ただし、水温の急変は彼らの体にダメージを与えてしまうのでオートヒーターやサーモスタット付きヒーターを設置して温度を一定に保ち、水温計も見やすい所に設置して確認しやすくすると良いでしょう。
比重は1,020〜1,023ぐらいであれば飼育に問題は無いので、比重計で計りながら飼育海水を作ってください。
⑤底砂
底砂は種類自体は水質を酸性に傾ける物でなければ飼育に使う事ができます。「大磯砂」や「コーラルカルシウムサンド」「サンゴ砂」などがメジャーです。
テッポウエビは穴を掘りますが、パウダータイプの物だと巣穴がすぐに崩れてしまうため飼育に適していません。
粗めと細かめの砂を混ぜて敷き詰めるとテッポウエビが掘りやすくなるのでオススメです。
底砂の厚さですが、最低でも7cmくらいはあった方が良く、浅すぎると共生ハゼの種類によっては体が入りきらない事もあります。
高さのある水槽を使う場合は10cm以上敷いてあげるとせっせと穴を掘る姿や回りを警戒する様子を観察しやすくなります。
A,砂に隠れるチンアナゴなどの種類が好んでいます。
そのためマリンアクアリウムではパウダー系のサンゴ砂が適しているのかと思うかも知れませんが、意外とそうでもありません。
以前ご紹介したヤドカリの場合は底砂が細か過ぎると足場にならないため、ひっくり返ってしまうと復帰が難しくなってしまいますし、テッポウエビの場合は巣穴が掘りにくくなってしまいます。
そんなパウダー状のサンゴ砂を好む種類はチンアナゴやカレイ、ベントス食性の生き物です。
「アカハチハゼ」などの頭部が大きい種類は、ベントス食性という砂の中の細かい有機物をエラで濾して食べる変わった性質を持つものもいるため、餌を食べやすくするためにパウダータイプを使う方もいます。
また、甲殻類ではクルマエビは砂に潜るためパウダータイプも好んでいますし、ヤドカリより脚が長くて姿勢が安定している「キャメルシュリンプ」や「アカシマシラヒゲモエビ」などもパウダータイプを使う事ができます。
⑥フィルター
濾過力が水槽の規定に合っていればどのフィルターでも飼育に使う事ができます。
また、小型水槽やスリル水槽での飼育の場合は外掛け式フィルターやパワーフィルター、底面式フィルターも設置が簡単で扱いやすいです。
この共生組は水質の悪化には弱い面があるので、できれば「マメスキマー」などの小型プロテインスキマーも使って水中の余分な有機物を取り除くようにすると水質をキレイな状態で保ちやすくなります。
⑦レイアウト
ライブロックや海藻、サンゴなどを配置して自分だけの世界を表現しましょう。
テッポウエビはライブロックやサンゴの下に巣穴を作るため、慣れてくれば配置の仕方によって巣穴を作る場所をある程度コントロールする事もできます。
ライブロック以外ではエビ土管やハゼ土管などを底砂に斜めに差し込むと起点として使う事がある他、共生ハゼが使う事もあります。
⑧ライト
昼夜のメリハリをつけたり、海藻やサンゴを状態良く育てるために必要なアイテムです。
海藻やサンゴの種類によって好む光の波長や明るさは違うため、それに合わせて選ぶようにしましょう。
A,本当です。
全ての魚で起きる訳ではありませんが、ライトの光によって日焼けのように体色が黒ずんでしまう事があります。
病気や怪我のように深刻なダメージはありませんが、魚の体色も楽しむアクアリウムにおいて歓迎される事はほとんどありません。
オモに深場や穴の中で暮らしている種類に起きやすく、沖縄の高級魚・アカジンも浅い場所で漁獲される個体は黒ずんだ体色をしている事もあります。
また、「ハナスズキ」の仲間も深場に生息している種類であり、「キャンディーバスレット」や「オレンジストライプバスレット」なども体色が焼けやすいため美しさをキープするためにはライトの明るさや色、波長などにこだわる必要があると言えます。
⑨育てやすいサンゴ、海藻
マリンアクアリウムを始めるにあたってサンゴや海藻も配置してみたいという方も少なくありません。
今回皆様にご紹介しているテッポウエビと共生ハゼはサンゴにイタズラをせず、海藻へのダメージも少ないためレイアウトしやすい種類とも言えます。
