浜名湖からアサリが減った原因トリプルスリーを論破する【人的被害編】

 

前編ではトリプルスリーのうち2つを取り上げました。

ひとつは「他の生物による食害」、もうひとつは「水質環境の変化」です。

最後に残されたのは、「人的被害」による原因。

 

「浜名湖の潮干狩りはなぜ毎週のように開催されるのか?」

地元民は大抵知っていることですが、日経ビジネスがそこを切り込んでくれているので、説明がしやすくて助かります。

 

【前編はこちら】

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浜名湖は汽水湖という常識も過去の話

そもそもアサリは「汽水域」を好みます。

干潮時に露出する「干潟」に卵が着底し繁殖する生物なので、河口など遠浅になりやすい区域に多く生息しやすい。

そのどちらかが失われると、数は減少していくわけ。

 

浜名湖は汽水湖として有名ですが、塩分濃度は年々上昇傾向にあります。

それは全国どこの汽水域でも顕著になっており、生態系の変化も危惧され続けている。

そうなった原因を作り上げたのは、他ならぬ「人間」です。

今切口の導流堤が完成したことで塩分濃度上昇が加速した説

浜名湖の海水化が進んだのはなぜだろうか?

それは「今切口の導流堤により、潮汐で海水循環がよりよくなったため」がひとつ。

もう1つは、「流入河川の治水工事などによる水量低下」がある。

 

どちらにも共通することは、「人々の生活を守るために建設した物」であること。

これらを説明するには……よろしい、また論文だ。

 

論文 浜名湖今切口の固定化による湖内の潮汐と海水交換特性の変化

 

この工事は1954年から約15年かけて行われ、現在は魚釣りで盛況な堤防として親しまれている。

導流堤が無ければ新居の海釣り公園は存在していないし、「魚釣りのメッカ」として観光財源になることもなかったのかもしれない。

工事着工を境に、塩分濃度と海水交換率が上昇していき、生態系の変化なども危惧されたのだが……。

 

 

グラフで見てもわかるとおり、着工の1954年以降、露骨なほど急激に変化が訪れている。

しかし、アサリの減少した理由にはならない。

むしろ海水流入で循環がよくなって水質が向上、水を濾過する役目を果たしているアサリ自体の質が飛躍的に向上した。

大粒になって味も有名となり、「浜名湖のアサリ」ブランドを確立しつつ価格が上昇。

新規の採貝業者も増えていき、ますます水産業は伸びていく──と思われた。

 

過剰な採取によって、資源はみるみるうちに減少していく。

海の水質を維持していた貝類が、同時期に全国で減少していった。

それらが採取されつつ、生息しにくい状況が重なったことで、環境悪化が促進されていくこととなる。

 

その前兆は全国的にいうと1950年代後半から。

浜名湖で減少が顕著になりはじめたのが1990年代となる。

汽水湖に真水が流れこまなければただの海になるやろ?

導流堤により、浜名湖の海水化を進行させる一手が起きた。

それを更に促したのが流入河川の治水工事です。

 

1971年、湖内に流入する最大河川である、『都田川』のダム建設がはじまる。

このダムは1986年に完成、湖内に流れ込む真水は減少していき、塩水化が加速。

昔は弁天島まで汽水だったのが、今では河川に近い湖奥の一部だけに。

浜名湖はほぼ全域「海」と変わらなくなり、現在では奥浜名湖でも「幼ブリのナブラがやべえ」「デカアジが釣れる」なんて状況になっている。

 

結果として、汽水の浜名湖に戻ってくるはずのシラスウナギも減少。

成魚にとっても生息しにくい環境となり、「浜名湖のウナギ」ブランドは衰退していく。

だからといって、「治水工事が無ければよかったのか」というわけでもない。

 

それらが整備されていなければ、台風のたびに舞坂や新居の沿岸が波浪に悩まされる。

今切口周辺は、堆砂で航路が機能しにくくなり、漁業も難航する。

ダムが無ければ山間部をはじめ、地域は水不足に陥り農作物の成長もままならないし、下流側は洪水に悩まさることになる。

 

防災の予防線を張るのは、今も昔も上手だったわけですが……

アサリが減った最もたる要因は、「増えにくい状況で調子こいて獲りすぎた結果」です。

水産資源の減少は「乱獲」に「水質汚染」が重なってしまったため

これはアサリだけではなく、どの水産資源にもいえること

 

