野山を自由に飛び回り、川や海も華麗に進む野鳥達は古くから人々に親しまれてきました。
ある鳥は狩りを、またある鳥は見た目や歌声の美しさから重宝され、図画や日記などでもどれだけ愛されてきたかを知る事ができます。
そんな野鳥達の中でも古来より変わることなく毎年春になると日本に訪れる野鳥がいます。その野鳥こそ、今回皆様にご紹介させていただく「ツバメ」です。
ツバメは見た目の美しさや颯爽と飛び交う姿が今日に至るまで観察されており、子育ても人の側で行うなど非常に身近で親しみ深い小鳥です。
この記事を通して彼らの世界を是非覗いていってください。
1,小さな旅鳥・ツバメの特徴について
・分類は?
ツバメは「スズメ目ツバメ科ツバメ属」に分類されています。見た目は大分違いますが、スズメの遠い親戚のような小鳥なのです。
・どのくらいの大きさなの?
全長は17cm前後ですが、その約1/2は二又に分かれた長い尾羽が占めています。
また、体に対して翼が長く、一杯に広げると32cmほどもあります。
・どんな見た目をしているの?
ツバメは額と喉が深紅、お腹側は真っ白で胸に黒い帯が横切るように入ります。また、背中側は真っ黒ですが陽の当たる角度によって青く煌めくという特徴があります。
高い飛翔能力を持っていますが、脚は小さくてあまり目立ちません。細い電線や作りかけの巣の一部に留まる様子も見られています。
目は大きく、真正面から見ると意外と眼光が鋭いです。
嘴は小さいですが横に広い形状をしているため大きな獲物を咥えたり、飛びながら獲物を捕らえるのに適しています。
・生息地は?
ツバメが日本に渡ってくる理由は繁殖のためで、日本にいる間はほぼ全国に生息するため観察しやすいです。
特に人が住む場所や出入りの多い場所に巣を作り子育てをするという習性があるため民家や駅などではかなりの確率で観察できます。
また、屋久島以南ではあまり姿が見られないようですが、沖縄では「リュウキュウツバメ」という種類を観察する事ができます。
ツバメはヒナが巣立ってしばらく過ごすと冬が来る前に日本を発ちます。その越冬地はフィリピンやボルネオ島、マレー半島などの東南アジアや台湾です。
・何を食べているの?
ツバメは高い飛翔能力を活かして飛んでいるハエやアブ、トンボなどの昆虫を主に捕食しています。
特にユスリカやカなどの田んぼに群がる害虫を捕食するため農家さんにとってツバメは農薬を使わなくても害虫駆除をしてくれる貴重な存在です。
2,ツバメの生態について
ツバメは古くから日本に飛来する渡り鳥として知られており、貧富など関係無しに多くの人々が観察し可愛がってきました。
そんなツバメ達の生態についてご紹介させていただきます。
・水の飲み方が独特
ツバメは脚が小さく、スズメやメジロと比べて力が弱いため巣作りの材料を拾う以外で地上に降りる事はほとんどありません。
これは水を飲む時も同じで、水面スレスレを滑空しながら水を飲んでいます。
この給水方法こそ、ツバメにとって水も飲めてわざわざ苦手な地上に降りる必要もなく敵からも素早く逃げる事ができる一石二鳥ならぬ一石三鳥の生存戦略なのです。
・巣は食べられません!
中華料理の高級食材として「ツバメの巣」が有名ですが、こちらはツバメはツバメでも「アマツバメ(海燕)」の巣です。
一方ツバメの巣は泥や枯れ草に唾液を混ぜた物を材料に作っているため食べる事はできません。この巣材を手に入れるために超期間限定でツバメは地上に降り、泥や枯れ草を集めます。
また、ツバメは巣を新しく作る以外にも古い巣をリフォームして再利用する個体もいるため、家で軒下に作られた巣を大切にしておくと翌年も訪れてくれる事があります。
・ツバメの鳴き声
意外にも「鳴管」という鳴くための器官が発達している小鳥として知られており、繁殖期のオスは電線などの上に留まって「チュビチュビヂュリリ」「チュビチュビチュビチュビビビビヂュリリ」と大きな声で囀ずります。
この高い声と低い濁音混じりの声を複雑組み合わせた囀ずりは「土食って虫食って苦〜い」「土食って虫食って不味〜い」など例えられて親しまれています。
・とても身近な野鳥
自然界はとても厳しく敵に襲われる事もあれば自然の猛威を奮われる事もあり、野鳥を含め野生動物達はいつも命の危険が伴っています。
そんな中「人間の側で生活、子育てをする」という方法を選んだ生き物がいます。ツバメのその内の一種であり、他にはヤモリやコウモリが有名です。
この方法は非常に画期的であり、多くの野生動物が恐れる人間の側にいれば外敵や天敵に襲われる心配もかなり減りますし、人間が作った雨風を凌ぐ建物は自然の猛威も気にする必要がありません。
人間にイタズラされるかも知れないという欠点がありますが、それを以てしても余りある利益があるため彼らは人々の側で暮らし、その結果最も身近な野鳥として親しまれるようになったのです。
⭐身近過ぎて天気予報に使われていた!
