はじめに
(呪術廻戦143話 芥見下々/集英社)
皆様は「死滅回遊」という言葉をご存知でしょうか?
聞いた感じだとちょっと怖い印象があったり、あるいはマンガ好きな方であれば某呪術バトルな人気マンガの用語という方もいらっしゃるのかも知れません。
今回はそんな「死滅回遊」とそれにまつわる魚「死滅回遊魚」について皆様にご紹介していきたいと思います。
1,「死滅回遊魚」とは?
「死滅回遊魚」とは日本の太平洋側を流れる「親潮」「黒潮」の内、南側から流れてくる暖流である「黒潮」に乗って、本来の生息地ではない地域に流れ着いてしまう魚(主に幼魚)達の事です。
流れ着く魚達は亜熱帯や熱帯の暖かい海に生息しているため、流れ着いた先で季節の経過による水温の低下に耐える事ができず、成魚になって子孫を残す事もなく冬頃に命尽きてしまうため「死滅」の言葉があてられています。
☆「死滅」って何か物騒だから…
「鬼滅」ならともかく、
「死滅」と聞くと何だか良い気がしない方も多くいらっしゃるかと思います。
不吉ですし、縁起が悪い言葉なのは確かな事です。
そういう事もあってか、「死滅回遊魚」の事を「季節来遊魚」と呼ぶ事もあるそうです。
「季節来遊魚」という言葉は学術的な用語ではありませんが、まるでフラッと観光にでも来たかのような雰囲気があるため、ちょっと雰囲気が可愛らしくなります。
なので「死滅回遊」という言葉に抵抗がある方は、「季節来遊」という言葉で発見した時に場を盛り上げても良いかも知れません。
死滅回遊は地球温暖化等による海水温の上昇に伴う魚達の「生息域の北上」とは全く異なる現象ですが、海水温の上昇による影響を全く受けていないという訳でも無いようです。
2,死滅回遊魚は何処でみられるの?
死滅回遊魚は夏〜秋にかけ、伊豆半島や相模湾等まで流れ着きます。
台風等の影響もあると、東京湾やその先の海でも見かける事があるようです。
その際、小さな死滅回遊魚達は浅瀬や潮溜まり(タイドプール)等に定着する事があるため、彼らの姿を見たい方や採集して自宅で飼育したいという方は是非行ってみてはいかがでしょうか。
3,死滅回遊魚の種類・一覧は?
死滅回遊魚は東南アジア等の暖かい海に生息している魚なので潮の流れに乗って流れ着く種類も多く、見た目もカラフルで変わった形の魚も多いです。
ここではそんな海の熱帯魚達をいくつかご紹介したいと思います。
①チョウチョウウオの仲間達
「サンゴ礁にいる魚」といえばチョウチョウウオを想像する方もいらっしゃるのではないでしょうか。
縦に扁平で丸みのある四角形っぽい体型、ちょこんと突き出た口、尾ビレをピコピコと動かしながら泳ぐ姿はとても愛らしく、マリンアクアリウムやダイビングでも人気が高い魚です。
名前の由来は諸説ありますが、サンゴ礁の合間をスルリと抜けながら泳ぐ様子を、野に咲く花々を戯れるように飛び交う蝶々に見立てて名付けられたという説があります。
死滅回遊魚としてやってくる種類は「ミゾレチョウチョウウオ」「フウライチョウチョウウオ」「アケボノチョウチョウウオ」「ナミチョウチョウウオ」「スミツキトノサマダイ」等と豊富で体色も明るい黄色や目元に入った黒いバンド等カラフルかつ個性的で美しい種類が多いのもポイントです。
また、流れ着く個体は皆可愛らしい10円〜500円玉サイズのあどけない幼魚なので見つけたら可愛さのあまり心奪われる事でしょう。
☆飼育する時は最大全長と餌に注意!
