海から魚が減ったのは、海が綺麗なりすぎたから?

SDGsの目標に、「海の豊かさを守ろう!」があります。

1970年代からの高度成長期は、浄化設備がないのに排水を垂れ流していた結果、あらゆる水域が汚染され、生物が棲めない環境に達したほど。歴史はそれを過ちを認め、現在は浄化した綺麗な水のみが排水されるようになり、日本近海の水質はその時代よりも、遥かに綺麗になりました。

それは確かに”良い事”ですが、予想外の弊害が発生しています。それは微生物も生息できないほど”綺麗すぎる”環境になってしまったこと──。

スポンサーリンク

人間の排水が無栄養すぎて微生物のエサが足りなくなった

今回の話にゴミ問題はあまり関係はありません

自然界は「食物連鎖」によって、生命が持ちつ持たれつの関係で支え合っています。海中も同じく、目視が難しいプランクトンが存在しており、それを貝類や小魚が食べて成長する。肉食以上の存在は、それらを食べて生活しており、糞はプランクトンや海藻類のエサになっています。

高度経済成長期以前は、人間の生活排泄は全て川や海に流れ、微生物たちがエサのついでに分解して、ギリギリの状況を保っていました。つまり、工業が発達するまでなら、人間と自然はちょうど良い関係だったわけです(ギリギリですが)。

やがて人間が増えていき、工業が隆盛していくにつれ、環境悪化が目立つようになりました。人間が水を汚したことで、水生生物が毒を持つことになり、食害が増えることに。大気は有害物質で汚染され、雨は土壌と水質を酸性に変え、生物が棲みにくくなっていきます……。

ここまでは社会で学ぶ「失敗の歴史」であります。歴史は”同じ過ちを犯さないように”と、未来を担う子供たちに教訓を植え付けてくれる学問です。

──現在は「失敗を塗り替えした時代」にある。下水は浄化設備で飲料水レベルまで浄化され、事業用水や自然に還されています。それは”無菌の水”といえますが、無菌の水が自然界に存在するのはほぼありえません

よかれと思ってやっているのに、自然にとっては異物を放出しているようなもの。そのツケが真っ先に訪れたのが、瀬戸内海の養殖業でした。

海の貧栄養化で養殖の牡蠣が育ちにくくなった?

高度経済成長期は栄養素が多すぎて「富栄養化」の状態でした。食べ放題で限界に食べている状態で、無理やり詰め込まれるようなものです。どう考えても体調を崩しますよね。

海の浄化は貝類と藻類が行っています。広島の牡蠣に潮干狩りで有名な地点は、汚染がひどくなる以前は栄養を十分に蓄えており、身が大きく食味も良かった。だから味で有名になれた背景があります。

現在は栄養素が全くない排水をしているため、海は「貧栄養化」の状態にあります。人の生活に近いほど傾向が強く、沿岸の生物達は無理やり断食させられているようなものです。

ここで一読してもらいたい資料がふたつあります。

【レポート】瀬戸内海の貧栄養化について(再考)

【資料】大阪湾でも栄養が不足している

海苔や牡蠣を生産する沿岸の養殖業は、ある時期を境に「昔より育ちにくくなった」「品質が悪くなった」と不思議に感じはじめました。近年は温暖化で水温が上昇した影響もあり、その原因も気候変動のせいだろう──と思われていました。

が、「貧栄養化によるエサ不足が根本的な原因ではないか?」との意見も表れます。

10年くらい続けているアングラーなら感じているかもしれません。始めた頃より、海が綺麗になったなぁと。それは私も感じています。一方で、昔より魚を見なくなったなぁとも感じます。

貧栄養化が進むのは河川の流入量が減っているから

川は海にミネラル分を運ぶ、重要な栄養源であります。

しかし、ダムや治水事業により、多くの河川は水量がかなり減っています。その影響で海に運ばれる栄養素も減っており、汽水域は昔より格段に減ることになりました。それは浜名湖も同様です。

2019年の台風による大雨被害でわかるように、流域で人が暮らすためには、ダム整備と治水事業を欠かすことは出来ません。確かに自然は破壊されますが、人の命に変えられない……。それが我々が棲む社会の”決まりごと”であります