今では気象庁によってより詳しい天気を知る事ができますが、昔はそのような技術がなかったため野生動物を見て天気を予測していました。
カエルやイモリも雨を予測する動物であり、カマキリも産卵する高さでその年の積雪量の目安にしていたそうです。
ツバメも雨を予測する動物として見られており、「ツバメが低く飛ぶと雨が降る」とされていました。
実はこの行動、全くのデタラメという訳ではありません。
ツバメは天気が良いと高い位置を飛ぶのですが、これはエサとなるハエやカなどの虫も高い位置を飛ぶようになるためです。
一方で雨が近付き湿度が上がってくると虫の羽は湿気で重くなり高く飛べなくなるためツバメも捕食のために低く飛んでいるのです。
もし何かしらの理由で天気が分からない時は、颯爽と空中を飛び回る彼らに訊ねてみても良いかも知れません。
3,ツバメの繁殖期について
ツバメは早ければ3月中旬には日本に渡ってくる個体もおり、オスの囀ずりを聞く事ができます。
そんな彼らは4月〜7月頃に産卵、子育てをするためそれまでに「つがい」となり、新しい巣を作ったり古い巣をリフォームして再利用します。
巣の中には枯れ草や他の野鳥の羽毛などを敷きますが、これは卵のクッション兼防湿防寒対策です。
産卵数は3〜7個といわれており、卵の見た目は少し小さなウズラの卵のような見た目をしています。
また、卵はオスメス交代で温めますが、その頻度はメスの方が多いという結果もあります。
抱卵を始めてから約2〜3週間で卵は孵化します。生まれたてのヒナは羽毛も生えておらず目も見えないため体が冷えないように親鳥はヒナを温めます。
また、卵の殻は捨てる事もありますが産みたての時より殻が軟らかいため親鳥が栄養補給のために食べる事も少なくありません。
ヒナが卵から孵ると親鳥はヒナのためにエサとなる虫を捕まえてきます。
この時狙う虫はハエやアブ、ユスリカやカなどの小さめの飛翔昆虫である事も多く、獲物を口に咥えると猛スピードで巣に戻りヒナに与えます。
時々熟練者なのか口いっぱいに虫を咥えた親鳥を見られる場合もあり、観察が楽しい瞬間でもあります。
ツバメの成長は早く、生まれてから約1ヶ月で巣立ちます。生まれたてのヒナも数日経てば目も見え、羽毛が生えてきます。
ヒナ達はエサを持ってきた親鳥に気付くと口を大きく開けておねだりするのですがその様子は非常に可愛らしく、特に巣立ち間近のヒナだと一見の価値ありです。
ヒナは巣立つと最初の内は巣の近くにある電線やロープに留まって親鳥が運んでくる餌を待っていますが次第に飛行訓練が始まり、親鳥ほどでなくても飛べるように力を着けていきます。
そうして飛行能力を身に付けたヒナと子育てを終えた親鳥はエサとなる昆虫が豊富な河川敷や溜め池の草原や葦原に移動し、数千〜数万羽におよぶ大規模な集団を作って生活を始めるのです。
⭐夜のツバメの様子は?
日中はヒナのためにエサを捕ってきたり温めたりしている親鳥ですが、ヒナの成長段階によって夜の寝方が変わっていたりします。
例えば卵の段階だったりヒナが生まれて間もない時は2羽で巣の中に収まっている事があります。
ヒナがちょっと育ってくると、メスはヒナを温めるために巣にいますが、オスはちょっと離れたところで寝ている事があります。
さらに成長して羽が生え揃った状態になるとヒナでぎゅうぎゅうになった巣には入れないため親鳥は巣の近くで寝ています。
この寝姿は子育て中のほんの僅かな期間でしか見られない貴重な瞬間です。
■子育て中に不幸があると…!