日本だと沖縄や伊豆諸島等にいかないとなかなか見る事のできない貴重な海洋性熱帯魚でもあるチョウチョウウオ。
この時期採集できるのなら、是非採集して自宅で飼育したいと思うかも知れません。
そこで注意していただきたいのが「最大全長」と「餌」です。
餌に関してですと、ナミチョウチョウウオやフウライチョウチョウウオは人工飼料にも慣れやすく飼いやすい部類に入るのですが、スミツキトノサマダイやミスジチョウチョウウオ等の四角というよりは円に近い体型の種類だと元々の食性も相まって餌付けに苦労させられる事もあります。
ちなみにスミツキトノサマダイ系の食性はサンゴ等のポリプ食です。
飼育したい場合はアサリを擂り潰した物や冷凍飼料を与えてみましょう。
また、最大全長も把握しないといけません。チョウチョウウオの仲間は20cm超えの種類も多く、比較的小型のミゾレチョウチョウウオでも12cmほどにまで成長します。
何匹飼育するかにもよりますが、水質維持や泳ぐスペース確保のためにも60cm以上のサイズの水槽をオススメいたします。
②スズメダイの仲間達
こちらもサンゴ礁を代表する熱帯魚達です。種類によっては大規模な群れを作って生活をしたり、少数、あるいは一匹だけで暮らす等多様性があります。
死滅回遊魚としてやって来るのは「デバスズメダイ」「ルリスズメダイ」「ソラスズメダイ」「セダカスズメダイ」等がいます。
スズメダイは基本的にデバスズメダイ以外はちょっと気が強い種類が多く、群れを作るルリスズメダイやソラスズメダイでもたまに小競り合いが見られたりします。
また、成長してから体色が変わったりより気が強くなる種類もおり、セダカスズメダイやクロメガネスズメダイ等は混泳に注意が必要です。
☆スズメダイといえば、カラフルな体色!
成長すると体色が変わる種類も多いスズメダイの仲間達ですが、デバスズメダイやルリスズメダイ、ソラスズメダイは成長してもほとんど体色が変わらず、鮮やかな色彩を楽しむ事ができます。
また幼魚の時限定の体色を持つ種類もいます。
ミヤコキンセンスズメダイやヒレナガスズメダイ等は成魚になると縄張り意識が強くなり体色も褐色になって渋くなりますが、幼魚の時は明るい黄色に黒やネオンブルーのラインが派手で可愛らしい見た目をしています。
③フグの仲間達
フグと聞くと釣りの外道である「クサフグ」を思い浮かべてしまうかも知れませんが、死滅回遊魚として流れ着くフグ達は水族館でも人気な種類だったりします。
黄色い小さな箱型の体に黒い水玉模様を持った「ミナミハコフグ」や全身トゲトゲの「ハリセンボン」がやって来る事もあるのです。
泳ぐ速度はそれほど速くは無いので目の細かいネットで簡単に捕まえる事ができます。
☆フグの仲間なので…
複数種の死滅回遊魚を採集する時はフグの仲間はなるべく別の容器に分けておくようにした方が個人的には無難です。
と言うのも、フグの仲間は好奇心が強いため、他の魚達を齧りに行ってしまったり、運ぶ時に驚いて毒を分泌してしまってせっかく採集した魚達が死んでしまう事もあります。
ハリセンボンの場合だと毒は出さなくても驚いた拍子にパンパンに膨らんだ「イガグリボール」と化してしまい、他の魚がぶつかってケガをしてしまう事があります。
フグは可愛らしいですが、採集して持っていく時は気を付けるようにしましょう。
④クマノミの仲間達
クマノミもスズメダイの仲間ですが、ここでは敢えて別々にご紹介させていただきます。
映画「ファインディング・ニモ」に登場する「カクレクマノミ」やもう少し大型になり、見応えのある「クマノミ」や「トウアカクマノミ」が死滅回遊魚として流れ着く事があります。イソギンチャクとの共生が有名な魚ですが、飼育には必ずイソギンチャクが必要という訳ではないのでそこは安心できると思います。
☆捕獲は慎重に…
死滅回遊魚の多くは幼魚か稚魚、あるいは卵の状態で流れ着きます。
