静岡住みだと連日耳にするのが、中央新幹線の静岡区間にあるトンネル工事で起こりうる大井川の減水問題。
揉めている理由は「水を戻すか戻さないか」とだけ報じられているので、こちらとしては原因と解決策がサッパリ。
あいつら何時間を無駄にしてんだ……の気持ちである。
大井川流域で渓流釣りを嗜む方々も行く末を気にしているだろうので、県の資料を基にして重要点を洗い出してみた。
南アルプストンネル工事で起きたJR東海vs静岡県の構図
2018年10月現在のところ、中央新幹線「品川-名古屋」区間で工事見通しが立っていないのは、大井川上をトンネルが渡る静岡県の区間のみ。
静岡に通るのは全路線のごくごく一部で”かする程度”だし、正直いって見苦しいほどのゴネっぷりである。
リニア中央新幹線の工事内容で見れますが、半ば嫌がらせのようにポッカリあいてます。
分かりやすいように加工(嫌がらせ)
……こうして見ると、静岡県の邪魔っぷりが半端ない。
南アルプスをぶち抜く難工事である現ルートは、初期は山を迂回するのも想定されました。でも最高速維持と事故防止でなるべく直線がいいだろうと、現ルートで決定された。
自然破壊も懸念されますが、保安も考え大半が地下トンネルになるのと、現代の世論がそれを許さないのはわかりきっているので、工事側もそれは十分留意しています。
すでに着工準備を開始した所も多く、これ以上遅らせると、たった9年後の2027年開通は不安になってしまう。
蚊帳の外からすれば、「リニアは通るけど停まらない静岡県のねたみ」みたいに見えるわけですが、あがくのもちゃんとした理由があるわけです。
それがトンネル工事による大井川の水量減少の懸念です。
もともと水量が少ない大井川源流
東名高速や電車でも、大井川を通るたびに「……なんか水少なくね?」と思うことが多い。
大井川はもともと湧水量が少なく、雨が少ないと流域はもれなく節水が迫られる地域。日照りが続く夏期に訪れると、河口域ですら小川レベルになっているのも、やむおえないわけです。
南アルプストンネルの工事では、大井川源流の下を通すので、トンネル内に河川が湧水として流れ込む可能性が高い。そのため元来の水量が減る懸念があります。
それはJR東海側の試算で毎秒2トン。
──そのまま減水量に繋がるわけだから、河川が枯れる想定も考えられる。
流域の節水が恒常化すると、農業にとって損害になるし、飲料水の確保が難しくなれば民家だけでなく工場にとっても問題になる。
上流域が渇水すれば、渓流の水生生物が減少する理由になるし、わりと有名な大井川のイワナ釣りが死活問題になってしまう。
渇水しても洪水対策にはならないし、流域で生活する側にとってひとつも利がないのが、トンネル工事での減水問題です。
その対策がトンネル内の湧水をすべて河川に戻すこと。
聞けば至極当たり前に聞こえますが、工事をする側にとっては違う話になります。
湧水を戻すにもカネがかかる
トンネルは河川の下を通るので、湧水を排水をするには低い場所に通す必要があります。
2018年10月18日現在、JR東海はトンネル内湧水をすべて河川に戻すと決めましたが、当初は一部をポンプで大井川へ戻し、あとは山梨県へ排水する方針でした。それがわかりやすい資料がこちら。
静岡県内に通るトンネルは、標高差で湧水がほぼすべて山梨県側に流れてしまいます。
一部を大井川に戻すのは、当初の予定だと西俣非常口のついでと椹島排水口だけ。
山梨県側に流れるのは一部をポンプで椹島に戻す想定ですが、工事をする側としてはぶっちゃけ面倒です。
静岡県を納得させるなら、県内のトンネルに湧く水を、すべて大井川に戻す必要があります。そうするには山梨県境から長野県境近くまで、ポンプで水を吸い上げる導水路整備と電力確保をしなければならない。
別にそこまでしなくとも、高低差で他所に排水すれば電力はいらずコストは抑えれるし、掘り進めるにはそのほうが合理的です。
なぜそこまでしないといけないかは、大井川流域の水資源を保つためであります。これが県民の意向。
工事をする側としては、予定工期と予算内で終わらせるため、「ある程度の減水は仕方ない」と折れて欲しい。
これが揉めていた理由でしょうね。
世の中カネやろな
というわけで、揉めている2者をなんとか収めるには、折衷案なり妥協案を考えないといけません。
静岡県は「トンネル湧水をすべて戻せ!」といっているわけで、それなら県内区間の湧水ポンプアップ方式技術の確立と、人員などの費用を融通する必要があります。
仮にそれなら、県予算なり市予算から捻出する必要があり、税金の正しい用途か? 本当に必要か? などと議会で精査したうえで可決されてから実行できるので、決定まで遅くなります。
工事するJR側としては、初期予算から身を削って捻出する必要があるし、国から着工は認められているし負ける要素がねぇ、でわりと強気にでれるわけです。
──んで、着地点は「水量回復を約束」することになりました。
工事側としては面倒な結果となり、県側としては万々歳であります。
おそらく互いの予算計上と、工事内容のリスケに目途がたったのでしょう。工期の遅れで開通が遅れると、この区間がバッシングされるだろうと推測できますね。
黒部ダムの難工事だった破砕帯も、時が経てば観光に利用されていたりします。
湧水を分けてもらい、南アルプスの天然水として売り出して路線保持の予算に回す──なんてことも考えることができます。
報道はうわべだけだけってことがよくわかる
ニュースや新聞は連日「水を戻す・戻さない」報告だけで、なぜそう揉めているのか? は不透明だった。
工事内容を知れば山梨側に排水すれば絶対に楽なのがわかる。駅もない静岡区間にわざわざ湧く水をすべて大井川に戻す無理ゲーを強いられるのはいかがなものか? と思うようになる。
なぜそうしなければならないかは、通常でも渇水気味な大井川から毎秒2トン減らすと、流域の農業と市民生活に支障がでる可能性が明らか、というわけです。
これが高度経済成長期ならば、ゴリ押しで工事を進めて自然を蹂躙していたでしょう。
豊洲市場もそうでしたが、環境に配慮した着工と見直しが進む現在は、住民にとってかなり恵まれていると思うし、着工側からすればかなり厄介でしょうね。
行間を読むのが美徳とされるけど、こればかりは自分で背景を調べないとわかりませんね。
地域新聞は地域の味方でもあるし、着工するJR側の意見が全然入ってこなかった。
記者会見でのらりくらりとかわすJR東海の社長を、もはや元凶のようにとりあげていた。
今思えば互いの着地点を交渉中だったから、不透明な返答で余計揉める自体を避けたいからそうするしかなかった──と汲み取れる。汲み取れるんだけど、あの記者会見は民意にとって逆効果すぎただろうなと。
我々が預かりしらないところでは、接待や会議で交渉してたんだろうなぁと。
そこから連想されたのは『交渉人 真下正義』でした。懐かしい。
そのうちリニア新幹線で、500km以上を維持しないと爆発するアクション映画とかでそう。
品川-名古屋間で所要時間が約1時間30分程度なんですが、日本映画の爆破といえばコナンくんなので、超ハイスピード推理バトルを期待しています。
ジンニキが運転席にいそう。
※参考資料
リニア中央新幹線整備に係る大井川の水資源減少問題の概要|H30年8月静岡県