ツバメは大自然の猛威に晒されたり天敵に襲われる他、人間の生活圏内で生活しているため車に轢かれるなどして死んでしまう事があります。
子育て中の時につがいの片割れが死んでしまうと残った親鳥が留守にしている間に別のツバメが巣にやって来てヒナを殺されてしまう事があるそうです。
また、メスが死んでしまった場合はオスの元に多くのメスが集まり、その中から選ばれたメスと一緒に子育てを継続する様子も確認されています。
■ケンカは得意じゃない
ツバメは体や嘴が小さいため、ライバル関係にあるスズメとケンカになると負けてしまう事があります。
ツバメの攻撃方法は猛スピードで相手に突っ込み寸での所でかわすという戦い方です。
これに相手が慣れていない場合は追い返せる事もありますが、繁殖期で気が強くなった歴戦のスズメとなると怯む事なくツバメに向かっていき嘴でつついたり脚で掴みかかったりして巣から追い出してしまう事も少なくありません。
せっかくの巣をスズメのつがいに奪われたツバメは新たに巣を作るか古巣を再び探さなくてはいけないのです。
4,ツバメの観察方法について
日本にいる間は最も身近な野鳥といえるツバメは運が良ければご自宅で観察する事もできます。
また、親鳥の帰りを巣の中でぎゅうぎゅうになりながら待つヒナの姿はとても愛らしいものです。
この項目ではツバメの観察のポイントやオススメのアイテムなどについてご紹介させていただきます。
①あると便利!双眼鏡と望遠鏡
バードウォッチングに欠かせない重要アイテムが双眼鏡と望遠鏡です。
双眼鏡の方が初心者にも扱いやすくオススメですが、最近ではスマートフォンに装着して使うタイプの望遠鏡もありますので是非使いやすい方をご利用ください。
②静かに観察する事
ツバメは人のすぐ側で暮らす野鳥ですが神経質な一面もあり、声に驚いて逃げ出してしまう事もあります。
ビックリさせないようにするためにも観察する時は静かにしましょう。
③日記帳やスケッチブックもオススメ!
ご自宅や近くの公園にツバメの巣があり観察の自由が利く場合は、観察日記やスケッチブックにその様子を記しても面白いです。
親鳥からエサをもらう様子や子育て中のツバメの様子を鮮明に覚え、楽しむためにも良いと思います。
④カメラで記念撮影
今ではスマートフォンで事足りるのかも知れませんが、一眼レフやデジカメならもっと綺麗な画質で撮影する事ができます。
撮影する場合はカメラでもスマートフォンでも絶対にフラッシュを使ってはいけません。
一眼レフの場合は扱いがちょっと難しい面がありますが、慣れると味のある写真や飛び立つ瞬間など躍動感のある写真を取る事もできます。
⑤あの囀ずりが聞こえたら見上げてみよう!
ツバメのオスは体の大きさに見合わない大きな声で囀ずります。
この鳴き声はかなり独特なので他の野鳥と間違えにくいと思います。
ツバメの囀ずりが聞こえたら上を見上げてみましょう。電線や小枝の先などにツバメが留まっている可能性があります。
⑥ダイナミックな飛行が見たければ河原や田んぼに行ってみよう!
ツバメといえば翼を広げて猛スピードで飛びながら方向転換をしたり急降下をするダイナミックな飛行が魅力の1つです。
この様子は自宅や公園でも見る事はできますが、筆者が特にオススメしたいのが河原や田んぼといった水場です。
近くに河原や田んぼがない場合は最寄りの自然公園に行くと観察しやすいです。
田んぼや河原といった水場はツバメのエサとなる飛翔昆虫がたくさん集まるため、複数のツバメによるハイスピードな狩りの様子を観察する事ができます。
⑦巣から少し離れた場所で観察していると?