クマノミの仲間は稚魚、幼魚はとてもデリケートなので、捕獲する時は目の細かい柔らかいネットや水ごと掬えるネット、あるいはプラスチックケース等で優しく丁寧に捕まえるようにしましょう。
⑤アジの仲間
死滅回遊魚と言い切れない部分が多々ありますが、こちらも本来の生息地ではない所に流れ着く事があります。
ここでご紹介するアジの仲間は一般的に「なめろう」や「刺身」で賞味される「マアジ」や「シマアジ」とは違います。
むしろ、釣り人にとっての好敵手であり、強敵である「ロウニンアジ」や「カスミアジ」「ギンガメアジ」等の大型で更に遊泳力が強い種類の幼魚や稚魚達となります。
未来の好敵手のあどけない姿が見られるのは、生息地を訪れる以外ではこの時期でしか見られません。
☆名前の由来に差がありすぎる
「種の名付け」というものは、納得できる名前だったり全く理解できないものだったりする事があります。
アジの仲間の中でも「カスミアジ」は分かりやすい方です。
釣り上げた時の体表には細かいネオンブルーの模様が確認でき、これが「カスミ(霞)」に例えられています。
また、各ヒレも濃いネオンブルーに輝くため海外では「ブルーフィン・トレバリー」と呼ばれています。
一方で理解が難しい名付けをされたのがアジの仲間の最大種「ロウニンアジ」です。
名前の由来は何と「顔が浪人に似ているから」。これは私の解釈ではありますが、現代での浪人ではなく「戦国時代等で主を失ってしまった武士」の方の浪人かと思います。
だとしても、実際の表情を見た事が無いので全くピンと来ません。ロウニンアジは海外では「ジャイアント・トレバリー(いわゆるGT)」と呼ばれているため、シンプルにそちらの方がしっくり来る感じがします。
⑥ハギ、アイゴの仲間
こちらも稀に死滅回遊魚として流れ着く事があります。
青い体色に黒い模様と黄色い尾ビレが可愛らしい「ナンヨウハギ」やシマシマボディがシンプルに美しい「シマハギ」、淡い空色に黄色のドット模様が特徴の「ハナアイゴ」がいます。
潮溜まりというよりは浅瀬や漁港等で見かけやすい魚でもあります。
☆捕まえる時は気を付けて!
ハギもアイゴもこの時ばかりは小さな幼魚なのでつい油断してしまいがちになってしまいます。
しかし、小さくてもハギの仲間は尾柄に鋭いトゲがありますし、アイゴも毒は弱くても各ヒレにしっかり持っています。
子供の手であれば簡単に傷付けてしまうため、もし捕獲するという場合は注意するようにしましょう。
⑦キンチャクダイの仲間達
体高のある体型と堂々とした見た目、美しい体色がダイビングやマリンアクアリウムでも人気のキンチャクダイは、海外では「(マリン)エンゼルフィッシュ」と呼ばれ親しまれています。
そんな彼らも死滅回遊魚として生息地から離れた場所に流れ着く事があります。
特に有名なのが「タテキン」こと「タテジマキンチャクダイ」と黒い体色に青や白のラインという繊細な美しさがある「サザナミヤッコ」です。
このどちらも成長すると40cmを超える大型種なので最終的に120cmクラスの水槽を用意できなければ飼育はオススメできない種類です。
また、成魚と幼魚では体色が違い、幼魚の時の体色が最も美しいというアクアリストもいます。
☆一度はテレビで見た事があるかも!?
キンチャクダイとかヤッコと聞いてしまうと「何ソレ?」となってしまうかも知れません。
ですが、あるアニメが好きな方は一瞬ではありますが、その姿を見ているのではないでしょうか。
そのアニメは「呪術廻戦」というアニメで、第一期のオープニングにクルクルと泳いでいる小さな魚こそが「タテジマキンチャクダイ」の幼魚なのです。
もしかしたらオープニングの段階で既に大分先の術式が暗示されていたのかも知れません。
また、タテジマキンチャクダイはタテキンの他にも呼び名があります。
幼魚の時限定ではありますが「ウズマキ」と呼ばれて親しまれているのです。
最近のアニメ映画でそんな感じの技名があったような気もしますが、多分私の気のせいでしょう。
4,死滅回遊魚は何故死んでしまうの?