1970年代をはじめに、年々国内で水揚げされる水産物は現在も減少傾向。

水産資源保護のパイオニアである米国と欧州は、その時期と同じく日本と同じ問題に直面した。

自らの過ちを認め、厳格な管理の元、今では稼げる漁業になったのだが……

 

日本は環境変化を言い訳に、「おかしい、おかしい」と思いつつも獲り続けた結果。

それが現在のありさまです。

 

水質汚染が進んだのは高度経済成長期である1950年代頃から。

河川や海が工業・生活排水などによって汚染され、人体にも影響を及ぼし、水中生物が死滅していく中、悪魔のタイミングで漁業の効率化が進む。

「生まれる数≒採取する数」だったのが、「生まれる数<<<採取する数」となってしまう。

 

「広大な海から生物が居なくなるはずがない──」

そう信じつつ、21世紀を過ぎた今でも呪いとなって、自ら減らしていることに目を背け続ける。

『死の海』と揶揄された東京湾も、現在はハマグリやシジミが普通に採れるほど回復した。

それだけ取り上げれば美談であるし、「人が協力する力ってすごーい!」と、感動ポルノになるわけです。

 

浜名湖の漁業を傍から見ていると、過去に囚われ未だに迷走し続けているよう見えるんですよ。

それは全国的にもいえること。

ですが、回復を遂げている漁場は、おどろくほど認知されていません。

潮干狩りで捕られるアサリの量を知っているかい?

公害による水質汚染も、元を辿れば人的です。

政府や水産業は、「自然だからしょうがない」と逃げ続けており、乱獲を含めた人的被害は、口止めでもされてんのかと疑うくらい言及されません。

 

浜名湖の潮干狩りは観光財源として重用されています。

しかし、どれだけのアサリが採られているのかは、明確にされていなかったりする。

よろしい、ならば考えてみよう。

5万人が1人あたり2kgのアサリを持って帰るとどうなる?

ニュースのソースを見る限り、近年の浜名湖では「年間約5万人が潮干狩りを楽しんでいる」らしい。

アサリ採捕は制限があり、それは1人当たり2kgまで

単純計算でバカ正直に「どれだけ採られたか?」を考えると、年間100トンに及びます。

まあ現実的に、全員がそれほどこんもり採れるわけないから、「5万人のうち3割が2kgを持って帰る」としても、30トンになります。

 

しかしこれは管理された潮干狩り場だけの話

沿岸レジャーなど、潮干狩りではない採捕を含めれば、管理外で倍以上採られている可能性は捨てきれない。

ウナギやマグロも同様に、管理外での密漁が横行するおかげで、明確な資源量と消費量が算出できず、資源管理が難しい状況となっています。

水辺で昔から続く「捕れるだけ捕る!」精神

私は釣り人に関して、「資源管理意識の縮図」みたいに感じています。

マズイといわれる魚はリリースされ、高級魚やウマイと評判の魚は問答無用で胃袋にブチ込まれる。

──それでよく「自然に感謝!」といえるな~と感心する。

 

釣り人の中には、「釣り辛くなったのは俺たちのせいかもしれない」と考える人もいるし、「漁師が獲りすぎたせいで魚がいない」と考える人もいる。

釣りに関するゴミを拾う人が居る一方で、そのゴミが落ちているということは捨てる人もいる。

「たくさん釣れたけど家族分だけにしよう」と釣りすぎない人もいれば、「入れ食いでたのしー! こんなに釣れちゃいました!」と魚を絨毯敷きにして公開する人もいる。

 

まあ「どちらの考えがより正しいのか?」は、人それぞれ導き出される。

その人にとっての正義を変えるのは、勇者がレベルをあげて魔王を倒すより難しいのですよ。

一度は絶滅の危機に瀕した有明海のアサリ漁が復活する

生鮮食品でよく見るアサリは、浜松市ではなぜか「九州産」がメイン。

人ひとり輸送するにおいくら万円かかる九州から運ばれるアサリが、地元浜松で採れるアサリより「安い」のはなかなかどうして、市場価値というのは不思議である。

有明海は既に「アサリの絶滅危機」を経験しており、数十年をかけた努力のうえ、アサリ漁の復活を成し遂げ、今回の記録的豊漁を成し遂げている。

 