ツバメが子育てに突入するとつがいでエサを探しに行きます。
この時かなりの頻度で親鳥が戻って来るのですが、それだけツバメの飛行能力は高く、狩りが上手いという事なのです。
そんな子育ての様子を少し離れた所から観察していると親鳥が戻って来た時に大きく口を開けて「ピーピー」と鳴く可愛いヒナの様子を観察する事ができます。
しかも親鳥の優しい目はどれだけヒナを大切にしているかが分かる瞬間でもあります。1度に数秒しかないチャンスなので見逃さないようにしましょう。
⭐どうして空腹のヒナが分かるの?
ヒナの成長速度は早く代謝も良いのでどんどんエサを食べて成長していきます。この時よく聞く疑問が「親鳥はどうやって空腹のヒナを判別しているのか」です。
ヒナは常にエサを欲して身を乗り出して来るので食べさせるのが大変そうですが、よく観察してみるとちゃんと平等に食べさせています。
実は親鳥、「ヒナの鳴き声と口の開きの大きさ」で空腹具合を判断しているのです。
食べた量が少なかったり空腹のヒナはいっぱい食べたヒナよりもおねだりの鳴き声が大きく、口も大きく開いて親鳥にアピールしています。
これを見逃す事なく親鳥は空腹のヒナにエサを食べさせているのです。
この違いも是非バードウォッチングしてみてください。
5,ツバメと人間の関わりについて
ツバメの訪れは昔から多くの人々に歓迎され、あらゆる形で大切にされてきました。
ツバメは昔話や逸話などにも登場しているため、それほどまでに身近な存在だったのです。
しかし、今では建物や文化の変化からこの関係も少しずつ変わってきています。
この項目ではツバメと人間の関わりについてご紹介させていただきます。
①農家さんに喜ばれる存在!
ツバメはずっと昔から春と共に日本を訪れ、愛らしい見た目と颯爽とした飛行、人のすぐ側で子育てなど様々な仕草で愛されてきました。
特に畑や水耕栽培は昔から農作物を食べてしまったり病気を媒介する害虫に悩まされており、その被害も尋常ではなかったそうです。
しかし、ツバメは春から夏という農業が始まり稲や農作物が育つ頃に田んぼや畑に現れて害虫を駆除してくれます。
燕尾服を着た小さな紳士と淑女達の活躍によって秋には収穫を迎え、人々は日本を飛び立つ彼らに感謝しながら名残惜しんだのです。
■新しい文化にはちょっと困った存在?
ツバメは田んぼや畑、時には花畑や果樹園にも現れ虫を捕食しています。
その行動自体は昔と変わらず害虫を減らしてくれるのでありがたいのですが、ある農家さんだとちょっと困ってしまうそうです。
その新しい文化にして農業というのが「養蜂」です。
蜜を集める量が多い「セイヨウミツバチ」の飼育がポピュラーですが、「百花蜜」と呼ばれる稀少な蜜を作る在来種「ニホンミツバチ」を飼育している方もいます。
養蜂家さんは蜂蜜や蜜蝋を作る以外に果樹園農家さんと協力して実をつけるための「受粉」を手伝っている事もあり、果樹園の側にミツバチの巣箱が置いてある事もあります。
しかし、ここにツバメが来てしまうと受粉を助ける益虫であるミツバチを捕食してしまうため、ミツバチの数が減ってしまう事があるそうです。
元気な群れなら減ってしまった分を盛り返せるようですが、互いに利益がある分何とも歯痒い結果になっています。
②ツバメが来る家は良い家の証!?
家の軒下や車庫、駅などに巣を作るツバメは古巣があれば材料を継ぎ足してリフォームし、再利用する事もあります。
そのため古巣があると真っ先にそちらへ向かう事もよくあります。
この家にツバメが来るという光景は昔から家の人柄や商売の参考にされる事があり、「ツバメが来る家は人柄が良い(理由:優しいからツバメも安心してこそできる)」「ツバメが来る店は繁盛している(理由:ツバメは人の出入りが多い場所を選ぶ傾向がある)」と考えられていたそうです。
そのためツバメが巣を作った家は、来年も来てくれるように巣を大切にしていたと言われています。
■時代は変わって厄介な事に!
今でもツバメは大切にされている野鳥ではありますが、昔と今では家の事情もかなり変わってきています。
特に玄関に巣を作られてしまうと巣が気になって玄関が開けにくくなってしまったり、巣の下にフンをされたり、ツバメ自体が野生動物なのでダニがいたりとかなり衛生上や見た目が悪くなってしまうといった被害が出ています。
ツバメの好き嫌いも人次第ですし実際に掃除もかなり大変なので、時には巣を撤去するケースに繋がる事もあり、ツバメと人間の関係性も崩れつつあるのかも知れません。
⭐玄関にツバメが巣を作ったら!