水の科学「海水と河川の循環」 水大事典 サントリーのエコ活 サントリー
地球を循環する水には海水、河川水、地下水、雨水など様々な形態があります。それぞれの特徴をもち、それぞれの役割を果たし、人間や生き物はその恩恵を受けながら暮らしています。大切な水を守り育て、多くの人々に水の恵みと、からだと心の潤いをお届けしたい。水と生きる SUNTORY

日本でこれ以上人が暮らすためには、高層賃貸を当たり前にするか、山や田畑を崩して平地を増やすか、海を埋め立てるかの選択くらいしかありません。

成長を続けたいのが経済の常であり、誰もが目指す目標であります。

ただその代わり、物を言えぬ自然が犠牲になっていくのも事実……。

「どうです? ここらで成長を止めてみない? 今でも十分飯は食えるだろう?」と、成長し続ける戦略に疑問を持ち始めた経済学者も出てくる時代。今すべきことは何なのか。人類皆平等を目指すためには、最適な生活環境を世界に広めることではないでしょうか。

スポンサーリンク

釣り人も無視できない海が綺麗すぎる問題

今記事で言いたいのは、「陸っぱりアングラーほど見過ごせない問題」なこと。

陸っぱりアングラーは沿岸で釣りをするため、貧栄養化で魚たちが居なくなると、魚釣りが成立しなくなってしまいます。それはすぐ訪れるわけじゃありませんが、このまま続くと、近い未来に直面する問題です。現状でもかなり減っていますし、体感しているアングラーも多いかと存じます。

それは経済にとっても痛手で、海のレジャー全体が貧弱になってしまう恐れもあります。

ダイビングしても魚が居なければ、面白味は半減するでしょう。あらゆる生物がいない砂漠のような世界を見たところで、人間の過ちに憤るくらいですし、楽しさとは無縁のレジャーになります。水族館の運営も難しくなりますし、水生生物を見たければ、離島に行くか浮上施設のみって未来もありえる。

その問題を解決する策として、意図的に栄養を海に送る取り組みが、瀬戸内海で実験されています。

瀬戸内海の貧栄養分布
http://www.jfa.maff.go.jp/j/koho/pr/pamph/pdf/eiyoushiokanri.pdf

これは生活排水の安全基準をわざと下げて海に栄養を送る実験

海苔の養殖は色落ちや品質の悪化を、貧栄養化による原因と睨み、改善を目指す研究が盛んです。取り組みが特に活発なのが、広島の牡蠣を代表とする、瀬戸内海の沿岸養殖です。下水の消毒を弱め、排水に残る微生物を残して還す。これが海の健康に繋がるのでは?

ただ問題がひとつ。現在の世論がそれを許すだろうか……?

豊洲市場の下水で化学物質が出ただけで大騒ぎ。人がそれを飲むわけでないし、ちゃんと下水に流れる設計にもなっている。なのに「化学物質が検出!」とニュースになるだけで、真意を調べず、”無菌しか許さない”みたいな流れ存在する。

純粋に育てる「温室育ち」だって、いいことばかりじゃない。逆に多少の菌で全滅する恐れもあるから、純粋すぎるのも悪になります。

参考資料など

論文 ノリ色落ちと内湾域の栄養塩動態|2008年度日本海洋学会秋季大会シンポジウム
リンク 瀬戸内海の貧栄養化について|兵庫県立農林水産技術総合センター

これらの資料は目を通して頂きたいです。全国にある湾内は、同様の問題を抱えています。もちろん浜名湖も。

イケス程度の狭い世界をコントロールするのは容易。でも地球の70%を占める海を人間がコントロールするのは難しい……。でも彼らが欲する栄養素を調整できるようになれば、豊穣の海が再び戻ってきてくれるかもしれません。

我々は失敗を糧に、成功を実現することが出来ます。

必要なのは「失敗を失敗だと認めること」だけ。保身のため隠蔽したり、転嫁することでややこしくなるのが人間社会の常。集団の中にたったひとりでも、間違いを認めることが出来る人が居れば、世界は必ず変わっていきます。

それを数多く証明しているのが、現代までの”歴史”ですね。

タイトルとURLをコピーしました