海藻の場合は「タカノハヅタ」や「ヘライワヅタ」などが育てやすく、サンゴの場合は「スターポリプ」や「チガイウミアザミ」「マメスナギンチャク」などの「ソフトコーラル(しっかりとした骨格を持たないサンゴ)」が初心者にも飼育しやすい種類です。
海藻や前述したソフトコーラルは、調子が良いとどんどん成長し殖えていくためトリミングをして量を朝する必要があります。特にソフトコーラルは「共肉」をカット、固定するためのメスやプラグも販売されています。
⑩混泳
テッポウエビと共生ハゼのセット自体が混泳ですが、彼らに攻撃せず上層を泳ぐ種類であれば比較的他種との混泳も狙う事ができます。
「ネオンテンジクダイ」や「イトヒキテンジクダイ」「キンセンイシモチ」「マルガリータカージナル」などの小型種は群れでテッポウエビ達の頭上を泳ぎ、あまり底の方に来ず体色も美しい種類が多いのでオススメです。
水槽の項目で少し触れましたが、ハゼやテッポウエビが抜けられない大きさの穴が開いた仕切り板で仕切る事で水槽に個室を作って複数のテッポウエビと共生ハゼを飼育する事もできます。
また、飼育難易度は高いですがタツノオトシゴやヨウジウオの仲間もイタズラする事がほとんど無いため混泳させる事ができます。
一方で混泳に向いていない種類はタコやイカなどの軟体動物で、人気が高いハナイカや小型タコは共生組を積極的に捕食する他、キンチャクフグやハギ、ハタ、カエルアンコウなども混泳はNGです。
混泳が絶対ダメという訳ではありませんが、ヤドカリも種類や大きさによってはテッポウエビの巣穴に入ろうとする事があり、彼らの安心を傷付けてしまう事があるので注意しましょう。
A,再生、再形成されるので安心してください。
脱皮不全や侵入者との激しい戦いの末に、テッポウエビの武器となる鋏脚が取れてしまう事があります。
こうなると餌問題を気にする方もいらっしゃるのですが、テッポウエビの大きな鋏脚は主に「威嚇と獲物の捕獲」のための物なので、失うと小さな鋏脚でも食べられる餌を探して食べるようになります。
また、大きな鋏脚を失うと残った片方の鋏脚が巨大化し、鉄砲として再構築されるため大切に飼育すれば大事に至る事はないので安心して飼育してください。
⑪給餌
幸いな事にテッポウエビと共生ハゼはどちらも人工飼料に慣れやすいため、餌問題で悩む事は少ないです。
海水魚用の人工飼料や冷凍ホワイトシュリンプ、ブラインシュリンプ、クリルなどを与えると巣穴に持っていって食べてくれます。
共生ハゼも自ら水面に来て餌を食べてくれる事もあります。
ピンセットで挟んで与えるとパチンと発砲して取りに来る「擬似的な狩り」を観察する事もできます。
もちろん生き餌にも反応は良く、生きたモエビやスジエビを与えると巣穴から出てきて狙撃、仕留めた獲物を巣穴にお持ち帰りします。
給餌の大体の目安は1〜2日に1〜2回、数分で食べきれる量を与えます。共生ハゼはお腹を観察して少しふっくらしたのを確認できたら十分です。
一方テッポウエビですが、巣穴の中で餌を食べた後、食べ残しや残骸を巣穴の外に律儀に捨てに来てくれるのでクリーナースポイトで回収してあげましょう。
7,テッポウエビと共生ハゼがかかりやすい病気と治療方法について
このタッグは水質さえ気を付ければ意外と病気になりにくいという丈夫さもあるのですが、飼育環境が悪化すると体調を崩し、知らぬ間に死んでしまっている事があります。
特にマリンアクアリウムで発生する病気は淡水のアクアリウムと違い治療が難しい傾向にあるため発生させないように努めなくてはいけない大変さがあります。
ここでは彼らが陥る、またはかかりやすい病気と治療方法についてご紹介させていただきます。
①脱皮不全
テッポウエビなどの甲殻類が陥りやすい症状で、鋏脚が取れてしまったり脚の関節がおかしくなる他、酷い場合は上手く脱げずに死んでしまう事も珍しくありません。
水質の悪化や急変などで上手く脱げなくなったり、ショックから無理矢理脱いでしまう事もありますが、稀にカルシウム不足で殻の形成に問題が生じる事もあります。
予防方法として水質を維持する事、定期的な水換えをする事と、カルシウム不足を補うために乾燥エビ、ホワイトシュリンプ、甲殻類用の人工飼料を与えるのも効果があります。