これに関しての答えはかなりシンプルです。
彼らは元々東南アジア等の暖かい海に生息している種類。
それ故に水温が下がる冬になると生きる事ができないのです。
死滅回遊魚達は水温が15℃を下回ると呼び名の通り次々と死んでいきます。
「可愛そう」「理不尽だ」と思うかも知れませんが、その儚い命はその地に生きる他の生き物達の貴重な栄養となり、新しい命を廻らせていくのです。
☆魚「死滅?そんなのやめました!」
等と、命の終わる理由について語ってはいましたが、極稀に冬を迎えても生き残って春を迎える死滅回遊魚もいます。
何故、冬場に死滅するはずの彼らが生き残っているのか?その理由は「温泉」にあります。
死滅回遊魚達が辿り着く地には「温泉」が有名な所がいくつかあります。
排水された温泉が流れ込む場所は少々塩分濃度が下がるものの、水温が冬でも暖かいためその地に流れ着いた死滅回遊魚達は生き残る事ができるのだそうです。
魚達も海中で「温泉最高〜!」と言っている事でしょう。
■海水温の上昇の影響について
地球温暖化による影響の中には「海水温の上昇」というものがあります。
この影響は凄まじく、サンゴの白化現象やサンゴの北上、海洋生物の生息域北上や交雑種等様々な所で影響を及ぼしています。
死滅回遊魚もその中に含まれており、今までは冬場の低水温に耐えられず死滅するか、温泉が流入する海域で奇跡的に生き延びるしかなかった彼らが海水温の上昇によって死滅しなくなったという話もあるのです。
確かに冬になれば死に往く彼らの生存は嬉しい事かも知れませんが、これは本来の自然の姿ではなく異常な事と言えます。
中には「ゴカネキュウセン」のように愛らしいニューカマーがいたりしますが、ウツボやミノカサゴ等の危険生物まで回遊、定着しかけているのです。
死滅回遊が死滅回遊ではなくなっていく。これが後にどんな影響を与えていくのか、ある意味怖い話ではあります。
5,死滅回遊魚を採集する時に役立つアイテムについて
彼らが流れ着く地域では、そのカラフルで愛らしい姿を見てお持ち帰りしたくなる方もいらっしゃるかと思います。
そんな死滅回遊魚達を採集する時に便利なアイテムをいくつかご紹介させていただきます。
①バケツ
採集した魚達の入れ物です。大きめのプラスチックケースでも代用できる事もありますが、持ち運びや容量的にバケツの方が扱い易い面があります。
また、魚釣りが趣味な方はクーラーボックスでも代用できます。
②電池式エアレーションセット
電池さえあれば簡単に水中に空気を供給できるアイテムで、淡水魚のように「鼻上げ」をほとんどしない海水魚達の導入までの生存率を上げてくれる必須アイテムです。
③ネット
死滅回遊魚はほとんどが稚魚か幼魚のデリケートな時期です。
採集する時は目の細かくて柔らかい、魚に優しい作りのネットを選ぶようにしましょう。
また、プラスチックケースに追い込む時にも使う事ができます。
④プラスチックケース
ネット等で追い込んで掬う事で魚達へのダメージを最小限にして捕まえる事できるアイテムです。
ある程度の大きさがあれば、採集した魚達を持ち運ぶためのアイテムにもなります。
⑤ポリタンク
死滅回遊魚達が流れ着いた海の水を使いたい場合はポリタンクがオススメです。容量もあり、バケツよりは持ち運びもしやすいです。
ただし、容量がある分かなりの重量があるので持ち運びの際は注意しましょう。
まとめ
今回は夏の訪れると共に現れる死滅回遊魚について皆様にご紹介させていただきました。
死滅回遊魚は他にも種類がおり、どんな種類の魚がやって来ているかはその時次第、巡り会うのも運次第となります。
雄大かつ厳しい自然界の力によって短い命を終える彼らではありますが、その命は決して無駄になる事なく大自然のサイクルに還っていくのです。
また、彼らの愛らしくカラフルな姿は本来の生息地以外ではなかなか見る事のできない期間限定の特別な姿です。
気になる方は是非、死滅回遊魚達が現れるとされる地域を訪れてみてはいかがでしょうか。
大自然は不思議がたくさん詰まっています。そんな不思議を少しでも広め、知っていただけたなら私も嬉しく思います。