有明海アサリ漁再開 十数年ぶり西南域で一部 地元漁業者、再生へ期待|経済・農業|佐賀新聞ニュース|佐賀新聞LiVE
佐賀県沖の有明海西南海域で、アサリ漁が十数年ぶりに一部再開された。2000年代に入り、周辺海域で稚貝の大量死が相次ぎ、本格的な漁は休止されていたが、昨年末に大幅な増加が確認された稚貝が順調に生育し実入りも上々。地元の漁業者は「これほど採れるのは久しぶり。有明海再生の第一歩になれば」と期待を膨らませる。 大潮にあたる今月...

 

浜名湖と時を同じくして明確化された有明海のアサリ不漁は、原因として諫早湾干拓事業が原因と考えられていた。

しかし、資源量はそれ以前から減少傾向だったことが判明する。

それは記事中でも言及されている「乱獲」で、水質悪化による成長阻害の環境変化も。

親貝が減りつつ、稚貝が成長できない海が生み出されれば、個体数の減少は当然の結果だろう。

 

今でもアサリの水揚げ量は、全国的に減少傾向です。

有明海では20年以上前から養殖や漁場改善など、全国でも先端を征くアサリ保護に取り組んでいた。

それが実を結んだのは去年のこと。

 

前回で紹介した通り、九州地方での「アサリ保護研究」の事例はいくらでも出てくるものの、浜名湖は、その原因は未だに「ワカラナイ」という。

「アサリがタケノコみたいに毎日生えなくなった」とハッピーな考えをお持ちなのだろう。

 

浜名湖内の漁獲総額においてアサリなど採貝は、全体の50%以上を占めている。

採れなくなれば浜名湖の漁業は壊滅するに違いない。

「潮干狩りをすれば無料でアサリが食べれる!」なんて考えは、今の浜名湖だけでなく、漁師すら食いつぶす考えに他ならない。

むしろ無料で獲れる考えこそ、資源を食いつぶす原因だと、いい加減気づいて欲しい。

「アサリ確保の目途がつかないから潮干狩り止めます」

アサリの生態について、どれだけの人がちゃんと理解しているのでしょうか。

詳細となれば長くなるので簡潔にいうと……「水中に産卵され孵化した幼生が、数週間を経て着底し、それが成長した物」そして汽水域を好みます

 

アサリは稚貝から成貝に成長してもほぼ動かない生態。

ほぼ移動しないなら、「なぜ潮干狩りが毎日のように成立するのか?」という疑問も生まれます。

ポコポコ砂からタケノコみたいに生えてくるわけではありません。

地元民のほとんどは「潮干狩りがどのように運営されているのか」の実態を知っているでしょうけど、ようやく公の場でゲロッたので、堂々と書くことができます。

 

浜名湖の潮干狩り中止、「汚れたからではない」 吉村 理利氏[浜名漁業協同組合組合長]
浜名湖の夏の風物詩として知られるアサリの潮干狩りが中止になった。毎年不足分を購入して補っていたが、全国的なアサリ不漁で確保が困難に。主催の浜名漁業協同組合は、アサリが少ない状況下では不誠実だとして実施を断念した。

 

一部を抜粋すると──

 

潮干狩り場のアサリは1日でその大半が取りつくされてしまいます。4000人が1人1kg取ったとしても1日で4トンがなくなる計算になります。浜名湖の漁師が湖の別の場所で取ったアサリを多い日で4トン漁協で買い上げて、潮干狩り場にそのアサリをまいて補充するということを毎日やっていました。

 

ようするに、「湖内で採れたアサリを組合が買い取り、それを直前に撒く」ことで、潮干狩りを楽しめているわけ。

なので管理された潮干狩り以外で採貝されることは、漁業のみならず、浜名湖にとっても損でしかない

 

現在は採貝者も年々厳しい制限をかけられており、管理されている中でアサリの水揚げ量は約1400トン(H25年)とされている。

たった10年前はその倍以上の約3700トンが水揚げされており、昭和57年から平成21年まで、水揚げ量だけで見ればほぼ横ばいだった。

それが急激に減ったのは、平成24年からのこと。

それは自然による被害が大きく、親貝は死に、稚貝がほぼ育たなかった環境もあった。

一時的とはいえ、浜名湖のアサリはほぼ絶滅したかのように映る。

 