②白点病
淡水のアクアリウムでは初期段階で対処できれば治療しやすい病気ですが、マリンアクアリウムでは最も警戒すべき病気となります。
症状は体表なヒレに白点が現れるのですが、淡水のものより細かいです。
この白点は体表を移動し、数日で眼が白濁してしまうほど症状の進行が早く、病魚は体を震わせたり岩に体を擦り付けるようになります。
マリンアクアリウムで白点病が発生した場合は病魚の薬浴だけでは解決できないため、水槽のリセットが必要になります。
治療方法ですが、初期症状であればカルキ抜きした淡水に短時間浸けて浸透圧の急激な変化を利用した「淡水浴」を行います。
淡水浴をさせる場合は淡水にphコンディショナーを使ってphを上げると小型魚にもダメージは多少抑えられます。
薬浴をする場合もありますが、マラカイトグリーンやグリーンFゴールドでは利き目が少し薄くなります。
そのため市販の白点病治療薬を使います。「白点駆除剤」と記載されているので見つけやすいです。
これを規定量入れて治療するのですが、テッポウエビやサンゴにはよろしくないので必ず彼らを隔離してください。
また、慣れている方は「銅イオン」を使うのですが、銅イオンは濃度が高いと薬浴する個体が死んでしまうため「銅イオンテスター」を使って濃度を計り、0.5PPMになるように調節します。
銅イオン5gに対して50Lの海水を混ぜると大体0.5PPMになります。
この海水で病魚を飼育すると白点病を治療する事ができますが、それまでに水槽のリセットをし、対策を取る必要もあります。
白点病の予防として「殺菌灯」などを使うと水質の急変や飼育環境の崩壊でもない限りは効果があるのでオススメです。
③別居
稀にですが、ついさっきまで共生していたテッポウエビとハゼが同居を解消してしまう事があります。
理由は諸説あり、同居できる巣穴を確保できなかった事や、病気の治療などである程度の期間離ればなれで飼育していると共生しなくなる事があります。
また、ショップで同居している状態の彼らを購入した際に個別で梱包され、水槽に放したら同居しなくなったという話もあります。
どちらにせよ彼らにとって「同居をする必要がなくなった」という事です。
そのまま飼育してもどちらかが捕食されてしまうというケースは少ないのですが、再び同居させたい場合は飼育環境またはレイアウトを改善してみてください。
特に底砂の厚さがない、粒が細かすぎるなどはテッポウエビも巣穴を掘らなくなるので改善点となります。
また、起点を作らずとも巣穴を掘れるメンタルの個体もいますが、逆に起点が無いと掘る場所に悩む個体もいるため小さい物で良いのでライブロックを数個配置するのも効果があります。
それでも同居しない場合は無理強いをせず、大切に飼育しながら彼らを暖かく見守ってあげてください。同居は彼らの気分次第な面もあるため、急に同居を再開する事もあります。
まとめ
今回は危険だけど可愛いガンマン・テッポウエビと、彼らの相棒である共生ハゼについて皆様にご紹介させていただきました。
磯採集やダイビングなどで観察できる生き物ですが、マリンアクアリウムでも興味深い生態や美しい体色から人気があります。
また、底砂を厚く敷いてキレイな水質を維持する事できればどちらも比較的丈夫で飼育しやすいです。
彼らの愛好家の方は、水槽に仕切り板を入れて「ハゼマンション」として複数のペアを飼育している事もあります。
テッポウエビの全ての種類が共生するタイプではありませんが、単独で生活するタイプは体も大きく体色も美しく目立つ種類が多いため「孤高な狩人」をお求めの方には共生しないタイプはオススメです。
また、共生タイプは巣穴からハゼと一緒に顔を覗かせてみたり、大きな鋏脚を器用に使ってブルドーザーのように穴を掘る姿や共生ハゼの体をキレイにする行動も見られるため、とても慈愛に満ちています。
テッポウエビという興味深さとちょっとの危険な香りがする種類と、健気に巣穴を警戒する共生ハゼの可愛さが気になる方は、是非マリンアクアリウムを始める際にお迎えしてみてはいかがでしょうか。