はじめに
最近人気のアウトドア「魚釣り」。
シンプルに魚を釣るだけではなく、大物とのファイトや繊細な性格の魚との知恵比べを楽しんだり、目的の魚種のみを狙ってみたりと楽しみ方は無限大です。
そんな中、どうしても現れる「招かれざる者」がいます。餌を取ったり頻繁にかかってしまう魚達は「外道」と呼ばれており、その特徴からあまり好まれる魚ではありません。
そんな外道の中でも今回は「エソ」についてご紹介させていただきます。
エソは種類によって大きさにかなりの差がありますが、とにかく貪欲過ぎて餌釣りでもルアーでも積極的に食らい付く他、独特の見た目から気味悪がられる事も多く、リリースされる事が殆どです。
その一方で「とても美味しい魚」としても知られており、一部の地域ではポピュラーな食用魚となっています。
それでは早速美味しい外道・エソの世界を覗いてみましょう。
1,エソの特徴について
①エソの見た目は?
エソの体型は細長い棒状で、体の断面は「コチ」のように三角形ではなく丸くなっています。
また、各ヒレは尾ビレ以外は体の大きさに対して小さめです。胸ビレは小さくてスマートな形状、腹ビレ、尻ビレは台形のような形状で、特に尻ビレは尾に近付くにつれて低くなっていきます。
背ビレは体の中心から少し頭よりの所にややエッジの効いた三角形、尾ビレは二又になっており、こちらもエッジが効いています。
さらに背ビレと尾ビレの間、やや尾ビレよりに「脂ビレ」というヒレがあり、これはサケやマスの他、一部のナマズの仲間や熱帯魚のカラシンの仲間等にも見られる特徴の一つでもあります。
エソ最大の特徴は「頭部」で、細長い体に見合わぬ形状をしており、短い吻と頭部の前方に大きな目があります。この大きな目は暗い海中でも獲物を捕捉しやすくなっています。
さらに口は頭部後方まで裂けており、口内には鋭い牙が並んでいます。
この口は大きく開き、自分の体長の半分くらいある魚も捕らえるエソの自慢の武器なのです。
②エソの大きさは?
エソは種類によって大きさにかなりの差があります。
よく釣り上げられる「マエソ」や「オキエソ」「ツケアゲエソ」は成魚だと30〜40cm程になります。また「アカエソ」は成魚になっても30cm前後です。
大型になる種類では「トカゲエソ」が約50cm、「ワニエソ」が約70cmまで成長します。
70cmのエソ…、実際釣り上げたらけっこう怖いかも知れません。
③名前の由来は?
エソは漢字では「狗母魚」または「魚へんに會」と表記されます。捕捉ですが、前者の漢字表記の「狗」は「小型の犬」を表しています。
また、「エソ」という呼び名も由来があり、一説には大昔の日本で差別用語として使われた「穢多(えた)」「エミシ」から来ているという説もあります。
エソの大きく裂けた牙だらけの口に大きな目は、おそらく当時の人々にとって、この世の者とは思えぬ不気味さと恐怖を与えたため、その名を与えられたのかも知れません。
他にも海外ではエソの魚らしからぬ見た目から、「リザードフィッシュ」「スネークフィッシュ」と呼んでいます。
日本でも「爬虫類っぽいな」と感じるのか、エソの種類によっては種名に「ワニ」「トカゲ」等を付けていたりします。
2,エソの生態について
①生息分布域は?
エソは世界中の暖かい海に生息しており、主に熱帯〜亜熱帯の海域に好んで生息しています。
日本では沖縄や九州、四国等の海でよく釣れるため、郷土料理としてエソの身が使われた一品があります。
エソに淡水種はいませんが、汽水域まで入ってくる事もあるため河口でスズキやボラ等を狙っていると外道どころか伏兵として釣れる事もあるので油断は禁物です。
また、淡路島(兵庫県)や和歌山県、静岡県の海でもエソの姿が確認されています。
②エソの行動について
エソは夜行性のため、夜になって海中が暗くなってから活動を始めます。
コチのように底でジッとしたり低層ばかりを泳ぐのではなく、意外と活発に泳いで獲物を探し、捕食するのです。
一方昼間は海底の砂の中に潜って休んだり、海底でジッとして過ごします。
③エソの餌について
エソは厳つい頭部の通り、肉食性の魚です。口に入る獲物であれば貪欲に襲いかかるため、獲物も多岐に渡ります。
海底の砂中にいるゴカイやエビ、カニ等の甲殻類、口に入ればタコやイカ、魚、貝までエソの捕食対象になっています。
こんなに捕食の幅が広ければ、外道として釣れてしまうのも納得です。
3,エソが釣り人に嫌われる理由とは!?
