浜名湖に”幻のカニ”がいることをご存じですか?
ウナギ、スッポンときて、次はカニです! それはドウマンガニ(地域名)と呼ばれており、次の地域ブランドになってもらうべく、地理的表示(GI)保護制度に登録申請する、とのニュースを見かけました。
「GI制度ってなんぞや──? 認められるメリットはあるのか?」
と疑問を抱いたので、ちょろっと調べてみました。
幻の蟹|浜名湖に居るドウマンガニってどんなカニ?
浜名湖で幻の蟹とも呼ばれる「ドウマンガニ」は、地域固有の名前です。
和名は「(トゲ)ノコギリガザミ」。
マングローブのような汽水域の”森”に生息しており、国内では他に沖縄にも多く生息しています。
ドウマンガニは”幻”と呼ばれるだけあって、おうな様とスッポンの2大巨塔と比べれば多くはない。
個体数が多いわけでもないし、生息範囲も限られるため、ガチで捕まえるとマッハで絶滅に瀕してしまいます。なのでスーパーに並ぶことはなく、個人商店の取扱がメインのため、知名度はかなり低いです。
浜名漁協がドウマンガニをGI制度に申請へ
今記事の主題である”GI制度”とは、「地理的表示(GI)保護制度」のことをいいます。GIは「Geographical Indication」の略で、直訳すると”地理表示まま”ですね。
GI制度を簡単にいうと「地域ブランドとして認める制度」のこと。
静岡県で登録されているGIブランドを挙げると、「三島馬鈴薯」「田子の浦しらす」のふたつが登録されています。「浜名湖ドウマンガニ」の登録が認められると、県内3例目になりますね。
では「これに登録されるメリットはなんなの?」を説明していきましょう。
GIは農林水産物を知的財産権によって保護する制度
冬季五輪でもぐもぐした韓国の盗作イチゴが、もぐもぐタイムの末で話題となったことは、記憶に新しいかと。
農林水産物を法で保護するためには、ややこしい障害があります。その理由は「生産者が手助けこそするが、自生しているようなものだろう? なら皆の物でよくなくない?」──て考えがあるから。ようは”特許として”が認められにくい点。
たとえ盗まれたと断定できても、自国で特許や商標申請をしていない限り、他国間で罰するのは難しい。著作権は万国共通の国際法ですが、それと同じ抑止力を持つ法が動植物にほとんどないんですね。
農林水産物は、品種改良によって新しく産まれた種は、特許権に育成者権などの知的財産権が発動します。販売には商標登録も。ただし特許と同じく、申請して認められないと意味がありません。
地域ブランドを丸ごと法律で守るためには、農協やら漁協の団体など、地域を総動員した生産者全員まとめて登録する必要があります。他者の介入を防いで保護も兼ねる……、これが地理的表示保護制度の狙い。
地域ブランドとそうでない物の違い
ノコギリガザミは確かに個体が少ない貴重なカニさんですが、浜名湖だけに生息しているわけではなく、高知と沖縄も漁を行っていますし、オンリーワンな存在ではありません。違うのは”市場価値”ですね。
すでにGI登録されている「田子の浦しらす」と、そうではない「遠州灘のしらす」──、同じ魚なのに何が違うのか。それは質の差です。
駿河湾のしらすは、漁法から出荷までの工程が「生しらす」を前提に設備が整っており、生と冷凍での全国配送はこちらが有名。一方遠州灘海域のしらすは、水揚げは日本トップクラスですが、地産地消がメインで全国配送が少なく、広域の知名度はわりと低いです。
遠州灘のしらすに関わる人で「納得いかん!」って人は、地理的表示の「田子の浦しらす」の項目をご覧になってください。
品種は同じだから、味だけで違いはわかりにくい。でも地域を証明することで安心感はあるし、生産者たちのホスピタリティが付加価値を見出し、一つの地域ブランドとして作り上げた──。
そこに横槍を入れるのが産地偽装です。
GI制度で産地偽装からブランドを守れ!
農林水産物の産地偽装が絶えないのは、品種が同じなら素人に違いなんてそうそう判別できない点にあります。安い品種でもブランド価格でチョロく稼げるから、ともいう。
偽装を罰する法律はもちろんあります。しかし、よほど雑か内部リークがない限り、見破ることが難しい……。
GI制度は農林水産省の認可が必要です。いわば”政府の後ろ盾がある生産品”になるため、これに登録されると、認められた規定を満たさない限り、その商標を扱った出荷や販売が認められません。その結果、ブランド品の保護に繋がります。知的財産権も含まれるので、より強固な庇護を受けられます。
登録できれば国が守ってくれるし、法律も守ってくれる。そのためメリットは大きい。
乱立する地域ブランドを厳選させる狙いもありそう
ふるさと納税で「地域特産」を扱う自治体も多かったですね。まあもともと、地域ブランド自体の定義が曖昧だったので、好き放題できる背景もありました。
GI制度による地域ブランドが認知されたのなら、消費者にとっても安心安全を選びやすくなるのではないだろうか。現在登録されている地理的表示の特産品情報は、政府が管理するサイトで確認することができます。
2018年4月時点で登録されているのは「38品目」。
これから増えていくでしょうけど、乱立しすぎて制度自体が曖昧になってしまう恐れもあります。そうなれば和食みたいに、「無形文化財」としてランクアップしていくかもしれないですね。
GI制度を知るためのリンク集
今回の記事を作成するにあたり、以下のサイトを参考にしました。この場を借りてお礼申し上げます。