大前提として、ツバメは雨風や天敵の侵入を防げるというメリット以外に「この家ならきっと安心して子育てできるぞ」という家主に対する安心感と信頼があって巣作りと子育てをしています。
そんな彼らの来訪を喜び受け入れてくれる場合は、共存のためにちょっと工夫をしましょう。
例えば、車用の靴置きなどを買ってその上に新聞紙やペットシーツを敷いて巣の下に設置すると掃除もしやすくなりますし、何もしないよりは見た目も綺麗です。
また、玄関の近くに巣がある場合は来客に分かりやすいようにステッカーや張り紙をしておくのもオススメです。
余談ですが、時代が変わってもツバメの来訪・子育て大歓迎!という方はかなり多く、自治体や環境省も結構ツバメ推しだったりします。
■勝手に撤去すると法に触れる可能性も!
ツバメの来訪を受け入れられないという方の中に、もしかしたら自治体に任せず自力で巣を撤去してしまう方もいらっしゃるかも知れません。
それは家を汚されるのを防いだり防音のためというのもあるかも知れませんがこの行為、法律上「違法」と判断される場合があります。
ツバメは巣作りから産卵、子育てまでの移行が早く巣立ちまでの期間も短い野鳥です。
巣を撤去しようとした時に巣の中に卵やヒナがいて、それでも撤去してツバメの棲み家を奪ったり卵やヒナを傷つけたり殺してしまった場合は「鳥獣保護法」に問われる可能性があります。
これを読んで「バレなきゃ大丈夫だろw」と思った方がいたら大分考えが甘いです。
ツバメは基本的に「人の出入りが多い場所」に巣を作ります。つまりは普段何気なく通っている人々の目につきやすく「巣がある」と認知される率が非常に高いです。
そんな時に巣を撤去している様子を見られたりヒナの鳴き声や卵の潰れる音を聞かれた日には、気付かぬうちに動画を撮られて拡散されたり環境省やら何やらに通報されて人生詰む可能性だってあります。
ツバメの来訪をどうしても歓迎できない場合は巣が出来上がる前に自治体に撤去の相談をするしかありません。
子育てが始まったしまっていたら巣立つまで待ち、卵やヒナがいない間に自治体に撤去してもらいましょう。
また、ツバメは巣を撤去されたり壊されたりすると、その出来事や人を覚えるようで数年間は来ないどころか近付きすらしなくなる事もあります。
③ 実は保護されている事も!
ツバメが巣を作り、毎年元気で美しい姿を見せてもらえる方はとても幸福な方だと筆者は思っています。
筆者の実家の別棟にもツバメが毎年来て子育てをしているため、そちらの建物は春〜夏の終わり頃までツバメにあげているようなものです。
電線に頑張って留まる尾羽の短いヒナ達の姿は微笑ましく、旅立ちが寂しくなります。
そんなツバメですが意外にも種類単位で数を減らしており、一部都道府県では保護動物に指定されている事もあります。
神奈川県では2006年以降ツバメを減少種として指定していますし、千葉県では2011年から一般保護生物に指定しています。さらに千葉市はもっと早く、2004年から「要保護生物」にしています。
④昔話にも登場!
ツバメは「燕」「玄鳥」「乙鳥」と漢字表記される事もあり、昔は「ツバクロ」「ツバクラメ」と呼ばれていました。
そんな彼らが登場した有名な昔話が「かぐや姫」です。古典の授業などで習った気がしてきませんか?
かぐや姫はその美しさのあまり、たくさんの人々に求婚されますが、その中でも特にしつこ…いや、熱烈だった貴人達5人に「私が今から言った物を持って来た人と結婚する」と言って無理難題を吹っ掛けます。
この5人の貴人の内「石上」という人物は「燕の子安貝」を命じられています。
ちなみにこのアイテムはツバメが安産と子育てのための御守りとして巣に安置しているとされており、「子安貝」は大体「タカラガイ」の事を指しています。
石上は大炊寮にある大八洲という小屋でツバメの巣を見つけると屋根を登ってツバメの巣から何かを掴みます。しかし掴んだのはツバメのフンでした。
一説では大八洲に飾ってあった大釜を従者に釣瓶方式で引かせて自身はその上に乗って子安貝を狙ったが、手に入れたと思って気を抜いた瞬間にバランスを崩して大釜から落ちてしまい子安貝を得られなかったショックとケガで衰弱してしまったという話もあります。
⑤逸話も多い!