海釣りの世界ではとにかく「外道」として嫌われているエソ。
何故そこまで嫌われているのか、その大まかな理由をご紹介させていただきます。
①とにかく釣れる!
メバルやアジ等狙う獲物は人それぞれですが、餌釣りでもルアー釣りでもとにかくエソは食への貪欲さから簡単に釣れてしまいます。
ゴカイでもエビでも小魚でも捕食してしまうエソは、ワームでもジグでも獲物とみなしてアタックするためイカやタコ狙いでもかかってしまう事も。
特に夜行性の種類を狙う場合はエソの活動時間帯と被ってしまうため、より「エソアタック」されやすいと言えます。
②見た目が怖い!
まるで「口裂け女」のように大きく裂けた口に大きな目、細長い体はインパクト抜群!
「未だにエソだけは無理!」と拒絶する釣り人もいます。また、最近は新たな趣味として釣りを始める方も多く、たまたま釣れたエソの見た目に度肝を抜かれてしまう事もあります。
もし釣りを始めたばかりの方が、夜釣りでたまたまエソを釣り上げてしまった日には「新手の怪異」に出くわしたような恐怖を感じるかも知れません。
③口の被害が…!
エソの特徴である細かい牙が生えた大きな口。口に入るサイズであれば何でも捕食してしまうため、一度かかると口いっぱいに餌やルアーを頬張っている事も少なくありません。
しかもしっかり牙が食い込むため、ワーム等の柔らかいルアーだとボロボロにされてしまう事もあります。
また、針を外す時に素手でやると牙がチクチクする事もあり、何とも言えない不快感があります。
また、針を外した拍子に噛まれたりするとそこそこ痛いため色んな意味で難儀な魚です。
個人的にはワニエソのような大型種には絶対噛まれたくないです。
④小骨の主張が激しい!
「エソが美味しい魚だ」と知っていても、いざ食べるとなると下拵えがちょっと大変だったりします。
この下拵えが荒いと、エソの体内にある小骨が口の中で大暴れです。
小骨といいながらウナギやアナゴ、ハモのような感じではなく、エソの小骨はかなりしっかりしていて複雑に生えているため慣れていないとこの処理に手間がかかってしまいます。
そのためエソが釣れても「食べるまでの手間が大変」という理由で嫌われている事もあります。
4,意外と簡単?エソ料理について!
下拵えや処理が大変なエソですが、その味や身質の良さから親しまれていたりします。
また、私達のよく知る食べ物の原材料になっている事もあり、知らず知らずの内に口にしている事もあります。
ここではそんなエソ料理についてご紹介させていただきます。
①ごまだし
大分県佐伯市の郷土料理です。エソの他にカマスやアジを使う事があります。
主に使う調味料は醤油、味噌、みりん、砂糖、お酒、擂り潰した炒りゴマです。
まずはエソの鱗や頭、内臓を処理します。
次にエソをこんがり焼きあげ、身をほぐしていきます。これで厄介な小骨の処理も簡単です。
先ほど紹介した調味料とほぐしたエソの身を少し混ぜて完成です。
ごまだしは各家庭で作り方や味、見た目も違います。出来上がったごまだしはうどんに入れたりお茶漬けに入れて食べます。
余談ですが、グルメ漫画「美味しんぼ」にも登場した事もある料理なので食べてみる価値は充分にあります。
②ふわふわつみれ汁
エソの身は柔らかく、白身でしっかり旨味があるため、つみれや練り物加工される事もあります。
そんなエソの鱗や頭、内臓を処理できたら三枚におろし、スプーンを使って身をすき取ります。
取れたエソの身をすり鉢で擂り潰したり、フードプロセッサーに入れてミンチにします。
つみれ汁用のスープは焼いたエソの骨から出汁を取るのも良いですが、昆布出汁と鰹出汁、塩等でシンプルに味付けするだけでも作れます。
より簡単に作りたい場合は市販のお吸い物の素や出汁パックを利用するのもオススメです。
スープができたらエソのすり身(ミンチ)をスプーンで掬ったり手で形を整えたりしてスープに入れます。