同年、戦後初の潮干狩り中止を迎え、浜名湖はアサリの漁獲制限に本腰を入れる

その転換点となった年は、過去最低値の水揚げ量だった。

翌14・15年は再開したが、16年には更に最低値を更新してしまい、17年度はそれを更に割り込む可能性が危惧されている。

 

漁獲制限後の水揚げ量は、資源管理を伴う公表値なので、閾値を超えない限りは、水揚げ量は横ばいとなる可能性は高いはず。

だが現実としては、減少を辿っている。

採られたアサリはどれだけ回復する見込みがあるのか

水揚げ量の一部は「潮干狩り場のため」が含まれており、ざっくり計算した「潮干狩り場で消費するアサリ」から考えると、観光客のために湖内のアサリ約1割が消費されていることがわかる。

管理されていない場所での採貝は行われているし、密漁の数値は未知数。

前編で紹介した論文の中では、こんな一例もある。

 

干潟全体の成貝資源量は、7月から10月にかけて約1,100万個体から2,500万個体に倍増した。2007年は、4月から7月にかけて主に潮干狩りによる持ち出しで約2,000万個体から1,100万個体に減少し、その後、9月にかけては2006年と同様に、約1,600万個体に回復している

アサリ資源の保全のための効率的なアオサ回収方法の検証

 

1ヶ月で300万個も減るとか、潮干狩りの威力マジパナイ。

ここで注目すべきは、個体数約2,000万から1,100万に減少してから、約500万個体が過去と同じように回復している

裏を返せば、1,100万個あっても、その約半数しか回復能力がないことにもなる。

 

各地の潮干狩り場を継続させるため、他の地域からアサリを買っているところは多い。

経済の循環に思えるが、全国的に資源量が目減りする原因ではないか、とも考えられる。

年々高水温が続き、河川は治水によって水量が減り続け、現在の干潟は過去と違う。

アサリだけではなく、「生物が生息しにくいただの浅瀬」となっている。

 

全国的に潮干狩りは、ここ数年は低迷を続けている。

季語としての“汐干狩”も、やがて認められなくなるかもしれない。

【密漁=使途不明金】総資産で考えるザルな資源管理

国の資源管理は、「予想される資源量」から建前上の「回復目安」を考慮している。

ようするに管理側としては、「管理されている範囲内で操業されている限り、著しい減少を引き起こす可能性はありえない」数字で信じるしかないわけ。

そのため不漁の原因を、ワカラナイというしかない状況を作り出している。

 

遊漁としての、自由すぎる魚釣りや採取。

金銭目的の密漁が横行し、管理外の消費がブラックボックスとなっている。

 

そこを暴くのが管理側のトップである行政機関がするべき。

でも、どこの地域も改善へと動いたのは地元の漁師達

浜名湖も数年前のアサリ不漁から、漁師達は稚貝の養殖や放流によって保護に動き出しはじめている。

 

その努力が実るのは数年後か、有明海と同じく数十年後か。

それを手助けし、期間を短くできるのは、漁業に携わらない人たちの小さな努力からだろう。

消費しない勇気、我慢も時には必要です。

※参考

 

 

多くのサイト、論文を参考にさせていただきました。

この場を借りて感謝申し上げます。

 

記事をまとめるには6時間ほど費やしていますが、情報を探して精査するだけなら、1時間ちょっとしかかかりません。

釣りブログにあるまじき「残業時間の見直し」の記事でもいってますが、見出しや記事内容だけで全貌を解った気でいる人達が多いのが現状です。

情報が多く錯誤する社会において、自ら真意を求めていく姿勢が、解決への糸口として最短ではないかなと考えています。

 

浜名湖からアサリが減った原因トリプルスリーを論破する【自然被害編】
アサリの深刻な不漁により、今年も浜名湖の潮干狩りは中止となりました。 そういうニュースは地方新聞が真っ先に取り上げるわけで、私の耳にも入ってきたのですが──アオサの異常繁殖からの腐敗、クロダ...
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海釣りがメインで、たまに淡水もやります。2018年は身近な浜名湖で、ポイントを転々と釣り歩いてマッピングしたい所存。

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