ツバメは身近な野鳥であり、その姿の美しさや飛行能力は凄いものであると認知されてきました。
巌流島で武蔵と戦ったとされる剣豪・佐々木小次郎は「燕返し」という剣技を持っていたと伝えられています。
この燕返しは打倒武蔵のために鍛練をしていた時に編み出されたと言われており、抜刀と太刀筋のあまりの速さにツバメが避けきれず斬られてしまったという逸話があります。
また、「雀孝行」という逸話ではスズメとツバメは昔は姉妹でしたが、親が危篤状態になったと知った時それぞれ対応が違いました。
スズメは見た目も気にせず全力で親の元に駆けつけたため死に目に会う事ができましたが、ツバメは見た目を気にして紅をさすなどの化粧をしてから来たため死に目に間に合いませんでした。
これを見ていた神様は、見た目を気にせず親孝行に尽くしたスズメには五穀を食べる権利を与え、見た目ばかり気にして親不孝をしたツバメには虫しか食べられないようにした、という物語になっています。
⑥海外でも愛されている!
日本でも昔話や逸話が多く、存在自体が広く愛されているツバメは海外でも親しまれておりエストニアやオーストリアでは国鳥に指定されているほどです。
そんな人気者であるツバメは海外のおとぎ話でも度々登場します。
童話「親指姫」では、モグラに拉致された小さな可愛いお姫様がモグラの巣で弱っているツバメを見つけて元気になるまで介抱します。
親指姫のおかげで元気になったツバメはお礼に親指姫を背中に乗せて南の国へ渡り、そのおかげで親指姫はモグラから解放され南の国の王子様と幸せに暮らしたという物語です。
また、「幸福の王子」という物語では1羽のツバメが悲しむ王子像の願いを聞き、王子が身に付けていた宝石や金箔を無辜の民達に配ります。
ツバメは王子像の両目が無くなった段階で渡りを辞め、命をかけて王子像に尽くして冬に静かに散っていくという内容になっています。
この話にはもう少しだけ続きがあるのですが、気になる方は是非読んでみてはいかがでしょうか。
⑦ツバメを守りたい、もっと知りたいという方はコチラも要チェック!
シンプルな配色なのに美しい、小さいのにカッコいいといった不思議な小さな野鳥・ツバメですが、彼らの事をもっと良く知りたい、守ってあげたいと思った方は「公益財団法人 日本野鳥の会(https://mobile.wbsj.org/activity/conservation/research-study/tsubame/ )」も是非チェックしてみてください。
こちらではツバメのパンフレットやねぐらのマップも配布しており、よりツバメに詳しくなれますし彼らの愛らしさをもっと知る事ができます。また、ツバメとの共存のためにできる事も教えてくれるのでオススメです。
まとめ
今回は世界中で愛される小さな渡り鳥・ツバメについてご紹介させていただきました。
ツバメは春になると空を颯爽と飛び回る事から今では卒業生や新入社員のイメージとして捉えられる事も多い野鳥でもあり、より親しみ深い存在になっています。
また、バードウォッチングの難易度も低いため初心者にもオススメです。
また、公園などの身近な場所でその姿を見られ、独特の囀ずりを聞けるので気分をリフレッシュしたい方やちょっと自然を感じてみたいという方にも是非見ていただけたらと思います。
その一方で、ツバメは数を減らしているという悲しい現状があります。
理由は様々ですが、ツバメとの関係は先人達が築き上げてきた「自然との共存」の形であり、多くの野鳥に当てはまる理想形です。
そんな素敵な関係を壊す事なく続けられれば、彼らにとっても私達にとっても未来は明るいのではと思います。
作物を荒らさず虫を食べる益鳥としての一面、電線やケーブルの上で誇らしげに囀ずる姿、夫婦で協力しあって子育てをする様子などツバメの魅力は執筆しきれないほど深くて広いです。
そんな小さな旅人ならぬ旅鳥を、この機会に是非観察してみてはいかがでしょうか。