ひと煮たちしてつみれに火が通ったらお好きな形に切ったネギを散らして完成です。
エソのすり身はつみれだけではなく、ひじきや玉ねぎ等を混ぜて油で揚げて「さつま揚げ」にする事もできます。
③塩焼き
一番シンプルな食べ方です。
鱗、内臓を処理したエソの身に塩を振り、お魚グリルやフライパンで焼きます。
エソの身は柔らかいため、個人的には塩を振ってから10分程おき、身から出てきた余分な水分をキッチンペーパーで取ってから焼くのがオススメです。
④刺身
難易度が高い料理です。大前提として捌いたエソの身から小骨を抜かなければなりません。
複雑な入り方をしているエソの小骨を柔らかな身から引き抜くのは至難の技ですが、骨抜き用ピンセットで地道に抜きます。
骨抜きが終わったエソの身はお好きな厚さにカットして努力の成果を味わいましょう。
5,エソの意外な一面について
ある時は外道として、またある時は美味しい魚として親しまれたり嫌われたりと二面性がハッキリしているエソですが、あるカテゴリーでは意外と人気な魚だったりします。
ここではエソの意外な一面についてご紹介させていただきます。
①ダイビングでは人気の魚!
とても怖い表情をしているエソですが、食べ物さえ絡まなければ性格はマイペースな魚です。逃げ惑う事なくその姿を観察する事ができます。
特にアカエソは比較的小型で体色も美しいため人気があります。
また、捕食シーンも人気であり、フグや小魚、果てはチョウチョウウオのような飲み込みづらそうな魚まで捕食している時の写真はちょっとマヌケな感じと獰猛さを両立した芸術品だと思います。
②エソの幼魚は神秘的!
こちらもダイビングにまつわるものですが、ナイトダイビングは慣れていないと非常に危険なため、安全にエソの幼魚を見るならプロが撮った写真が一番です。
体は細長いですが透明感があり、親魚のような凶悪な表情は全く見られません。
ガラス細工のような繊細な姿は幼魚時代にしか見られない貴重な瞬間です。
気になった方は是非見てみてください。
③何故そこにいる!
私達、実は知らず知らずの内に練り物以外でエソを食べているかも知れません。
何故ならエソは「シラス」に混じっている事があるからです。混じっているのは成魚や稚魚ではなく、とっても小さな幼魚です。
釜揚げシラス等をよく見ると、他のシラスと違って筒のような体、そして体の側面お腹側に等間隔で6個のブラックスポットがあります。それがエソの幼魚です。
食べても問題はありませんし、「ちりめんモンスター(チリモン)」として見つけて他のシラスと比較しながら観察するのも楽しいかも知れません。
④アクアリウムでも有名な種類が!
アクアリウムの中でもマリンアクアリウムで有名なエソの仲間が存在します。
それは「ホタテエソ」という魚で、可愛らしいピンクの縞模様に見る角度で色が変わる光沢のある白い体色、さらに黄色のラインも入り、非常に美しい種類です。
ヒレをピンと立てて誇らしげに胸を張るポーズを群れでとってみたりと仕草も可愛らしいため筆者イチオシの魚でもあります。
まとめ
今回は美味しい外道・エソについて皆様にご紹介させていただきました。
本命の魚は来ないのにずっと釣れてしまうにっくき外道ではありますが、言い換えれば誰も「ボウズ(釣れない)」にしない優秀な魚です。
また、食欲が出ない見た目ではありますが、実際その身は柔らかく美味しいため、一級品の練り物の材料にされている「隠れデリシャス」だったりします。
魚釣り以外ではダイビングや写真集で親しまれており水中でしか見られない貴重な姿は料理と相まって彼らへの偏見を払拭させるには充分です。
終盤にご紹介した「ホタテエソ」は流通される事は滅多にありませんが、ショップに入荷すれば迎え入れ、飼育し、その美しい姿を楽しむ事ができます。
この記事を読んでくださった皆様にエソについて深く知っていただけたなら私も嬉しく思います。